2023/9/21

中小製造業の自働化推進&人手不足解消で、日本のモノづくりの復活に貢献

株式会社Robofull | 代表取締役CEO 山本大氏

2021年度に開催した第5回1stRound採択企業の一つである株式会社Robofullは、「産業設備業界における情報断絶の解消」をミッションとして、全国工場の設備・工程データやロボットシステムの自動設計ツールを活用しながら、製造業への自働化設備の販売、メーカー・商社の拡販支援を行っている。2022年9月には総額1.5億円の資金調達を行った代表取締役CEOの山本大氏に、事業の概要、起業から現在に至るプロセスや今後の展望を聞いた。

「どこ」を「どのように」自働化可能か、具体案を提示するソリューション

―まず、Robofullの事業について教えてください。

当社は、工場内で使うロボットシステムや省人化に資する設備を販売しています。中小製造業では深刻な人手不足が進行しており、2022年1月の有効求人倍率は3.14倍となっています。一方で、その対策となる製造工程の自働化については、中小企業経営者の59%が「課題は感じるが、自働化の検討をしていない」状況です。

当社のビジネスは、このギャップを解消していくもの。日本の製造業のなかで大きな割合を占める中小製造業を支援していくことで、日本のモノづくりを復活させたいという思いがあります。

―中小製造業では、課題を感じながらもなぜ製造工程の自働化ができないのでしょうか。

「どこ」を「どのように」自働化するかという、初期段階でつまずくケースが多いからです。自働化を検討するには、自社の工場の中でどういったところが自働化できるのか、どこまでの範囲を自働化してどこからはまだ人が行うのかなど、どこの工程をどのように自働化するのかが決まらないと、メーカーに相談すらできません。当社では、そのつまずきを独自のITツールを活用しながら解消し、設備を販売しています。

―具体的に、展開されているソリューションを教えてください。

MPD(Manufacturing Process Database)、ADS(Auto Design System)という2つのITシステムです。

MPDは当社独自のデータベースで、中小製造業者がサイト上で公開している保有工程・設備情報を10万社分集めたものです。これにより、営業を行う際に個社ごとにどの工程の自動化が可能かを具体的に提案できます。ADSでは、実際に自働化した場合の概算費用・効果を複数パターン提示できるので、どのように自働化すれば費用対効果が高くなるかが瞬時に分かり、顧客の「分からない」との課題を解消できます。

当社ではこの2つのシステムで、中小製造業のお客様が自働化を検討するうえでの初期構想部分を解決し、実際の導入やロボットシステムを設計・制作していく部分はメーカーや商社と連携し、設備販売を行っています。

自働化設備の選定を「簡単」にし、顧客とメーカーの情報格差を解消

―それぞれ構築はどのようにして進められましたか。

MPDの構築には約半年かかりました。情報自体はWebクローリング技術で収集し、その情報を独自のアルゴリズムで整理しています。

ADSは開発までに、「お客様がどのように自動化したらよいか分からない」との課題解決を行うプロダクトとして、いろいろなアプローチを考えたうちの一つです。たとえば、パッケージ型の設備をつくるのも、その1つです。ロボットシステムは基本的にオーダーメイドで設計されますが、その手間をなくすために単一商品で提供できないかと、まず考えました。しかし、それだとお客様のバリエーションに富むニーズをなかなか満たすことができません。そこで最終的に、少しニーズの幅を広げた形で提案できる現在のプロダクトに落ち着きました。このADSはプロトタイプを提供中で、2023年7月には本格稼動できるよう開発を進めています。

―実際にお客様や関係者からはどのような反響、反応がありますか。

中小製造業のお客様からはやはり、すぐ提案を出せることを高く評価されていますが、メーカーや商社などのパートナー企業からは、より衝撃をもって受け止められています。どこをどのように自働化したらいいのか分からないという相談や引き合いに対して、従来は1人の生産技術エンジニアが1案件あたり1~2週間かけて構想設計の提案・見積作成を行う必要がありました。成約に至るか分からない案件に対して、それだけの工数をかけるのは現実的でなく、結局メーカー側も提案をためらってしまう、というのが実情です。そうすると、顧客として自働化ニーズがあっても、提案を受けられないという状況になってしまいます。ADSはそれを解決し、営業効率の向上を実現させられるのです。

ですから、まずADSでパートナー企業の営業工数を削減することで、お客様への販売価格の抑制が可能になるでしょう。また、ADSを使って構想設計をしていくと、その後の詳細設計もスムーズになり、最終的な納品までのリードタイムとコストの削減ができると考えています。

―Robofullが目指す世界観を教えてください。

前職では、太陽光発電機の清掃ロボットを販売するスタートアップで取締役を務めていました。そのときに感じたのは、ユーザーであるお客様と機器サプライヤーとの間で情報コミュニケーションのミスマッチが多いということです。お客様は機械のことが分からないなかで機械に万能さを求め、サプライヤーはお客様の真のニーズが分からずにズレたものを作ってしまいがちでした。そうしたミスマッチが、中小製造業の自働化において社会課題化していると思い知ったのです。大手企業であれば情報があるので適切に自働化を実現していけますが、情報弱者となりやすい中小企業は取り残されてしまっています。そこで自働化の設備においては、誰でも自分たちのやりたいことが、やりたいときにできるような世界にしていきたいのです。

コンサルファームからサービスロボットのスタートアップCxO、そして起業へ

―そもそも起業に至った背景を教えてください。

東大法学部を卒業後、国にしかできないことをしたいと考え、防衛省に入省しましたが、やがて、組織ではなく、私自身の存在価値を考えるようになり、コンサルティングファームに転職しました。その頃から、いつかは自分の名前で仕事がしたい、自分が生活や教育から得てきたものを社会に還元したいという思いで、漠然と起業を考えてきました。そして前職での経験から、現在の分野やビジネスモデルでの起業に行き着いたのです。

製造業への貢献を考えたのは、私自身がバブルの弾けた年に生まれ、以来、日本の経済が奮わず、そこに対して自分が何もできないでいるジレンマからです。高度経済成長期を推進してきた製造業で、日本の経済を再び盛り返したいと思いました。

―製造業のなかでも、中小企業に目が向いたのはなぜですか。

やはり製造業の多くを占める中小製造業者を強化することが、国内モノづくりの復活には不可欠だからです。また、製造業全体を見たときに、大手企業はしっかり対応ができていますが、中小企業は情報がないために本来やりたいことができていません。その公平性における、情報弱者救済の思いも強くありました。

適切な自働化が進めば、人手不足の解消にもつながります。いま中小製造業では本当に人手不足で、求人は困難、離職率も高い状況です。このような現状では自分たちの仕事に自信が持てなくなってしまいますし、工場長自ら現場に入って作業をしないと回らない。そんな苦しみを、何とか取り除いてあげたいという感覚です。

 

―そうして2021年1月にRobofullを起業されたわけですね。

前年12月末で前職を退職してすぐの起業でした。前職はハードウェアや技術開発を提供する会社ですが、本質的な課題はお客様の情報のところにあると私は考え、「目指す世界は一緒だが、違う山の登り方をさせて欲しい」と社長に伝えて、転身させてもらいました。

最初は三重県にある自宅で法人登記をし、そこで事業を始めました。やがて、会社として体制を固めようと、2022年6月に名古屋にある、愛知県のスタートアップ支援拠点「STATION Ai(ステーションエーアイ)」に入居しました。そのほかに東京と大阪にもメンバーがおり、事業を推進しています。同年9月には資金調達を行い、現在はプロダクトの開発やラインナップの拡充、採用・組織体制の強化拡大に努めています。

1stRoundでのアドバイスが、現在のプロダクトを構想させてくれた

―起業支援プログラム「1stRound」に2021年10月に採択されましたが、参加された経緯を教えてください。

コンサルファーム時代の後輩が東大IPCのスタッフになっており、起業するという話を何気なくしたときに、1stRoundを紹介してもらったのがきっかけです。

当時はADSのデモ画面しかなく、1stRoundのプレゼンでもそれを示して説明するだけでした。VCであれば、これが現場でどう活用され、実績につながっていくのかをイメージできると思いますが、1stRoundではこの未熟な段階でもポテンシャルを感じてもらえたので本当にありがたかったです。

―1stRoundのサポートでは、何が役立ちましたか。

メンタリングや壁打ちですね。自分一人で考えていると、いつの間にか軸がぶれたりしかねませんが、客観的にフィードバックをもらえたのが貴重でした。特に1stRoundには、多くの業界やスタートアップを支援してきたノウハウが蓄積されています。それを、創業初期でも享受できるのは何物にも変えがたかったです。

印象的だったのは、世の中に対して、どれぐらいのインパクトがあることなのかを強く意識するということを、いろいろな角度からアドバイスされたことです。創業当時の起業家というのは、自分のやりたいイメージはあるものの、それが社会にどうつながるのかについては希薄だったりします。目の前のアイデアに集中してしまい、狭くなっていた視野を広げてもらい、マネタイズやビジネスとして成立させていくための意識づけをしていただけたと思います。

―採択時にはADSのデモ画面しかなかったということですが、実際に1stRoundで、ADSの作り込みやMPDのデータベース構築において影響を受けたことはありますか。

実はMPDの構想は、1stRoundで、社会に対して自分たちのプロダクトがどう評価され、価値が出せるのかと視野を広げてもらったところから生まれています。ADSを作り込んでいくときに課題になりそうなことをディスカッションして、お客様へのアプローチの仕方を考えるうちに、まず「どこにどのような工程設備を持つ会社があるのか」が分かるツールが必要だと思い、それがMPDの開発につながりました。

もし1人で事業計画を立てていたら、そうした発想には至らなかったと思います。1stRoundで、社会にどう価値を出すのかと同時に、事業として成り立つためにはどうしたらよいのかについてもフィードバックを多数得られた成果だと感じています。

起業を決めたら、SNSで広く発信。思わぬ情報や意見がもらえるはず

―今後の事業展開について教えてください。

中小製造業の課題を解消するべく、2つのプロダクトを本格稼動させたら、次はパートナー集めだと考えています。当社はITの力でお客様の検討初期の課題を解決することはできますが、それ以外の部分はパートナー企業の力が必要です。ですから、いかに仲間を集めていくかが重要です。実際、MPDやADSについては現在のパートナー企業にも共感いただいています。次は、中小製造業の課題を広く世の中に知らしめ、そこに一緒に取り組んでいこうと思ってもらえる座組みを作り、多くの人を巻き込んでいくフェーズになります。

―最後に、起業を考える方へアドバイスをお願いします。

起業することはいろいろな人に話した方が良いです。事業に対してフィードバックをいただけたり、役立ちそうな制度を教えてもらえたりします。

私自身は起業するにあたり、こういうビジネスモデルでいけるのか、否定されたらどうしようかといった気恥ずかしさがありました。ですから、Facebookで知人への連絡もあまりしなかったのですが、今考えると非常にもったいなかったと思います。実際には、挑戦する人間を否定するよりは応援してくれる人のほうが多かったですし、情報ももっと集まったでしょう。変なプライドを持たず、積極的に発信しましょう。そこから生まれる出会いが事業には効いてくるものです。

 

 

一覧へ戻る
東大IPCの
ニュースを受け取る
スタートアップ界隈の最新情報、技術トレンドなど、ここでしか得られないNewsを定期配信しています