2025/3/21

心と体が整うマインドフルネスの認知・習慣化をスマホアプリで推進

Upmind株式会社 | 代表取締役CEO 箕浦 慶

2024年度の第10回1stRound支援先の一つであるUpmind株式会社は、心に余白を持つことの習慣化を支援するために、2021年5月に創業。心と体が整うマインドフルネスアプリ「Upmind」の開発・運営を行っており、100万ダウンロードを突破。マインドフルネスという新しい健康習慣を広げていくために、アプリ以外にも、東大・滝沢龍研究室との共同研究や、2024年からは法人向け事業にも着手している。代表取締役CEOの箕浦慶氏に、事業の概要や優位性、起業に至った経緯、今後の展望などを聞いた。

スマホのカメラで自律神経の状態を計測し、瞑想コンテンツで整える

―まず、Upmindの事業について教えてください。

箕浦:「人々の人生と心を豊かにする」をミッションとして、マインドフルネス関連のサービスを開発しています。主なサービスは「Upmind」というヘルスケアのスマホアプリで、これまで100万人以上にダウンロードしていただきました。スマホのカメラで自律神経の状態を計測できたり、自律神経を整えるためにマインドフルネスの瞑想や評価が簡単に実践できます。

そのほか、法人向けに従業員の健康増進プログラムを提供したり、東京建物のオフィスビルやグランドハイアット東京などのホテル、大阪に開業予定(25年3月21日)の健康増進施設などの施設利用者に、マインドフルネスを手軽に体験いただけるような空間の監修・開発も行っています。

―他の瞑想/睡眠アプリやウェアラブルデバイスとの違い、優位性は何でしょうか。

箕浦:健康管理で大事なのは、自分の状態を正しく把握し、それに応じて適切な改善習慣を取り入れることです。しかし、日本ではヘルスケアに対する意識がそれほど高くありません。だからこそ、自分の状態を把握し、状態を整えるための方法を、誰でも手軽に実践できる形で提供する必要があると考えています。

そして、自身の状態を把握する方法としてはウェアラブルデバイスもありますが、まだ多くの方には普及していません。その点、「Upmind」なら多くの人がすでに持っているスマホだけで完結できるのが特徴です。

また、状態を整えるためのサポートとして、マインドフルネスでは誘導する声の質が重要です。「Upmind」ではその点にもこだわり、1~2分の短時間から実践できるコンテンツも豊富に搭載しています。

このように、「Upmind」は自身の状態把握と調整におけるハードルを大きく下げ、スマホだけで改善までを完結できる、あまり例のないサービスであることが優位性です。

―技術的な優位性はどうでしょう。他社に参入されるリスクはありませんか。

箕浦:スマホのカメラで自律神経の状態を計測できるというのは、当社ならではの強みです。私自身がエンジニアとして、英語の論文などを読み込み、創り上げました。

ウェアラブル型のスマートウォッチは本体裏側からLEDライトを出して心拍を計測しています。心拍に合わせて血流中のヘモグロビン量が変化し、その結果光の吸収度合いが変わる原理を利用し、その変化で大まかに計測しているのです。「Upmind」ではこの原理を応用し、スマホのカメラで指の画像を読み取りながらフラッシュをたくことで、その光の吸収度合いから心拍を測定しています。

さらに、安定した計測ができるよう独自の技術を作り込んでおり、他社が真似できるものではないと自負しています。

―法人向けの事業を始めた背景や現在の状況を教えてください。

箕浦:B to Cのスマホアプリだと、何か興味を持つきっかけなどがあって能動的に調べないと、このサービスまで行き着きませんが、法人との取り組みではそこまで能動的ではない人に対してもきっかけづくりができるので始めました。

たとえば、法人の費用で従業員が健康増進プログラムを無料で使えれば、費用面のハードルが下がることで興味を持ってもらいやすくなります。健康経営の観点で歩数アプリなどが導入されたりしていますが、マインドフルネスについても企業から注目され始めており、今後に期待しています。

オフィスビルとの取り組みではリフレッシュできる個室を設けてあり、そこでタブレット端末を操作してプログラムと時間を設定すると音声ガイドが流れて瞑想ができ、脳を休められる体験を提供します。大阪の健康増進施設の取り組みでもそうした空間があり、時間になるとプログラムが流れてきて体験できる仕組みです。このように、体験できる場所を日常生活の空間につくることを意識して取り組んでいます。

法人事業展開にあたり、パートナー企業とのネットワークに期待

―2021年5月にUpmindを設立されていますが、起業に至った経緯を教えてください。

箕浦:東大では経済学部に入りましたが、1年次からチームラボでインターンをしていました。そこで、世の中や人の体験を変えていくのは「ものづくり」だと思うようになり、自分でも新しい時代のプロダクトを創れるようになりたいと思いました。そうした思いから、3年次で工学部へ転部したのです。その後、1年間休学してインドに渡り、そこでマインドフルネスに出会いました。

卒業後はそのままチームラボに勤めましたが、良い継続したサービスを作るにはビジネスの視点も重要だと考え、1年半で経営戦略コンサルティングファームのベイン・アンド・カンパニーに転職。そこで中期経営計画の策定や顧客満足度向上などのプロジェクトを経験しながらビジネスの知見を深めました。そして4年後、退職してUpmindを設立しました。

起業したのは、「自由に生きていきたい」という考えがまずあり、その選択肢の一つだったという感じです。どの領域で起業をするか決めるにあたり、自身でも忙しい現代に役立つスキルとして効果を実感していた、マインドフルネスを世の中に広めていきたいと思いました。その手段としてスマホアプリを作り、創業から2ヶ月で最初のアプリをリリースしています。

―2024年度の1stRoundに応募された理由は何でしたか。

箕浦:法人事業を始めようというタイミングだったので、事業の建て付けや資金面などでアドバイスが得られればと思いました。実際、弁護士などの専門家からのサポートが得られ、法人との契約書関連で助かりましたね。

あと魅力だったのは、大手企業とのネットワークです。当時、当社はB to C事業での実績はあったものの、法人事業を進めるうえではB to Bでの事例が必要でした。1stRoundにはさまざまな業界のトップティア企業がパートナーとして参画しているので、そうした企業を紹介してもらえるのが大きなメリットでした。実際に5社ほどとやり取りをし、その1つである阪急阪神ホールディングス様と、現在実証実験を進めさせてもらっています。

―そのほか、1stRoundに採択されて役立ったことを教えてください。

箕浦:「1stRound BASE in 東大前 HiRAKU GATE」のシェアオフィスを使えるのがありがたいです。それまで当社は五反田のバーチャルオフィスだったのですが、社員も増えてきたので、集まる場所が必要になっていました。今は、基本はリモートワークですが、週2回オフィスで顔を合わせて仕事をしています。その場所を提供していただけました。

マインドフルネスを、ランニングのように広く習慣化させたい

―事業における今後の展望を教えてください。

箕浦:マインドフルネスの体験の場を広げ、認知を進めていくために、グローバル展開とアスリート向けの新サービス立ち上げを考えています。

グローバル展開については、特に北米を視野に入れています。海外ではすでに多くの人がマインドフルネスを習慣にしており、大きな市場があります。マインドフルネスに特化したアプリはあるけれど、「Upmind」のように状態の見える化・整える部分までトータルでサポートしているサービスは意外と少ないので、チャンスがあると考えています。すでに英語版アプリの開発に着手しており、グランドハイアット東京では宿泊者向けに日本語・英語版の両方をダウンロード提供できる取り組みを2025年2月からスタートしています。

アスリート向けの新サービスは、マインドフルネスがアスリートのパフォーマンス向上に役立つとして注目されているのを背景に、現在準備を進めているところです。

最終的に目指すのは、マインドフルネスをランニングのように、多くの人が認知し、習慣になる状態にまで一般化していきたいということです。マインドフルネスは誤解されやすいのですが、決してスピリチュアルなものではなく、脳科学に基づくエビデンスのある健康法です。そうした正しい理解の啓発を含め、認知拡大を進めていきたいですね。  

―いま社内の体制はどのようですか。

箕浦:正社員が5名ほどで、業務委託が10~20名です。採用は知り合い経由が多く、特に正社員は全員が自ら問い合わせをしてくれたメンバーです。もともとアプリのユーザーだった人が多いですね。現在はバックオフィス、法人事業、アスリート向け事業、グローバル展開などをそれぞれ担当してもらっています。

一緒に働くうえで最も大切にしているのは、当社で提供していきたい価値や考え方への理解があることです。ですから、メンバーにもマインドフルネスの習慣を継続してもらうようにしています。自分たちのサービスで伝えたいことを、自分でもやっていなければ、いくらスキルが高くても良いものは作れないと思うので、そこは大事にしています。

たとえば、社員の一人はハーバード出身のアスリートで「Upmind」のユーザーだったのですが、アスリートとしてマインドフルネスに強い興味があり、広げていきたいという思いからジョインしてもらいました。

そんな風に、単にお金やキャリアを求めるだけでなく、マインドフルネスに価値や興味を感じてくれるような方と、これからも一緒にやっていきたいですね。 

―最後に、起業を考える方へアドバイスをお願いします。

箕浦:起業初期には、純粋に「こういうことをやりたい」というピュアな気持ちがあると思いますが、資金調達をしたり、事業が進んでいくうちに、「何かを達成しないといけない」「売上を上げなければならない」といったプレッシャーに追われ、当初の思いから離れてしまうことも少なくありません。だからこそ、忙しいなかでもちゃんと自分を整える時間を持つことが大切です。そうすることで、自分らしい決断ができ、初心を忘れずに進み続けられると思います。自分が本当にやりたいことを見つめ直せるような、心に余白を作る時間を持ってもらえたら嬉しいなと感じます。

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