2021/12/21

発電性能評価と独自技術によるデータ解析および発電量再生サービスで、「百年続く太陽光発電」を目指す

ヒラソル・エナジー株式会社|代表取締役 李 旻

2017年の創業以前より、1stRoundの前身の企業支援プログラムによる支援を受けてきたヒラソル・エナジー株式会社。東大発のIoT技術「PPLC-PV」(電流型電力線通信技術、Pulse Powerline Communication for Photovoltaic)と独自開発のAI技術を組み合わせた太陽光発電設備の保守管理事業により「百年続く太陽光発電」を目指している同社は、20218月に3度目の資金調達を行い、成功事例の横展開へと事業を加速させている。独自技術を磨き、事業化してきたプロセスや、目指す世界観について、代表取締役の李旻(リミン)氏に聞いた。

 

「太陽光による発電量の保守維持」という業界課題を解決

―まず、ヒラソル・エナジーの事業について教えてください。

 太陽光発電の性能の評価と、その結果をふまえて発電所自体の性能を改善する技術および手法の開発を行っています。東大発のIoT技術により、太陽光パネル1枚ごとに取りつけたセンサーからデータを収集して解析することで、遠隔から設備の異常を自動で検知することが可能です。取得したデータ自体を高度に利用するデータ解析技術も、独自に開発しています。

サービス提供は、まず発電所の仕様や発電実績、過去のデータから簡易性能評価を定額制で、そしてそこで発覚した問題を解決するために独自技術を組み合わせて行う改善・再生サービスは別立ての成果報酬型としています。顧客となるのは太陽光発電所のオーナーです。なかでも、不動産投資として事業に参入されている中小事業者との取引がより多くなっています。そもそも太陽光発電事業は金融アセットとして投資されている例が多く、売電により約20年かけて投資を回収していくため、発電量の保守維持が重要です。ですが従来は、パネルを直列につないだ単位でしか異常検知ができず、人を派遣して異常箇所を特定する必要がありました。それが当社技術では太陽光パネルごとに自動で検知できる。それが当社技術の優位性です。

―会社設立は20172月とのことですが、起業に至った背景を教えてください。

私自身は理系出身ですが、先端技術の事業化をライフワークにしようと、修士のときに技術経営学を専攻しました。そうして、技術があり起業したい人を支援するために東大産学協創推進本部の特任研究員となりました。大学の研究室を訪問して産学連携に関するニーズを伺い、企業との連携を企画実現する仕事をしていたのです。そんななか2016年夏、太陽光発電に利用できるIoT技術をもつ落合秀也准教授と出会って意気投合。この技術の実用化をともに目指すこととなりました。当時は中国の太陽光パネルメーカーに勢いがあり、私が特任研究員として、ある中国企業と大学の連携を実現した実績もあったため、中国メーカーとの接点を模索する狙いもありました。

それで半年かけ、市場調査と産学連携の可能性に関するヒアリングを国内外に対して行ったのです。ただこの時点では、「将来は太陽光パネルごとにセンサーがつき、それを通して発電所を管理するようになるだろう。しかし、まだ早い」と当時ヒアリングした全員から言われました。ですが、理想と実態にギャップがあるなら埋めるのが、技術経営の考え方です。また、技術検証段階で関心をもってくれる事業者が現れたため、私が代表取締役となって会社を設立することとなりました。いま社外取締役の落合先生と、この技術のもう1人の発明者で現在取締役兼CTOである池上洋行氏の3人が共同創業者です。

 

―そうした過程で、1stRoundの前身の企業支援プログラムから支援を受けたそうですが、どのようなサポートがありましたか。

 大きかったのは数百万円の活動資金提供です。それにより会社設立ができました。また、定期的な1on1で数え切れないほどのアドバイスを受けられたのも、ありがたかったです。並行して多くの大手事業会社を紹介され、その考え方をいち早く理解できたことで、中小企業をターゲットにする方向性を決めることができました。スタートアップにとって時間は大切なので、その優先順位を早期に見極めることができ、良かったです。

 

複数回の資金調達で、技術開発・事業開発を着実に実践

―起業後の事業はどのように進められたのですか。

共同創業の3人のうち、当初私のみがフルタイムで、技術開発の指導・サポートは2人の力を借りました。エンジニアは池上氏の知人に業務委託して、最初の案件に対応。それが、大学の技術の移転事例となり、創業から8ヵ月後の201710月の資金調達につながりました。

この資金の多くは、技術開発に費やしています。当時、当社技術を示すものは発表論文1本と、原理的な検証を小規模で確認したプロトタイプのみ。大学の研究で作られたプロトタイプというのは、コスト感覚はあまり意識されていないものなので、製品化に向けコストを抑えるのと、品質において耐久性を証明することが当時の目標でした。

 

―社会実装に向けた開発ですね。事業化はどのように進めたのでしょうか。

大手よりも意思決定の早い中小事業者にアプローチする方針決定に次ぎ、異常検知の可視化プロセスの設計や、さらに高付加価値となるサービスの設計に時間をかけました。それが現在の成功報酬モデルになっています。東大発技術の多くはスポンサーの力を活用して、最初から比較的大規模なプロジェクトを組めるのですが、そこでコスト合理性が欠けていると次が続かないといったことが実はよくあります。ですから最初の案件から、当社の根本的な提供価値にこだわり、それに対して対価を払ってもらえる顧客の探索に時間をかけました。

その後、2019年半ばにも資金調達を行い、事業開発に本格的に取り組み始めました。また、解析技術の開発を強化して、今使っているAI技術のコア部分を構築することができました。

 

―そして、20218月にもさらに資金調達をされていますね。

この資金は主に事業開発に活かしていきます。山梨県北杜市で成功事例が得られたため、その横展開に注力します。

また、共同創業者3人で始まった会社も、今は非常勤含め約15人となっています。営業・オペレーションとエンジニアで12くらいの内訳ですね。今後は、製品開発経験のあるエンジニアや広報担当を強化したいです。また、引き合いも増えているため、営業担当もさらに増員をかけることになるでしょう。

 

再生エネルギーへのシフトを支え、脱炭素の実現に貢献

―今後の展開として、長期ではどのような目標を考えていますか。

「百年続く太陽光発電」のために、確かな性能安定性の実現を目指しています。社会インフラとして税金も投入されてきた太陽光発電所なのに、性能が半減してしまっては、再生可能エネルギーによる社会構築は実現しません。そこに合理性のある形で、不具合を早期発見し、対策できる仕組みを構築していきたいのです。そのために、個々の太陽光発電所とつながるプラットフォームの開発も並行して進めています。そうして各発電所の状況を把握し、その性能や発電量を劣化させずに済む仕組みをパッケージで提供。太陽光発電事業を行うなら、必ず当社システムが入っているような世界観を目指したいです。

―最後に、起業を考える方へのアドバイスをお願いします。

ウォーレン・バフェットの投資参謀であるチャーリー・マンガーに、「私が知りたいのは自分がどこで死ぬかということだけであり、そしてそこには決して行かない」という名言があります。死んでしまうような可能性のある意思決定は絶対に避けるべきであり、そうした致命的リスクに関する知識こそ重要だということで、私もそれを実践してきました。起業すると、さまざまなリスクに見舞われるものなので、常に最善のパターンとともに最悪のパターンも想定するようにしています。それにより、どのような場合でも慌てずに対処ができるのですね。

東大の周辺で起業にチャレンジする方は、基本的に恵まれていると思います。それ故に、事業の明らかな失敗というのも少ないのですが、ときには辞める勇気が必要な場合もあるでしょう。こういう状態になったら諦める、というポイントをあらかじめ考えておけば、事業が思ったように成長していかないなど、悩ましいときに気持ちを決めやすいでしょう。また、そうした覚悟をしておけばこそ、諦めざるをえなくなる前に手を打っていけるのではないでしょうか。

 

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