「廃プラ×大型3Dプリンタ」による型枠や構造物で、建築のプロセスを変える
2023年度の第9回1stRound支援先の一つである株式会社DigitalArchi(デジタル・アーキ)は、「建築の『つくる』をつくる」をミッションとして2023年6月に設立。大型3Dプリンタにより、廃棄プラスチックで型枠や内外装部材を自動製造することで、建築のプロセスを革新しようとしている。2024年2月にプレシードラウンドの資金調達を行った代表取締役の松岡康友氏に、事業の概要や優位性、起業に至った経緯、今後の展望などを聞いた。
RC造に不可欠な型枠の製造を省力化し、環境負荷も低減
―まず、DigitalArchiの事業について教えてください。
松岡:鉄筋コンクリート造(RC造)で建築物を作る際には、木材で型枠を組み立て、そこにコンクリートを流し込み、固まるとその型枠は外します。これは100年来使われてきた工法ですが、組み立てた後にまた外すのは、大変非効率なやり方です。当社では廃棄プラスチックを材料とした型枠を使って、独自に開発した大型の3Dプリンタで作って提供することを事業としています。
RC造は非常に頑丈で耐久性もあり、木造や鉄骨造より建物の性能が優れています。日本は津波や地震などの災害も多いため、RC造が望ましいのですが、人海戦術で作らざるを得ず、時代に合っていません。それでやむなく、鉄骨造の建物が増えている面があるのです。そこで当社では、型枠の製造を自動化・省力化することで、建設コストの低減や環境負荷の軽減を目指しています。
―具体的に、どのようなメリットがあるのでしょうか。
松岡:まず、従来材料としてきた木材は、通常海外からの輸入材を組み上げて用い、型枠として2~3回使うと産業廃棄物になるという、環境負荷の大きいものです。その組み上げ・解体も手作業で専門の職人が必要ですが、高齢化で人手不足が進んでいます。
一方、廃棄プラスチックは日本国内で入手できる資材であり、型枠として使用後にはまた粉砕、溶解して再利用できます。また躯体図という3次元図面があれば、当社のソフトウェアで必要なサイズ・形状を割り出すことができるので、その型枠を3Dプリンタで自動生成して出荷できます。1平米あたり10時間で製造できるため、需要に応じた台数の3Dプリンタを夜間帯に稼動すれば翌日出荷も可能でしょう。さらに実証実験による作業計測では、従来の木材で作る型枠に比べ、現場での作業時間が8割減という結果も出ています。
―市場はどのくらいを見込んでいますか。
松岡:型枠の市場は日本で約7500億円、世界では6兆円が見込まれ、これらを全て廃プラ・3Dプリンタ製に置き換えることを目指しています。なかでも、曲面を多用したような自由度の高い設計に対応する異型型枠が高単価になりますので、まずこうした市場に価格優位性をアピールして参入していくことを考えています。
さらに、当社で「型枠2.0」と呼んでいるモジュール型枠の取り組みもあります。通常の型枠はコンクリートが固まれば外しますが、型枠自体に内装・外装部材、断熱材、配線・配管部材などの機能を持たせることで、残して建築の一部にするというもの。現在、不燃の材料開発を進めています。
また、型枠の用途から離れ、それ自体で「建築をつくる」取り組みとして、「ホワイト・ループ」と名づけた滑り台の制作に協力しました。山梨県北杜市の清春芸術村に子ども向けの遊具として設置されている構造体です。建築家が設計した形状を、当社の大型3Dプリンタで作り、組み立て、設置していく様子をYouTubeで公開しています。
そのほか、当社の型枠を用いた建築プロジェクトとして実証棟を2025年3月に竣工予定です。約10平米の小屋で、地面に置かれる柱と屋根を兼ねたような部材をモジュール型枠で作ります。
このように、建築の領域においてさまざまな展開を図っています。
建設系スタートアップの流れにいち早く気づき、社内で共創部署を立ち上げ
―松岡さんは新卒で竹中工務店に入社されていますが、起業に至った経緯を教えてください。
松岡:もともとの専門分野はコンピュータサイエンスで、竹中工務店では約10年間研究所に所属しましたが、研究員としてそれ以外の部署、たとえば建築設計や現場監督なども経験することができました。そして2015年から2年間、米国留学中にシリコンバレーで建設系スタートアップの萌芽に触れたのが刺激となり、帰国後は社内でオープンイノベーションの必要性を提言し、部署を立ち上げました。そこで3年半、多くのスタートアップや創業者と触れ合ううちに、研究者として自分の開発した技術を世に出したいと思うようになり、竹中工務店発のスタートアップとして事業立ち上げを希望。調整に約2年かかりましたが、出向の形で2023年6月に、共同研究先である慶大SFCの田中浩也研究室と当社を共同創業しました。
―2023年度の1stRoundに応募された理由は何でしたか。
松岡:慶大のスタートアップ支援部門の担当者が、事業立ち上げ直後でも応募可能な支援金のあるプログラムとして1stRoundを勧めてくれ、話を聞いた10分後には、手元にあった資料でエントリーしました。幸い選考に進むことができ、最終的にピッチでの選考がありましたが、実はピッチイベントに登壇するのはそのときが初めてで、それ自体も良い経験となりました。
そして支援金の面でも、ノンエクイティの事業資金ということで、創業期のスタートアップにとって大変有難いものでした。その提供の仕方も、スタートアップの置かれた状況を汲んだ設計がされていて、スタートアップ目線が徹底されているプログラムだと実感できました。
また、採択されると発表された直後から、VC等から問合せが多数入りました。1stRoundの審査を通った事業だという信用の賜物だと思います。
キャピタリストによる、起業家のためになる「本音の」メンタリング
―そのほかに、1stRoundで役立ったことはありますか。
松岡:東大IPCのキャピタリストがメンターとして月1回、手厚くメンタリングしてくれたのはやはり大きかったです。ビジネスモデルのストーリー性の強化や、資金調達に向けたプレゼン内容の拡充などが役立ち、2023年度末にはプレシードラウンドの資金調達を他のVCから行うことができました。
また、支援メニューには人材紹介サービスもありました。当社では女性のセカンドキャリアに特化したWaris社を通じて、スタートアップに関心の高い優秀な人材を紹介いただけ、当社のバックオフィスを支えてもらっています。
そのほか、採択期間後にオープンした「1stRouns BASE in東大前 HIRAKU GATE」では、採択企業は無償でコワーキングスペースを使わせてもらえるのも有難いことでした。拠点を構える前のスタートアップには、この上ない支援内容だと思います。ここでのコミュニティ醸成を目指しているそうなので、イベントには積極的に参加するようにしています。創業者は孤独になりやすいので、同じ境遇の人と話せるのは良いものです。採用や補助金等の情報交換をしたり、互いの苦労を励ましあったりしています。
―事業会社でオープンイノベーションを担当されていた松岡さんにとっても、1stRoundから得られたものは大きかったのでしょうか。
松岡:そのとおりで、私はスタートアップ界隈の知識はありましたが、1stRoundを知見を得る場とだけ考えてはもったいないと思います。何より価値があったのは、キャピタリスト目線でのシビアな判断の肌感覚を直接聞けたことです。それはキャピタリスト自身にしか分からないことであり、担当してくれたメンターは私の事業に対して「正直こういう風に考える」「こういうところがないと絶対出資しない」という目線を忌憚なく伝えてくれて、とても勉強になりました。起業家と投資家は、資金を受ける側と出す側として対峙する関係ですが、採択期間中はメンターとして、正直ベースで話をしてもらえて得るものが大きかったです。
―最後に、起業を考える方へアドバイスをお願いします。
松岡:1stRoundは数少ない、創業前などの初期段階から応募可能なプログラムの1つです。ですから、創業前から1stRoundを目指してピッチ資料を作り込んでいく、といったように活用するとよいでしょう。その上で採択されればノンエクイティの事業資金が最大500万円も提供され、さらに、多様な支援メニューが用意されている。本当にここを起点にして好循環が生まれるように考え抜かれたプログラムになっています。事業を成功させたいなら、ぜひ1stRoundを目指してみてください。