2024/10/23

JAXA発、宇宙ゴミ・人工衛星の衝突回避ナビで、地上の暮らしと宇宙の安全を守る

Star Signal Solutions株式会社 | 代表取締役 岩城 陽大

2023年度の第9回1stRound支援先の一つであるStar Signal Solutions株式会社は、2023年10月設立。宇宙ゴミや人工衛星などの観測・軌道解析を行い、宇宙での衝突事故回避ナビを提供して、「地上の暮らしと宇宙の安全を守る」ことを目指す、JAXA認定ベンチャーである。代表取締役の岩城陽大氏に、事業の概要や起業の経緯、1stRoundで役立ったこと、今後の展望などを聞いた。

宇宙ゴミとの衝突を回避して、秒速7.5kmで動く人工衛星の安全な運用を支える

―まず、Star Signal Solutionsの事業について教えてください。

岩城:人工衛星は、通信や天気予報、カーナビなどの位置情報サービスなどに利用されており、重要な社会インフラとなっています。多くの国々が毎年人工衛星を打ち上げており、2030年までに予定されている数は累計5万8000機。この人工衛星は秒速7.5kmという、ライフル弾より速いスピードで飛んでいるため、宇宙空間にあるゴミに触れると破壊・損傷を免れません。そうして通信障害やGPSの機能停止等が起きれば、社会に甚大な被害をもたらします。

そこで当社では、SaaS型の衝突回避ナビ「サテナビ S-CAN」を開発・提供しています。ユーザーは衛星運用事業者であり、これまでのモニター利用から有償化を進めているフェーズです。

―具体的には、ユーザーにどのようなメリットをもたらすものですか。

岩城:衛星運用者はそれぞれに、他物体との接近情報を受け取っており、それらを解析した結果をふまえて危険な接近に関して回避計画を作り、衝突回避の操作をしています。しかし、一連の作業・対応には専門知識が必要であり、24時間365日対応のため、対応コストは年間1000万円以上といわれます。当社のナビは、宇宙ゴミの接近情報の収集から解析、回避計画の作成、衝突回避の操作までを一括で行うことができるので、運用の負担を減らし、監視者の人件費などのコスト削減も実現できます。

実際、宇宙ゴミが接近すると分かれば、衛星側の軌道を少しずらすなど、選択肢がいろいろあるので、最適な方法を選ぶことが大事です。早期に分かることで衛星側の燃料消費がより少なくて済む方法を選べますし、衝突回避のために観測機会を逃す時間を最小化できることも、ビジネス面でのメリットです。

―宇宙ゴミ監視の精度向上にもつながるのでしょうか。

岩城:現在は運用の負担軽減までを実現できるものですが、今後はソフトウェアのアップデートで機能追加や精度向上を図っていきます。また、宇宙ゴミの画像解析を行う元データを得るために、地上の光学望遠鏡と衛星軌道上の観測カメラの両方で観測する体制を作り、宇宙物体のカタログを構築しようとしています。

宇宙分野への投資実績のある東大IPCならではのアドバイスで、技術シーズを事業化

―会社の設立は2023年10月ですが、起業に至った経緯を教えてください。

岩城:私が大学の法学部に入学した2007年に、Googleが民間企業を対象とした月面探査コンテストに賞金を出し、国が推進してきた宇宙開発が民間にも広がり始めました。私の専門である法律は、世の中のトラブルや事象に対応してルールが決められており、それをどう使っていくかという世界ですが、宇宙ではまっさらな状態でこれからルールを作りながら課題に取り組む必要があります。自分もそうした宇宙法の最前線で貢献したいと思いました。

そうしてJAXAに就職し、2019年には国連で採択された「宇宙活動に関する長期持続可能性(LTS)ガイドライン」の策定に私も関わりました。自分なりに宇宙交通事故問題の解決策を日本から世界に発信したいという思いがあった中で、この策定を行った国連宇宙区間平和利用委員会COPUOSでアストロスケール社の岡田社長(当時)が宇宙ゴミ問題の重要性を訴えた講演に私も触れ、大きな刺激を受けました。ガイドライン策定の次のステップとして、このガイドラインの中身を実行しようと考え、起業に至りました。

―Star Signal SolutionsはJAXA認定ベンチャーですが、社内で立ち上がったのですか?

岩城:そのとおりです。宇宙ゴミ問題の解決のためにできることを考え、この衝突回避ナビゲーションサービスを事業としてやっていくことになりました。そこで私が起点となって研究者に声をかけ、JAXAでもともと開発していたRABBITという衝突回避支援ツールを発展させる形で、JAXA内の有志で研究開発を始めました 。物体観測の専門家である柳沢俊史、軌道解析の日南川英明、アプリケーションの秋山祐貴がその仲間であり、4人で共同創業することになりました。起業を決めたのは、実際に複数企業から関心が寄せられ、VCからも問合せが入り始めたからです。

―2023年度の第9回1stRoundに採択されていますが、応募した理由を教えてください。

岩城:事業への手応えを感じる一方で、4人とも法人の運営は未経験であり、ビジネスとしての初期検証や技術シーズの事業化、財務上の中長期計画策定、スケールに向けての人材採用などのサポートが必要だったからです。1stRoundについては、もともと登録していたDeepTech DIVEを通じて知りました。

―実際に1stRoundではどういうことが役立ちましたか?

岩城:技術シーズの事業化において方向性をいくつか検討するなかで、それぞれのメリット・デメリットを整理してもらいました。また、取得データの活用法に関する優先順位付けや企業との連携の仕方など、ビジネスの観点から多岐に渡って壁打ちしてもらったことで、今の事業の形に定めることができました。実際に企業との連携では、宇宙保険を扱っている三井住友海上保険と、宇宙での事故のリスク対応について協業可能性の検討が進行中です。

ありがたかったのは、そうしたアドバイスがIPOありきではなく、事業体やチームがうまくいくためにどういう道筋があるかという観点であったことです。そのため、私たち自身の思いも汲んでいただきながら、東大IPCとして出資実績も多い宇宙分野での肌感覚も交えて、有益なアドバイスを多数もらえました。

また、ノンエクイティの事業資金も非常に役立ちました。JAXA認定ベンチャーは、その知的財産や業務で得た知見を利用した事業を行いますが、JAXAからの資金提供はありません。初期にまとまった資金を提供されたことで余裕を持って事業化を考えられ、キャッシュがあることで融資も受けやすかったです。今後、2030年の目標に向けて取り組みを加速させるために、エクイティでの資金調達活動にもそろそろ着手していきますが、その際にも1stRoundでアドバイスいただいたことが役立つと思います。

宇宙領域のGoogle Mapを目指し、日本の宇宙産業の発展に貢献

―岩城さんが国連での経験をふまえて感じる、宇宙ビジネスにおける日本の立ち位置を教えてください。

岩城:日本はソ連、アメリカ、フランスに次いで、世界で4番目に自国の能力により人工衛星を打ち上げた国であり、アジアでは唯一、国際宇宙ステーションの参加国です。また、アフリカや中南米など、衛星打ち上げ経験のない途上国に対して10cm角の超小型衛星放出を支援しています。このような技術の裏づけがあり、かつ宇宙事業の予算規模も大きいので、先進的な主要国だといえますね。

だからこそ、日本発でこの宇宙ゴミ問題の有効な解決策を提示したかったのです。

―今後の事業展開はどのように考えていますか。

岩城:初期プロダクトは40機関・160機の衛星にダウンロードされました。今後の目標は、2030年までに世界の打ち上げ予定衛星数の10%である約5800機に、この衝突回避ナビを適用させることです。そのために、まず日本国内市場から働きかけていきますが、これからアジアでも宇宙マーケットが立ち上がってきますので、そこで新規参入してくる衛星運用事業者にも導入を働きかけていきます。

さらに、宇宙ゴミの位置情報データは衛星との衝突回避以外にも活用が見込まれます。たとえば、ロケット打ち上げ時の衝突回避対策、デブリ除去事業者による状況把握および除去工程管理、宇宙ステーション管理者による周辺危険物監視、安全保障上の宇宙領域監視などがあり、そこからもさまざまな関連サービスが考えられるでしょう。宇宙領域のGoogle Mapのような存在を目指したいですね。

これから日本の宇宙産業をさらに発展させ、世界での存在感を一層増すために貢献していきます。当社の強みは画像解析やナビ技術にありますので、さまざまなパートナー企業と連携して、ともに業界を盛り上げていきたいです。

―最後に、起業を考える方へアドバイスをお願いします。

岩城:既存の考え方の延長線にあることは、誰かができることであり、時間が経てば自然とできていくものです。そうではない非連続のところで、いかに何かしらを創れるかが起業の肝だと思います。そのためには、あえて今までと違うところへ行き、違う人に会い、違う環境に身を置くことも重要です。1stRoundもそのための良い機会だと思います。私にとっては事業やビジネスに向けてのファーストステップが1stRoundであり、まさに新しい扉を開いたような感覚でした。

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