2024/8/6

アパレルDXの第一歩として、EC向け画像生成サービスで撮影工程とコストを削減

株式会社メタクロシス | 代表取締役 新井康平

2023年度の1stRound採択先の一つである株式会社メタクロシスは、2022年8月に設立。メタクロシスという社名は”カメレオンの体色変化”を意味する。第2の皮膚といわれる洋服もその物理性を超えられるようにすることで、ファッションをもっと豊かにしたいとの思いを込めている。代表取締役の新井康平氏に事業の特徴や起業の経緯、1stRoundで役立ったこと、今後の展望などを聞いた。

着用画像のバリエーション強化で、購入率や顧客単価向上に貢献

―まず、メタクロシスの事業について教えてください。

新井:元々は「FIGUR」というプロダクトを3Dのバーチャル試着サービスとして開発していましたが、そこからピボットして、今は画像生成AIを活用したアパレル商品の着用パターン画像の自動生成サービスとして提供しています。現在は、複数社と導入に向けたPoCを行っている段階です。

特徴としては、商品の実物がその場になくても、EC向けの着用画像がすぐ生成できるという点。商品撮影のコストを削減しつつ、画像のバリエーションを強化することで、ECのコンバージョン率や顧客単価の向上促進を目指せます。

ファッションEC業界の課題は、商品撮影に時間とコストがかかることです。撮影にあたって、膨大な量の商品のサンプル商品を手配し、モデルとカメラマンをアサインして撮影スタジオを手配するというプロセスがあるのですが、FIGURならこの全てをスキップして、PC上で商品画像を生成できます。

―具体的にFIGURにはどのような機能があるのですか。

新井:既存のEC画像を学習して、別で用意したモデルの着用画像に、特定商品を着用した画像を、そのデザイン的な特徴を保った上で生成できます。

実際にニッセン社、BIPROGY社(旧 日本ユニシス)とともに、画像生成AIにより衣類の着用パターンを自動生成させる実証実験を行い、2024年5月にプレスリリースしています。これは、既存の商品画像データを組み合わせて、このトップスとこのボトムスを合わせるとか、ジャケット下のインナーだけを取り替える、別のシューズに履き替えるといったことが画像上ででき、再撮影をせずに組み合わせ画像が生成できるというものです。

その他に、特定のモデルの着用画像を学習させ、そこからさまざまな体型のモデルによる着用画像を生成できる機能もあります。これにより、体型のサイズ感や身長の高低などの違いでどのように見えるかを、それぞれ撮影しなくてもイメージすることが可能になります。

ユーザーとなる事業会社の忌憚ない声で、ビジネス観点の未熟さに気づいた

―会社の設立は2022年8月ですが、起業に至った経緯を教えてください。

新井:2019年に新卒でエンジニアとして入社したメルカリでは発明報奨金制度があり、社員による特許出願が推奨されていたので、私もアパレル関連でAR技術などと組み合わせた自動採寸などで特許出願を行ったりしていました。もともとファッションが好きだったので取り組んでいたのですが、やがてコロナ禍となり、世の中の常識がガラリと変わります。アパレル業界で馴染みのショップが閉店していくのを目の当たりにし、自分が取り組んでいたことを何か活かせないかと考えるようになりました。そこで服飾の専門学校に通い始め、メルカリも退社してフリーランスとなり、サービスの開発に集中することにしたのです。

その後、2021年に独立行政法人情報処理推進機構が主催する未踏事業に採択されてバーチャル試着系アプリを作り始めました。週2~3日はいわゆるライスワークとして受託開発も続けていましたが、翌年、未踏アドバンスト事業に採択され、プロジェクト推進費用の支援があってこのサービスに集中することができ、期間中の8月に起業しました。

―そうして、2023年度の第8回1stRoundに採択されていますが、応募した目的は何でしたか。

新井:もともと商学部出身ですが、学部3年でアメリカ留学するときにエンジニアにキャリアチェンジしました。未踏アドバンスト事業も主にエンジニアに対する支援が色濃いプログラムであるのに対し、1stRoundでは技術や着想の事業化を伴走支援してもらえるのが魅力でした。また、エンジニア社長にありがちですが、私自身もやはり営業が得意ではないので、コーポレートパートナーとの協業機会もありがたかったです。実際、そのご縁でBIPROGY社とつながったことで、ニッセン社と3社での実証実験が実現しました。

―実際に1stRoundで役立ったことを教えてください。

新井:未踏アドバンスト事業で作ってきたバーチャル試着系アプリについて、コーポレートパートナーやそこから紹介されたさまざまな企業と対話する中で、そもそも顧客となる事業者の声を聞けていなかったと痛感しました。たとえば、企業にとって3DCGはコスト的に見合わないとか、導入コストが見合ったとしても売上向上や生産コスト削減につながるという実績やモデルがないと検討もできないといった厳しい声もいただきました。いちエンジニアとしてプロダクトにばかり目が行き、ビジネスとして全く考えられていなかったと気づかされました。

また営業面でも、メンターの方に具体的な話の進め方を教わったり、最初のごあいさつのメールにはCCで入ってもらったりと、かなり助けていただきました。後にNDAを先方の雛形に基づいて結ぶときも、メンターや弁護士からのサポートがありがたかったです。

そしてチーム組成に向けた採用支援で、バックオフィスを任せられる業務委託のスタッフを採用できたのも大きかったです。企業としてスケールするための要であり、無償なのでスタートアップには心強いサポートです。

アパレルの過剰供給問題を、需要の見える化&リードタイム短縮化で解決

―今後の事業展開はどのように考えていますか。

新井:現在FIGURは、導入に向けたPoCを数社と行っている段階で、画像生成のリクエストを元に当社で画像を生成して納品を行っています。これを今夏以降に、システム自体をリリースして提供できる形にもっていきたいと考えています。

また、PoCの結果により、プロダクトとして認められて導入が進むようであれば、エクイティでの資金調達も検討したいですね。今後の開発ロードマップやビジネスモデルについても、そのあたりで決めていきたいです。

今スタッフは業務委託で約10人。内訳はエンジニアが4人、デザイナーが3人、バックオフィスが1人、インターン生が2人です。資金調達ができれば、開発を加速させるためにエンジニアを2人ほど正社員雇用したいと考えています。

―目指す世界観を教えてください。

新井:アパレルの過剰供給問題を解決したいというのが、最終目標です。この業界ではトレンドが見えきる前に生産を行いますが、テクノロジーによるアプローチとしていろいろな業界で行われている、AIによる需要や売上の予測というのが、アパレル業界では難しいのです。当社では、大量生産に入る前に需要を何かしらの形で見える化することが、過剰供給問題の一つの解決策となると見ています。

―最後に、起業を考える方へアドバイスをお願いします。

新井:私の好きなマンガ[K1] では、ヒーローたちがオリジン、つまり原点をとても大事にしているのですが、経営者にも原点が大事だと思うんです。最初は強い思いを持って起業しますが、やがて自分の仮説の誤りに気づかされたり、突発的な技術革新により業界環境が変わってしまったりと、いろいろなノイズやハードシングスに振り回され続けるもの。そんな中でも原点となる思いが強くあれば負けないし、やり方を変えて続けることもできるでしょう。

 [K1]『僕のヒーローアカデミア』

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