ポジショニングとは?良い設定をするポイントと手順【具体例あり】
【目次】
ポジショニングとは?
ポジショニング(英語:Positioning)とは、競合他社の製品と差別化を図り、顧客に対してアピールできるような自社製品の提供価値を決めるプロセスのことです。いうなれば、「チョコレートはA社の製品でなければダメ」「醤油を購入する際はB社の製品と決めている」というように、顧客の心の中に明確なポジションを構築する施策を意味します。
この言葉は、製品が市場に豊富に出回るようになった1960年代に広告業界で使用されるようになり、売り手市場から買い手市場への転換に伴い、消費者をめぐる企業間競争が激化するにつれて、競争を有利に展開していくうえで重要な考え方として他の業界にも普及しました。
また、ポジショニングは、マーケティング戦略を策定するうえで用いられる代表的なフレームワーク「STP分析」で最後に実施されるプロセスでもあります。STP分析では、以下の流れで自社製品を販売する対象や方法などを決めていくのが一般的です。
- セグメンテーション(英語:Segmentation):市場の全体像を把握し、細分化する
- ターゲティング(英語:Targeting):細分化した市場の中から狙う市場を定める
- ポジショニング:競合他社との位置関係を決定する
STP分析について、以下の記事で詳しく解説しています。併せてお読みいただくと、ポジショニングの概要や意義を大枠から捉えられますので、ぜひご確認ください。
良いポジショニングを設定するための4つのポイント
他社製品に対する競争優位点を明確化させ、実際に競合との競争で勝ち残っていくために、ポジショニングは重要なプロセスであると考えられています。ただし、漠然とポジショニングを設定しても成果にはつながりにくいため、ポイントを押さえて実践することが望ましいです。
具体的には、以下のようなポイントを把握・実践すると良いでしょう。
- 顧客のニーズのあるポジションを選択できているか
- 顧客のニーズを正確に把握できているか
- 自社の理念や戦略との整合性が取れているか
- ポジショニングマップで相関性が低い軸を設定できているか
それぞれのポイントを順番に詳しく解説します。
ポイント①顧客のニーズのあるポジションを選択できているか
「他社との差別化を図れるかどうか」という基準のみで自社製品のポジショニングを設定すると、失敗する可能性が高いです。なぜなら、顧客からのニーズがあまりないポジションを選択してしまうおそれがあるためです。
例えば、健康志向が高い顧客層に対して、安価のみを強みとする食品でポジショニングを設定しても、ほとんど需要を見込めません。この場合、たとえ他社との差別化を図れたとしても、利益をほとんど得られない可能性が高いです。
以上の理由から、差別化を図るだけでなく需要の有無や大きさも意識しながら、自社製品のポジションを構築することが大切です。
ポイント②顧客のニーズを正確に把握できているか
ポジショニングは、単純に差別化を図るだけでなく、顧客に対して自社製品の価値を魅力的に伝えるためのプロセスでもあります。そのため、顧客が製品を購入する際に重視する要素を正確に把握したうえで、これに沿ったポジションを設定しなければなりません。
具体例を挙げると、ポジショニングマップ(縦軸・横軸で構成され、競合他社をマッピングして顧客への価値提供と差別化を両立できる自社の立ち位置を発見するためのツール)を活用する際に顧客のニーズを正確に把握できていないと、顧客が製品を決定するうえでまったく重視しない要素を軸に選んでしまうおそれがあります。その結果として、しっかりと差別化できているにもかかわらず、製品がまったく売れないといった事態に陥りかねません。
ポイント③自社の理念や戦略との整合性が取れているか
例えば、「顧客に対して安価な製品を提供する」という理念を掲げている会社が高価格帯の市場でポジショニングを設定すると、会社の理念と製品のポジションとの間に一貫性がなくなってしまいます。これにより、企業目標の達成に支障が生じたり、顧客からの印象が悪化したりするおそれがあるのです。
ポジショニングでは、もちろん差別化や顧客ニーズの意識が大切ですが、それに加えて理念や戦略との整合性も重視しないと、上記のようなトラブルが発生しかねないため注意しましょう。
ポイント④ポジショニングマップで相関性が低い軸を設定できているか
ここでいう「相関性が低い」とは、2つの要素間の関係性が低いことを意味します。
仮に相関性が高い2つの軸を設定すると、競合他社と明確に差別化できるポジションを見つけにくくなってしまいます。例えば、「価格」と「性能」は相関性が高い傾向があり、ポジショニングマップの軸としてはそれほど適していません。
価格が高くなるほど製品の性能が向上するのは当然であり、ポジショニングマップを作る意義が薄れてしまうことから、相関性が低い2つの軸を設定することを意識しましょう。
ポジショニングの手順
これまでポジショニングの定義や実施する際のポイントを紹介しましたが、具体的な手順・方法を把握しておかないと活用できません。
そこで本章では、ポジショニングの基本的な手順を4つのステップに分けて取り上げます。
セグメンテーション、ターゲティングをする
前述のとおり、ポジショニングはSTP分析における最後のプロセスであるため、まずはセグメンテーションとターゲティングを行う必要があります。
まず、セグメンテーションとは、「市場に存在する不特定多数の顧客をさまざまな切り口で分類し、特定の属性ごとに細分化するプロセス」のことです。市場の細分化する際の主な変数(基準)は、以下のとおりです。
- 地理的変数(例:世界の地域、日本の地域・地方、気候、人口密度など)
- 人口動態変数(例:年齢・年代、性別、職業、所得など)
- 心理的変数(例:消費者の性格・価値観・ライフスタイル・趣味など)
- 行動変数(例:消費者の購買歴や製品に関する知識など)
セグメンテーションについては、以下の記事で詳しく解説しています。
次に、ターゲティングとは、「細分化された市場の中から、自社がターゲットに据える市場を選ぶプロセス」をさします。ターゲティングを行う際には、「6R」と呼ばれるフレームワークの活用が効果的です。6Rの各項目およびターゲットとしての適性を判断するための基準は、以下のとおりです。
- 有効な市場規模(Realistic Scale): 期待する売上を確保できるだけの市場規模がある
- 成長性(Rate of Growth):市場の成長性が高い
- 顧客の優先順位と波及効果(Rank/Ripple Effect):顧客に対する影響力が大きい
- 到達可能性(Reach):顧客に対してアプローチしやすい
- 競合状況(Rival):強力な競合が少ない、競合の数が少ない
- 反応の測定可能性(Response):マーケティング戦略に対する顧客の反応を測定しやすい
ターゲティングの詳細を知りたい方は、以下の記事をご確認ください。
ポジショニングの軸を決める
セグメンテーションおよびターゲティングまで済んだら、ポジショニングのプロセスに移ります。ここでは、ポジショニングマップを用いるのが一般的です。
ポジショニングマップを作成する際には、縦と横の2つの軸を決める必要があります。軸を2つに絞る理由は、軸が多すぎると顧客に対して効果的にアピールできず、一方で1つに絞ると差別化要素が弱くなり、他社との差別化を図りにくくなるためです。
具体的なプロセスを説明すると、ターゲットとする顧客層に対して、自社が持つ競争優位点を訴求できるポイントを複数洗い出します。その後、洗い出したポイントをもとに、他社と自社を比較する軸を抽出すると良いでしょう。
なお、「競合と差別化を図りやすい要素」という理由のみで軸を設定してしまうと、顧客のニーズを満たせなくなるおそれがあるため注意しましょう。例えば、「オシャレに強い関心を持つ顧客」をターゲットしている場合に、「機能性の高さ・低さ」「肌に優しい素材かどうか」という2つの軸を設定してしまうと、「オシャレな製品を身に着けたい」という顧客のニーズを満たせなくなるおそれがあります。
これを防ぐには、「差別化を図れる」という点だけでなく、ターゲットとする顧客のニーズも踏まえたうえで軸を設定することが大切です。上記の例でいうと、2つの軸の候補としては「価格の高さ・安さ」「見た目のオシャレさ」などが望ましいと考えられます。
他社をポジショニングマップに配置する
2つの軸を決定した後、自社および他社の製品をマップに配置します。これにより、ターゲット市場における競合との位置関係や状況の把握が可能です。
自社のポジションを決める
最後に、自社製品の展開が有利なポジションを検討します。このときは、マップ上に空白となっている箇所からポジションを選択できるようになっていると良いです。なぜなら、空白の箇所は、競合他社が着手していないことから差別化できる可能性が高く、顧客に対して独自の価値を提供しやすいためです。
上記に加えて、自社の理念・ブランドイメージ・経営資源なども踏まえて、今後どのポジションを取っていくかを検討することで、その後の事業戦略を立てるうえで役立ちます。
ビジネス環境は日々刻々と変化しており、いかなる立ち位置も永続的に維持することはできません。ポジショニングマップを活用しつつ、常日頃から必要に応じてビジネスモデルの見直しを行うことをおすすめします。
ポジショニングマップの具体例
本章では、飲食店の展開を図るケースを想定して、ポジショニングマップの具体的な活用方法を紹介します。
飲食店の場合、例えば「高級料理・カジュアル料理」「落ち着きやすい・落ち着きにくい」といった2つの軸を採用し、既存の飲食店や自社が新たに行おうとしているサービスを位置付けていきます(ここでは仮に、既存の飲食店の一例として「俺のフレンチ(高級食材を使用しながらリーズナブルな価格で料理を提供する飲食店)」「高級レストラン」「立ち飲み屋」「ファミリーレストラン」を上図のように配置)。
その後は、自社の提供するサービスについて、競合他社と差別化できるほどの価値が備わっているかどうかを検討していくのが一般的です。
以上、具体的な活用事例を紹介しました。実際にポジショニングマップを有効活用していくためには、「自社の製品に顧客が魅力を感じるか」「競合他社が自社の製品に気付いているか」「自社が提供できる製品なのか」といったポイントを意識することが大切です。
DEEPTECH DIVE
本記事を執筆している東京大学協創プラットフォーム開発株式会社(東大IPC)は、東京大学の100%出資の下、投資、起業支援、キャリアパス支援の3つの活動を通じ、東京大学周辺のイノベーションエコシステム拡大を担う会社です。投資事業においては総額500億円規模のファンドを運営し、ディープテック系スタートアップを中心に約40社へ投資を行っています。
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