ピボットとは?企業戦略としての重要性、注意点、成功事例を解説

ピボットとは?

ピボット

ピボット(英語:Pivot)とは、企業経営における「方向転換」や「路線変更」を意味する言葉です。特にスタートアップにおいて、ピボットは「アイデアの特定部分(ビジョン)を軸足として、それ以外の部分を変更すること」をさします。

例えば、ピボットには以下のような行為が該当します。

  • 事業戦略の軌道修正を行う
  • これまでとは異なるアイデア・企画に取り組む

ビジネスシーンでは、上記のような経営判断自体をピボットと呼ぶケースもあります。

なお、ピボットとは本来「先端が円錐形になっている回転軸」のことです。ピボットを構造の中に取り入れている機器の例としては、「計測器」や「時計」などが挙げられます。

ピボットの事業戦略としての重要性

見方を変えると、ピボットは、「現在の事業戦略」と「市場ニーズ」の間における適合性を確認するプロセスであるともいえます。つまり、ピボットを行うと、結果として自社の事業戦略が市場のニーズを掴んでいたのか、もしくは市場ニーズと乖離していたのかを把握することが可能です。

また、自社製品のPMF達成を目指すスタートアップにおいて、ピボットは重要な施策の1つとして位置付けられています。製品の改善を繰り返しているにもかかわらず、なかなかPMFを達成できる糸口が見つからないというケースでは、ためらうことなくピボットによる製品開発プロセスの大幅な軌道修正を行うことが望ましいと考えられています。

このように、ピボットを事業成功への道筋を探るための施策であると捉えた場合、期待されるメリットは大きいです。事業の成功につなげるためにも、必要性があればスピーディーにピボットを行うことが大切であると考えられています。

PMFの詳細については、以下の記事で詳しく紹介しています。

PMF(プロダクトマーケットフィット)とは?達成までの手順を解説

ピボットの注意点

ピボットの注意点

本章では、ピボットを行う際の代表的な注意点として、4つをピックアップし紹介します。

安易にピボットしない

安易なピボットは建設的ではなく、目前の障壁から逃避するだけで根本的な問題の解決につながらないおそれがあります。つまり、ピボットを行う際は、それを有意義なものにしなければなりません。

そのためには、「なぜ失敗したのか?」「他に講じることのできる施策はないのか?」「どのように事業を展開していれば良かったのか?」「仮説に無理な点はなかったのか」などの観点から徹底的な検証を行うことが望ましいです。その上でピボットするかどうか判断しましょう。

ピボットのタイミング

ピボットの必要性が生じるタイミングとしては、事業戦略における「仮説を立てる」「実行する」「仮説と実行の結果を検証する」という3つのプロセスを追求できた時期が1つの目安です。

具体的なタイミングについては、Foundxの馬田隆明氏によると、「2カ月間、ターゲットを絞ったうえで10回ほどセールスをして、誰からもLOI(購入に関する覚書)をもらえなかったり、買ってくれなかったりすると悪い兆候」であるとし、「少なくともターゲットを変更するなど、仮説を修正する必要がある」と考えられています。

参考:xTECH「スタートアップはピボットをいつするのか、その後何が起こるのか| 未来を実装する秘訣 vol.8」

メンバーに納得してもらう

良いピボットにするための条件の1つに、メンバーの納得感があることが挙げられます。
たとえ事業戦略について「他に取り得る施策はない」というほどやり切った場合であっても、メンバーの納得感がないピボットはチームの崩壊を招くリスクがあります。

チームを維持するためにも、リーンキャンバスを活用し、ピボットの対象をチーム全体で納得しながら決めることが望ましいです。

リーンキャンバスの詳細は以下の記事で詳しく解説しています。併せてお読みいただくと、ピボットを検討する際に役立てられますので、ご一読ください。

リーンキャンバスとは?簡単に起業・事業アイデアを可視化できるフレームワークを解説

ビジョンはピボットできない

アメリカの起業家エリック・リース氏によると、「ピボットとは、ビジョンを変えずに事業戦略を変えること」であると考えられています。

そもそもスタートアップにおけるビジョンは、企業全体の方向性を指し示すものであり、後からピボットを行うことはできません。この点について、創業者はスタートアップの設立当初から強く意識しておくべきだといえます。

スタートアップの事業を成功に近づけるためにも、創業者としては、創業メンバーが一生をかけても良いと思えるようなビジョンを見つけて設定することが大切です。

スタートアップにおけるビジョンの必要性や作り方、事例について詳しく知りたい場合は、以下の記事で解説していますので、ご一読ください。

スタートアップにミッション・ビジョンは必要!作り方、事例

ピボットの成功事例

本章では、ピボットに成功したサービスの事例として、有名なものを7つピックアップし紹介します。

Slack

Slack(スラック)の創業者であるスチュワート・バターフィールド氏は、2009年にマルチ・プレーヤー・ゲームの会社を設立しましたが、2012年にはゲームの販売不振を理由にサービスをシャットダウンし、一時は社員の解雇にまで追い詰められました。

しかし、そこから大きくピボットを行い、2014年にSlackのサービスを開始しています。Slackとは、業務用コラボレーションアプリのことです。資金を使い切っていない段階であったためにピボットのチャンスをつかみ、「ゲームの開発作業をスムーズに進めるためのコラボレーションツール」というニッチな市場に目を向けられました。これにより、サービス開始当初から急速にユーザー数を増やしています。

Instagram

Instagram(インスタグラム)はメタ・プラットフォームズ社が所有するアメリカの写真・動画共有ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)ですが、前身は現在地や写真の共有を売りとするソーシャルチェックアプリburbnでした。

burbnは、複雑で目立った特徴がなく、何も新しさをもたらしていませんでした。そこで、burbnのユーザーが使っている機能をリサーチしたところ、写真の共有を目的とする利用が多いことがわかったため、ピボットにより位置情報機能を生かした写真共有アプリへと事業方針を転換しています。こうして誕生したInstagramは、現在、社会現象を起こすほどのサービスにまで成長しています。

ミクシィ

創業当初のミクシィ(mixi)はネット求人広告を主力事業としていたものの、SNS事業の開始をきっかけに社名が広く知られるようになりました。しかし、その後にアメリカのFacebookやTwitterなどが日本に進出し人気を集めたために、ミクシィは存続の危機に陥っています。

これを受けて、ミクシィは、ピボットを行い、スマホゲーム市場に参入しています。そして、「モンスターストライク」の大ヒットにより、見事な復活劇を見せました。現在は、ゲーム事業が売上の多くを占めています。

Shopify

Shopify(ショッピファイ)の創業者であるトビアス・リュケ氏は、2004年にハイエンドのスノーボードを販売するECストア「スノーデビル」を開設しました。このときに、既存のサービスを用いてECサイトを構築しようとしたものの、多くのEC構築サービスは大企業向けに設計されており、複雑である点や機能・デザインをカスタマイズできない点に悩まされたのです。

そこで、自身でEC構築のためのシステムを開発し、スノーボードストアを開設しています。このストアが大きな話題となり、開発方法に関する問い合わせが増えたために、ピボットを行い、2006年にEC構築サービスとしてShopifyをリリースしました。現在、Shopifyは、EC構築サービスとして圧倒的なシェアを得ています。

airbnb

airbnb(エアビーアンドビー)は、もともと個人の部屋の貸し借りサービスを展開していましたが、想定されるユーザー数が集まりませんでした。

その後、ユーザーの要望から「空き部屋を貸したい」というニーズを発見したことをきっかけに、空きスペースの貸し借りサービスへとピボットを行い、大きな成功を収めています。

TSUTAYA

もともとTSUTAYAではレンタルビデオ事業を全国展開していましたが、これに加えて近年ではTポイントカードを活用したマーケティング事業も展開しています。

Tポイントカードを活用することで、レンタルビデオだけではなく、他企業と提携してさまざまな店舗でTポイントを利用できるようにしました。これにより、顧客の趣味・嗜好や行動履歴をデータ化し、それをさまざまな企業に提供することで、マーケティングに活用しています。

TSUTAYAは、BtoCのサービスからBtoBへのサービスへピボットを行った典型例です。

任天堂

創業当初の任天堂は、トランプや花札の製造・販売を主軸とする企業でした。しかし、1970年代後半頃から、家庭用・業務用のコンピュータゲームの開発に着手しています。

上記のピボットにより、1985年に「スーパーマリオブラザーズ」を発売し、世界的な大ヒットを実現しました。任天堂のゲームソフトに登場するキャラクターは世界的に認知されているものが多く、ゲーム市場の中心が海外に移った現在でもその地位と人気は健在です。

ピボットピラミッドでピボットするところを見極める

ピボットピラミッド

自社の事業戦略や製品開発において、ピボットを行う箇所を視覚的に把握したい場合、ピボットピラミッドの考え方が役立ちます。

ピボットピラミッドは、下の階層から順に以下の5つから構成されています。もし下の階層をピボットした場合、それよりも上の階層を構成しているものすべてが崩れ落ちてしまい、結果的にこれらにも変更を加えなければならないことがピラミッドで示されているのです。

  • 顧客
  • 課題
  • ソリューション
  • テクノロジー
  • グロース

ここからは、それぞれの階層に見られる主な特徴を順番に紹介します。

顧客

顧客のピボットは、ピボットピラミッドの最下層に位置しており、「誰の課題を解決するのか?」という観点で変更を行うことをさします。顧客を変えることは可能であるものの、ピボットピラミッドの土台となる階層であることから、これより上の4つの階層についてピボットの実施有無に関する再検討を行う必要があります。

日本のスタートアップでは、「軸足(ビジョン)を変えない」というピボット本来の制約から離れ、顧客の変更を含めて現在とは大きく異なる事業に取り組むピボットも少なくありません。なお、このような事業ドメイン自体の変更は、トラベリングとも呼ばれています。

課題

特定の事業領域で製品を売り出し、顧客へのヒアリングを行ったり、利用動向を探っていたりしたときに、実は当初課題だと思っていたことが、それほど大きな課題ではなく、むしろ課題は別のところにあったことに気が付く場合があります。

課題のピボットとは、こうしたケースにおいて、ターゲットとする顧客はそのままに、取り組む課題を変えることを意味します。課題のピボットを行った場合、これより上の階層である「ソリューション」「テクノロジー」「グロース」という3つのピボットに関して、再検討を行う必要があります。

ソリューション

ソリューションのピボットとは、顧客や課題を変えることなく解決方法を変えることです。

例えば、製品のダウンロード・導入が想定していたよりもスムーズに進んでいなかったり、顧客を獲得するスピードが十分でなかったりした場合に、ソリューションのピボットを行うことがあります。

テクノロジー

選択するテクノロジーを変更する意思決定のことです。これは、ピボットというよりも、エンジニアリング上の行き詰まりを理由に、テクノロジースタック(アプリケーションを構築および実行するために使用される一連のテクノロジーサービス)の一部もしくは全部を作り直す行為を意味します。

現在のようにクラウドコンピューティングが発展する前は、顧客数が爆発的に増えすぎたことを理由に、テクノロジーのピボットによって分散処理に適したプログラミング言語に切り替えるという事例は珍しくありませんでした。

グロース

ピボットピラミッドの頂点に位置しており、グロース(成長)戦略に関するピボットをさします。ピボットの具体策としては、「より頻繁にPDCAを回す」「新たな実験を行う」などが挙げられます。

なお、グロースのピボットには、「グロースするための手法が飽和状態にある」「時間の経過とともにコストがかかりすぎる」などのリスクもある点を留意しておきましょう。

まとめ

ピボットとは、企業経営における「方向転換」や「路線変更」のことです。特にスタートアップでは、「アイデアの特定部分(ビジョン)を軸足として、それ以外の部分を変更すること」を意味します。

また、ピボットは、「現在の事業戦略」と「市場ニーズ」の間における適合性を確認するプロセスでもあります。つまり、ピボットを行うと、「結果として自社の事業戦略が市場のニーズを掴んでいたのか」「市場ニーズと乖離していたのか」を把握できるのです。

ただし、ピボットする際は、以下の点に注意しましょう。

  • 安易にピボットしない
  • ピボットのタイミングを見極める
  • メンバーに納得してもらう
  • ビジョンはピボットできない
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