2025/3/31

自動運転トラックで物流革命を起こし、日本や世界の物流シーンを救う

株式会社ロボトラック | 代表取締役CEO 吴 楠

東大IPCでは、「協創ファンド」「AOI1号ファンド」を通じ、国内外70社を超える大学関連のスタートアップに投資を行っている。その投資先であるスタートアップの経営者が描くビジョンや展開するビジネスの魅力、可能性について語ってもらうシリーズの第3回目は、株式会社ロボトラック。米国の自動運転トラックのリーディングカンパニー TuSimple(トゥーシンプル)の日本法人から技術メンバーを中心に、2024年4月に創業したロボトラック社は、2025年3月に東大IPCより1億5000万円を資金調達している。代表取締役CEOの吴 楠(ナン・ウー)氏(と、投資担当者の水本尚宏氏)に聞いた。

レベル4の自動運転トラックの実証実験から社会実装を目指す

―まず、ウーさんの経歴やご経験を教えてください。

 ウー:早稲田大学で自動運転の研究開発を行った後、2016年にTuSimpleに入社しました。TuSimpleはカリフォルニア州サンディエゴを本拠地とする自動運転トラック分野のリーディングカンパニーであり、2021年12月には、米国で世界初の「道路上の他車両と自然に共存しながら走行可能な、完全無人自動運転トラックの公道試運転」に成功しています。私はその日本法人で代表取締役社長を務め、米国と同様に日本でもレベル4の自動運転トラックによる公道での実証実験などに取り組んできました。

―新たに日本で、ロボトラック社を創業したのはなぜですか。

ウー:早稲田大学では北九州キャンパスにいたのですが、北九州市は日本の中でも特に少子高齢化が進んだ街の一つであり、市民の多くが60歳以上でした。そうして、世界でもいち早く少子高齢化を迎えた環境で、その深刻さを実感してきました。

そのなかで日本の物流業界は、トラック運転手の70%が40歳以上と高齢化しており、そもそもの労働力不足に加え、2024年問題(2024年4月よりトラック運転手の時間外労働上限規制が適用)により、喫緊に対策が求められています。

つまり、自動運転トラックのニーズが世界で最も高いのが日本であり、実証実験から少しでも早く社会実装を実現させる。それにより、自身で実感した少子高齢化の問題を一部でも自動運転トラックで解決したいと考え、日本で創業してそのプロセスを加速させようと決めたのです。

長距離輸送をドライバー1人&自動運転システムで運用可能に

―改めて、ロボトラック社の事業内容について教えてください。

ウー:「自動運転で物流革命を起こす」をミッションとして、AI搭載の自動運転トラックの社会実装を目指し、安全で効率的、インテリジェントな輸送ソリューションを提供しようとしています。

2024年4月に創業し、7月には経済産業省の「モビリティDX促進のための無人自動運転開発・実証支援事業」にティアフォーやT2などの競合他社と並んで採択され、補助金を獲得。2025年2月には新東名高速道路の沼津~浜松の約100km区間で自動運転トラックの走行実証を行いました。このときはドライバーが乗車してレベル2(※1)相当にて実施しましたが、2025年中にはレベル4(※2)での実施を目指しています。

※1 レベル2:ドライバーによる監視のもと、特定条件下での自動運転機能。高速道路で遅いクルマを自動で追い越す、分合流を自動で行うなど。

※2 レベル4:システムによる監視のもと、特定条件下における完全自動運転。

―自動運転領域では競合も多いですが、御社ならではの強みは何でしょうか。

ウー:トラックでの輸送は、同じ自動運転でも乗用車などとは異なる知見が必要な領域であり、当社には自動運転トラックの関連業界の経験者が集まっています。また、その領域のリーディングカンパニーであるTuSimpleでの経験もあり、世界のトップレベルでの競合と切磋琢磨してきた感覚というのは、他社にはないものです。

―今後の事業における展望を教えてください。

ウー:最初の自動運転トラック運行の実現目標は、まず高速道路で、東京~名古屋~大阪など、最もニーズが高く、最も課題が大きいところに関して優先的に解決していきたいと考えています。さらに少しずつ範囲を拡大して、高速道路に近い物流施設や工場間を結ぶルートでの運行も視野に入れています。ただし、車両が長く重量もあるトラックの特性を踏まえると、やはり幹線物流、特に長距離の幹線物流がメインのターゲットになるでしょう。

日本の物流業界は90%が中小企業であり、自前で中継施設を作るのは難しく、共同利用するにもそもそも中継施設自体が少ないのです。そのため、中小企業が長距離輸送から撤退して地域内の小口の運送しかできなくなるかもしれません。そこを当社の自動運転トラックで、たとえば現在義務付けられるドライバー2人体制から、1人と自動運転システムにすることで人件費のコストを抑え、労働力不足に備えられるようにしたい。さらに、完全無人の自動運転を実現できれば、24時間365日運行も可能になるでしょう。そうして、日本の物流業界に長く関わってきた経験から、日本の物流業界を救いたいと感じています。

もちろん、大手物流企業とも連携して、業界全体として輸送システムやルートも一緒に作り上げていくような動きも、ゆくゆくは取り組んでいきたいと考えています。

技術と実体験をもとに、自動運転トラック市場で世界をリードする

―今回東大IPCから出資を受けた資金は、どのようなことに用いますか。

ウー:現在はシードラウンドのフェーズにあるので、まずは会社の体制作りです。特に、自動運転トラック業界は世界レベルが競争の舞台になりますので、やはり人材が一番大事。ですので、資金の多くは人件費に投入しています。当社は現在、社員数24名ほどですが、2025年中に倍増させる予定です。そうして日本の企業として世界の舞台に立ち、戦っていきます。

求める人材は、まず技術者です。今現在も、TuSimple出身者のほか、自動運転トラックの知見ある人が集まっていますが、まだまだ仲間が必要です。また、社会実装を推進していくために物流会社などと共同実証実験やPoCを進めていくために、日本の物流業界の知見ある方やシステム設計・開発のプロジェクトマネジメントができる人も求めたいです。

さらに、近々、さらなる資金調達を予定していますが、その資金もやはり人材、チーム作りに投入するつもりです。

当社は世界トップレベルの技術があり、必要な設備は資金さえあれば用意できます。あと必要なのは、一緒に自動運転トラックの社会実装を進めていく仲間なのです。

―ロボトラック社が経済産業省の事業に採択されたり、東大IPCから投資を引き出せたりしているのは、何が評価されていると感じていますか。

ウー:コアメンバーの経験や実績から、当社なら本当に日本で自動運転トラックの社会実装を実現できると信じていただけているのでしょう。この領域は、業界の課題自体が切迫しているため、ゼロから勉強して取り組むのでは間に合いません。世界の先行企業に伍していくには、当社のような知見やアセットが大きなアドバンテージになるのです。

日本は、ITや携帯電話の領域では世界に後塵を拝してしまいました。しかし今回、自動運転トラックの分野に関しては、日本製で日本にサービス提供をいち早く行い、同じような課題に苦しむこととなる世界に発信していかねばと思っています。世界トップレベルの技術で、日本で社会実装を具現化していくことで、課題先進国が課題解決先進国となって世界の市場を取る。今まさにその入り口にいるのだと感じています。

―では最後に、企業の方々へのメッセージをお願いします。

ウー: 当社は、日本の大手・中小企業と連携しながら自動運転トラックの社会実装を進めていきたいと考えています。当社がどういう形で自動運転トラックやそのシステムを提供していけば課題解決につながるのか。物流企業だけでなく、車両、倉庫、インフラ、保険など、さまざまな関連企業の皆様と一緒に切り拓いていきたいです。ぜひ当社の知見と経験を活用して、自動運転トラックのあるべき姿を目指し、完全自動運転に向け、どのレベルをどう実現できるのかと模索していきましょう。

「ロボトラック」という一般名詞を社名にすることは、社員の投票で決めました。これは、チームの自信の表れと言えます。当社では海外で、トラックの完全自動運転を実際に実現した経験があります。そういうチームは日本でおそらく当社だけでしょう。概念やイメージだけでなく、数値的に提示できますので、その知見を用いてさまざまなパートナー企業と出会い、日本での社会実装やシステム改革を進めていきたいです。

担当水本よりコメント:

ロボトラックは、自動運転トラックの開発で世界を牽引してきTuSimple社から日本チームをスピンアウトし、深刻化する物流問題に真っ向勝負を挑む会社です。社会インフラの変革にもつながる、日本の幹線輸送の自動化という大きな挑戦に対して、その成功の意義は大きくワクワクする反面、海外をはじめとする熾烈な競争もある中で、着実かつスピーディな成長が求められます。

日本の幹線輸送を自動化するという社会インフラ改革にも関わらず、資金もリソースも全く足りていません。ただWuさんからは自信しか感じないのです。強くてニューゲームだよ、実現できないわけないだろう?という具合です。そして僅か2ヵ月の開発期間でトラックを100km自動走行させ、毎月常に想像を超える成果を見せてくれる存在です。This is the startup!我々は前のめりにチャレンジし続けます。 

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