ベンチャーデットとは?特徴や必要とされる背景、注意点を解説
【目次】
ベンチャーデットとは?
ベンチャーデット(英語:Venture Debt)とは、エクイティ(資本)とデット(負債)の双方の性質を備えた金融商品(例:新株予約権付融資)の総称です。一見、和製英語のように思われますが主に欧米で広く認知されているファイナンススキームです。
ベンチャーデットは、有力な融資手段として一定の市場規模を有しており、主としてベンチャーキャピタルなどの投資家が行う投資と金融機関が行う融資の間を埋めるスキームとして位置付けられています。
ベンチャーキャピタルの詳細は、以下の記事をご確認ください。
一般的なベンチャーデットの仕組みは、金融機関(例:政府系金融機関、民間の銀行・信用金庫など)がスタートアップに対して無担保や低金利の融資を行い、一方でスタートアップは金融機関に対して新株予約権を無償で発行・付与し、信用リスクを補完する仕組みです。
そのため、土地・建物・生産設備などの資産価値(担保性)のある有形固定資産や無形固定資産(例:知的財産)を持たないスタートアップやベンチャーにとって有効な資金調達手段だといえます。また、一般的な増資(例:第三者割当増資、株主割当増資など)と比較した場合に、長期的な資本政策上の観点で株式の希薄化を抑制できる点や、手続きをスムーズに進めやすい点などに大きな特徴があります。
つまり、保有株式の希薄化を防ぎながら、事業成長のための資金を確保したいスタートアップやベンチャーの要望に応えられるよう設計されているのです。金融機関側からすると、融資対象の企業から新株予約権を得ることで、これまでと比べて規模の大きいデットファイナンス(融資)を行いやすくなるといわれています。
スタートアップおよびエクイティファイナンス、デットファイナンスについて詳しく知りたい場合は、以下の記事で解説しています。併せてお読みいただくことで、スタートアップやベンチャーの資金調達に関する理解を深められますので、ぜひご一読ください。
ベンチャーデットが必要とされる背景
日本とアメリカをはじめとする諸外国の間では、スタートアップの企業数や企業価値などの側面で大きな差が開いています。
経済産業省の資料によると、2021年時点における日本のユニコーン企業(創業10年以内、評価額10億ドル以上、未上場、テクノロジー企業という4つの条件を兼ね備えたスタートアップ)の数は11社・企業価値の総額は153億ドルである一方で、アメリカでは488社・16,425億ドルにのぼっています。
こうした状況を踏まえて、経済団体連合会や経済産業省では、国内スタートアップの成長促進に必要な要素の1つとしてファイナンスを重要視するようになっています。
日本のスタートアップは、エクイティファイナンスを資金調達の基本手法としつつ、その他の手法として日本政策金融公庫による創業融資や金融機関からの借入なども活用しています。その一方で、「低コストでの一時的な資金調達」や「赤字が継続するタイミングにおける事業成長のための先行投資」が困難とされるなど、既存の手法では満たされない資金調達ニーズも存在します。
加えて、近年は新型コロナウイルス感染拡大の影響により、多くのスタートアップでは想定できなかったほどの経営環境の急変を受けており、資金繰りの見直しを余儀なくされている状況です。
以上のような背景により、エクイティファイナンスをはじめとする既存の手法を補完する存在として、ベンチャーデットへの注目が高まっています。
参考:経済産業省「事務局説明資料(スタートアップについて)」2022年2月16日開催資料
ベンチャーデットの対象企業
一般的に、ベンチャーデットの対象企業は、以下のとおりです。
- 上場(IPO)を目指しており、急成長が期待されるスタートアップやベンチャー
- 革新的な技術(例:AI、ビックデータ、SaaS)や事業モデルの優位性などを持ち、潜在的な成長力のあるスタートアップやベンチャー
- エクイティとデット双方の性格を理解し、最適な資金調達を目指しているスタートアップやベンチャー
実際の市場では、シードステージの企業による利用実績は多くはなく、シリーズA以降の企業の利用が中心とされています。
上場(IPO)およびシリーズAの詳細は、以下の記事で解説しています。
ベンチャーデットの注意点
ベンチャーデットはあくまでも金融機関からの融資であり、借入を行ったスタートアップやベンチャーなどには返済義務が発生します。そのため、ベンチャーデットの利用を判断する際は、返済可能性やその方法について十分に検討しなければなりません。
また、ベンチャーデットを用いて資金調達した企業の次回の投資ラウンドに参加するベンチャーキャピタル(投資家)からすると、エクイティ投資により出資した資金が事業成長ではなく借金返済のために使用されることに抵抗を覚えるケースも想定されます。
もちろん資金調達額と返済額のバランス次第であるものの、返済額の比率があまりにも大きい企業の場合、ベンチャーキャピタルが出資に対して慎重な姿勢となる可能性があります。
つまり、ベンチャーデットによる借入が大きすぎると、その後のエクイティファイナンスによる資金調達に影響を及ぼす可能性がある点を把握しておきましょう。