2024/7/8

微生物の力で、農業の収量増や土壌・森林再生など、世界の環境課題を解決

株式会社エンドファイト | 共同創業者 代表取締役CEO 風岡俊希

2023年度の1stRound支援先の一つである株式会社エンドファイト(endophyte)は、2023年4月に設立。あらゆる環境で植物の生育を実現するプラットフォーム微生物技術「DSE(Dark-septate endophyte)」の実用化を通じ、世界の食糧危機の解消、土壌・森林再生などの包括的な環境課題に挑戦している。代表取締役CEOの風岡俊希氏に事業の特徴や起業の経緯、1stRoundで役立ったこと、今後の展望などを聞いた。

安全かつ低コストで、農業や土壌・森林再生、都市緑化、植物工場に活用

―まず、エンドファイトの事業について教えてください。

風岡:我々が保有する「DSE」とは、茨城大学農学部の成澤才彦教授が研究開発を行ってきた微生物で、植物の根部に定着させると、通常は植物が生育できないような極限の環境下や条件下でも、コストをかけずに高付加価値な植物を生育させることができるものです。当社は成澤教授と共同創業しており、この技術を事業化して、さまざまな環境課題にアプローチしています。たとえば、過度な農薬や化学肥料の使用や農地開拓により世界規模で土壌劣化が進んでいて、2050年には世界の土壌の90%以上が劣化すると予測されており、気候変動と相まって植物の生育環境は非常に厳しい状況となっているかと思っておりますが、こうした環境下でも食糧生産を実現するような技術の開発を目指しています。

―具体的にDSEはどのような使われ方をするのですか。

風岡:DSEは森林土壌から分離させ、選抜した自然由来の微生物で、植物の根部に定着させると、水分や栄養素を吸収しやすくしたり、季節・気候や日照時間、気温などにかかわらず好きなタイミングで花を咲かせ、実を付けさせることができます。

弊社は、10,000株以上のDSEのコレクションを保有しており、事業会社や農家の要望・課題などに応じて、適切な菌株を選択し、資材等の形でソリューション提供を行っております。     

用途は汎用的で、農業用途から森林・土壌再生、汚染土壌の除染、都市緑化の部材、低コストの植物工場など、幅広い領域で使える技術になっています。

―ビジネス面では現在どのようなフェーズにありますか。

風岡:全ての植物に適用できる技術なので、現在は複数の企業と共同で苺やトマトを始めとした様々な植物で実証実験中です。

DSEを混合させた資材を事業会社や農家に提供する物売り事業を進めながら、オープンイノベーションで、企業や自治体、研究機関と共同実証や共同研究開発を行っています。対象となる植物の種類・品種や、森林用途や都市緑化といったテーマを広げていき、同時に新規事業創造支援を通じたライセンス収益の獲得や、製品販売を国内外で拡大していこうとしているところです。

ノンエクイティの資金や創業時の必要な支援が充実、2人のCxOを採用

―会社の設立は2023年4月ですが、起業に至った経緯を教えてください。

風岡:私自身は前職で、政府系ベンチャーキャピタルで大学発スタートアップへの投資や経営支援に携わっていました。、創業前から研究者と一緒に事業計画を作り、創業後もある程度コミットして共同経営するという取り組みを行っておりました。

そんななか、某地方銀行と茨城県内大学発スタートアップや研究者を支援するファンドを作ろうとしていた2021年5月に、ソーシング活動で成澤先生と出会いました。そのファンド組成は叶わなかったのですが、成澤先生の人柄、技術のポテンシャル、実装化を通じて描ける未来像が、まさに私のやりたいことに近かったため、改めて翌年4月に個人的に成澤先生とコンタクトを取りました。そうして、先生がやりたいことを可視化して事業計画に落とし込み、私の意見も入れていくとビジネスとしての期待が高まったので、2人で共同創業することにしたのです。

―それまでも多くのスタートアップに関わって起業のシーズをたくさん見てきて、この案件で自ら起業しようと思ったのはなぜですか。

風岡:理由は3つです。まず、前職の政府系VCで研究機関の研究成果でイノベーションを起こそうとしてきましたが、都市部では予算のつきやすい領域の研究にリソースが集まりやすかった。一方、地方では予算がなくても工夫を凝らし、研究者の純粋な探究心で一心に続けられているような研究があるのに、ゲームチェンジャーとなり得るシーズに支援が行き渡っていないと思えました。政策的意図からも、そうした地方の可能性を引き出したいと思ったのが1つ目の理由です。

2つ目は、私自身がもともと自分で事業をやって社会課題を抜本的に解決したい思いが強く、ディープテック系事業の成功モデルを作れるようなシーズを求めていたときに、成澤先生と出会ったことです。また、先生が同じ目線でコミュニケーションしてくれる方であり、ビジネスやファイナンスは任せてくれて、先生は研究開発に専念されるという住み分けが明確にできる信頼関係が築けたのもプラスでした。

3つ目が、薄利多売になりやすく高収益モデルを作るのが難しいアグリテック、グリーンテック領域で、従来とは異なるやり方で成功するスタートアップのモデルケースを作りたいと思ったからです。

―そうして、2023年度の第8回1stRoundに採択されていますが、応募した目的は何でしたか。

風岡:成澤先生と会社設立の話をし始めたのが2022年10月頃で、ちょうど1stRoundの募集時期だったので応募しました。目的の1つは、ノンエクイティの事業資金です。当時我々には資金がありませんでしたが、シード期からVCを入れると経営の自由が損なわれ、持分も相応に生じてしまいます。そうして本来やりたいことができなくなるのは避けたかったので、ノンエクイティの事業資金は大いに助けになりました。実際、この資金は国内外への出張費用や、ビジネスマッチングや展示会などの参加費用、一部大学との共同研究契約やライセンス契約と、会社としての土台を作る専門家への依頼や調査費用などに充てました。

もう1つの目的は、創業期に必要な支援がパッケージされていたことです。専門家への相談を含め、半年間これを自由に使えるのが魅力でした。創業時には、手間のかかる手続きやどうしたらよいか分からないことが都度発生するものなので、そうしたときに対応してもらえる相談相手や使えるツールがあるのがありがたかったです。また、人材採用支援により、連続起業経験のあるCOO、CSOの採用もできました。

オープンイノベーションで、環境事業のエコシステムを構築

―今後の事業展開はどのように考えていますか。

風岡:現在はリソースの兼ね合いから、企業との共同実証実験はまだ数件ですが、引き合いが多く、CVCを中心に資金調達を行ったらさらに加速させていきたいです。行政や研究機関とも連携を深めて、環境事業を一緒に興していけるようなプラットフォームとしていきたいと考えています。

また、資金調達後はASEAN地域に事業を拡大していく予定で、その先はアメリカ、南米への展開も見据えています。

―目指す世界観を教えてください。

風岡:事業の性格として、1年目は初期検証を、2年目に再現性の確認を、3年目から本格的な実装化という3ステップが必要です。そのため、本格的に売上を上げて量産体制を作っていけるのは2026年からだと見ています。2031年までにはIPOを海外市場で考えています。DSEは世界中どこにでもいる自然由来の土壌微生物であり、土壌の生態系の中でも中核的な役割を担っているものですが、現在土壌劣化に伴いその正しく機能していない状況です。なので、本事業を通じて、世界の農業分野と森林分野、都市緑化のあらゆる分野でこの微生物が使われ、ネイチャーポジティブ・生物多様性を重視したインパクト創造を行っていきたいですね。

―最後に、起業を考える方へアドバイスをお願いします。

風岡:政策的な観点にはなりますが、ディープテック系スタートアップは、創業初期は事業化にもマネタイズにも時間がかかります。そのため、個人のキャリアや生活を損なうリスクがあると思うので、VCを入れてスタートアップ経営にフルコミットする時期は急がなくてよいのではないかと思っています。また、ディープテック系スタートアップの取り扱う技術は広範な用途に応用できるポテンシャルを有していることが多く、やってみないと分からない不確実性を孕んでいることも多いため、一定のステージまではターゲットを絞って事業化を進めずに風呂敷を広げてどこに可能性があるのかを探索する形が望ましいと思っています。そのため、創業初期には、経営の自由に制限のかかるエクイティでの調達ではなく、補助金や1stRoundのようなノンエクイティの資金などを活用し、長期的かつ副業的な目線で事業を進めていくほうが良いと思っています。     

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