PEST分析とは?目的、やり方・手順、注意点を解説
【目次】
PEST分析とは?
PEST分析とは、自社を取り巻く外部環境が、現在もしくは将来的にどのような影響を与えるかを把握・予測するためのフレームワークのことです。「政治(Politics)」「経済(Economy)」「社会(Society)」「技術(Technology)」という4つの外部環境を取り出し、分析対象とします。
PEST分析は、主に事業戦略(経営戦略、海外戦略、マーケティング戦略などを含む)を策定する際に使用されるケースが多いです。
新たに事業を立ち上げる際には、自社の現状を把握するだけでなく、外部環境に関する情報を収集し、分析することも求められます。この外部環境に関する分析には、大きな視点からアプローチを行う「マクロ環境分析」と、小さな視点からアプローチを行う「ミクロ環境分析」の2種類が存在します(PEST分析は、マクロ環境分析に該当します)。
ここからは、それぞれの分析方法の概要を解説します。
マクロ環境分析
自社の企業活動に間接的に影響を与える外部環境(例:人口統計・経済・技術・政治・社会など)を分析することです。マクロ環境分析のフレームワークは、PEST分析の他に「SWOT分析」(詳細は後述)があります。マクロ環境分析では、市場環境を長期的なスパン(例:5年間、10年間など)で捉えます。
ミクロ環境分析
自社の企業活動に直接的に影響を与える外部環境(例:市場規模、成長性、競争状況、流通チャネルの構造、顧客動向など)を分析することです。分析のフレームワークの代表例としては、「5フォース分析」や「3C分析」などが挙げられます(それぞれの分析方法の詳細は、記事の最後の章「PEST分析以外の環境分析フレームワーク」にて解説します)。
PEST分析の目的
PEST分析は、経営学者でマーケティングの第一人者で、ノースウェスタン大学ケロッグビジネススクールの教授であるフィリップ・コトラー氏によって提唱されました。
コトラー氏は、自身の著作『コトラーの戦略的マーケティング』において、「調査を行わずに市場参入を試みることは、目が見えないのに市場に参入しようとするようなもの」と述べており、環境分析の重要性を説いています。
これまでに成功を収めてきた事業・製品のほとんどは、世の中の変化・流れ・トレンドを味方につけてきたと考えられています。外部環境の変化に伴い、時代に即した事業・製品に変えていくことで、生き残りを目指せるのです。この外部環境(特にマクロ環境)を把握し、自社への影響を図るフレームワークの1つとして、PEST分析が位置付けられています。
PEST分析のやり方・手順
PEST分析で外部環境が企業に与える影響を分析することは大切ですが、正しく分析できなければ適切な事業戦略を策定できません。
そこで本章では、PEST分析の基本的なやり方・手順を以下の6つのステップに分けて取り上げます。
- 情報収集
- PESTの4要素に分類
- 事実と解釈に分類
- 「事実」を機会と脅威に分類
- 短期か長期かに分類
- 事業戦略に落とし込む
各ステップの内容を把握し、スムーズなPEST分析の実施につなげましょう。
①情報収集
まずは、自社事業に関連する情報を収集します。ここでは、正確な情報を収集するためにも、国が収集している各種統計データ、シンクタンクの調査レポート、業界団体から発信された情報、新聞報道や専門誌の特集記事など、信頼性の高い情報を集めることが大切です。
②PESTの4要素に分類
前ステップで収集した情報を、PEST(政治・経済・社会・技術)の4要素に分類します。自社に影響を及ぼす要素であるかどうか精査しながら、振り分けを行いましょう。
ここからは、「PEST」のそれぞれの環境要因を詳しく説明します。
Politics(政治)
Politics(政治的環境要因)では、政治・法律・税制などの観点から、自社に影響を及ぼす要因を分析します。具体的な分析項目としては、法規制・規制緩和、国の政策、税制の見直し、政府の動向、市民団体(例:NPO)の動向、最高裁の判断変更、外交関係の動向などが挙げられます。
Economy(経済)
Economy(経済的環境要因)では、経済動向の変化が自社に及ぼす影響を分析します。具体的な分析項目は、景気、インフレ・デフレの進行、為替、金利、経済成長率、日銀短観、失業率、鉱工業指数などです。
Society(社会)
Society(社会的環境要因)では、消費者のライフスタイルに関する事項を分析します。具体的な分析項目としては、人口動態、世帯数、世論・社会の意識、教育、犯罪、環境、健康、文化に関する情報などが挙げられます。
Technology(技術)
Technology(技術的環境要因)では、時代の変化に伴い開発される新たな技術が企業に与える要因を分析します。具体的な分析項目は、技術革新、特許、情報提供企業の投資動向などです。
③事実と解釈に分類
ここでは、PESTの4つの要素に振り分けた情報について、さらに「事実」と「解釈」への分類を行います。PEST分析では事実のみを用いることが望ましく、主観による思い込みが入った解釈を事業戦略に取り入れてしまうと結果が伴わないケースが多いです。
④「事実」を機会と脅威に分類
続いて、収集した情報の事実のみを「機会」と「脅威」に分類します。機会とは、自社にとってチャンスとなり得る要因であるのに対して、脅威とはリスクとなり得る要因のことです。
なお、業界全体から見ると「機会」と考えられる要因が、自社にとっては「脅威」となったり、これとは反対に業界全体からすると「脅威」に思えても、自社にとっては「機会」となったりするケースもあり得ます。そのため、一般的な影響ではなく自社に与える影響に焦点を当てることが大切です。
また、自社にとって「脅威」と考えられる要因の中に新規事業のチャンスが潜んでいる場合もあるため、広い視野で分類すると良いでしょう。
⑤短期か長期かに分類
機会と脅威への分類を行った後は、「これらの影響が短期的に起きるのか、長期的に起きるのか」を見極めるプロセスに移ります。
PESTの各要因が企業に及ぼす影響を時間軸で整理しておかないと、チームメンバー間で認識がズレている状態のまま事業戦略を実行に移してしまいかねません。
メンバー全員の目線を揃えて、より生産性の高い議論を行うためにも、「機会」と「脅威」の時間軸を統一したうえで戦略を練ることが望ましいです。
⑥事業戦略に落とし込む
最後は、ここまでの分析結果を事業戦略に落とし込み、実行に移すプロセスです。このステップでは、脅威の明確化によりリスクを避けつつ、機会の明確化により事業の成長を目指すことが大切です。
当然ながら、PEST分析を行うのみでは具体的な成果は得られないため、「分析結果を今後の戦略にいかに活用していくのか」を念頭に置いたうえで分析を進めると良いでしょう。
PEST分析の注意点
PEST分析は網羅性が高く、事業戦略を策定するうえで役立つフレームワークだといえますが、分析を行う際には注意点も存在します。本章では、PEST分析を行う際の注意点として代表的なものを3つピックアップし紹介します。
短期の分析には向いていない
そもそもPEST分析の対象とされるマクロ環境の変化は、その規模が大きければ大きいほど、数年規模で変化していくケースが多いです。
そのため、時間軸としては中長期的な事業戦略を策定する場合には適しているものの、短期的な計画(例:来月の営業計画)を作成する際には不向きなツールだといえます。
内部の環境分析ではない
PEST分析は、あくまでも企業の外部環境の変化を分析対象とする手法です。そのため、
「内部の環境(例:自社の強みや弱み)を分析して、事業戦略に生かしたい」といった場合には不向きなフレームワークだといえます。
内部の環境分析を行いたい場合には、次章で解説するSWOT分析を採用することが望ましいです。
手段の目的化
経験の浅い人がPEST分析を行うと、情報の海で漂流してしまううえに、手段が目的化してしまうリスクが高まります。
PEST分析を実施する際は、情報の収集や整理だけでも多大な手間・時間がかかりますが、これらを効率的に行うとすると専門的なノウハウ・工夫が求められます。そのため、テクニックを磨いて美しくまとめること自体に夢中になってしまい、「事業戦略に落とし込み、実行に移す」という重要なステップを忘れてしまうおそれがあるのです。
このように、情報収集と整理を目的化してしまい、間違った方向に進まないためにも、やり方・手順を事前に理解したうえで目的を見失わずにPEST分析を行うことが大切です。
PEST分析以外の環境分析フレームワーク
そもそも環境分析には、「マクロ環境分析・ミクロ環境分析」という分類だけでなく、「外部環境分析・内部環境分析」という分類もあり、それぞれに該当するフレームワークが存在します(PEST分析は、外部環境分析のマクロ環境分析に該当)。
そこで本記事の最後に、PEST分析以外の環境分析を行うフレームワークとして代表的なものを、3つピックアップし紹介します。
SWOT分析
SWOT分析とは、「自社の資産・ブランド力・製品の価格や品質などの内部環境」と「競合・法律・市場トレンドなど自社を取り巻く外部環境」をプラス面・マイナス面に分けて分析するフレームワークです。名称の由来は、以下の4要素の頭文字にあります。
- Strength(強み:内部環境、プラス要因)
- Weakness(弱み:内部環境、マイナス要因)
- Opportunity(機会:外部環境、プラス要因)
- Threat(脅威:外部環境、マイナス要因)
上記の4要素の分析により、「強みを生かし、弱みを克服し、機会を利用し、どのようにして脅威を取り除くのか(もしくは脅威から身を守るのか)」を、4つの軸で評価します。
このSWOT分析で得られる「機会」と「脅威」は、マクロの外部環境要因に左右されるため、PEST分析から得られる結果と連動して分析を進めることが可能です。
5フォース分析
5フォース分析とは、外部環境のうちミクロ環境にあたる「事業環境」の分析を行うためのフレームワークのことです。5フォース分析における「フォース」とは、「競争要因(業界の競争状態)」のことです。
5フォース分析の主な目的は、自社がさらされている脅威を以下の5つに分類し、それぞれを分析することで、業界の収益構造を明らかにしつつ、自社の競争優位性を探ることです。
- 新規参入者の脅威
- 売り手(サプライヤー)の交渉力
- 買い手(顧客)の交渉力
- 代替品・代替サービスの脅威
- 既存企業同士の競争(競争業者)
上記の5つの要素をそれぞれ把握し、その業界において自社の力が強ければ収益性が高く、弱ければ収益性が低いことがわかります。
3C分析
3C分析とは、外部環境として「市場・顧客(Customer)」「競合(Competitor)」、内部環境として「自社(Company)」を分析対象とするフレームワークです。名称の由来は、これら3つの頭文字「C」にあります。
3C分析において外部環境にあたる「市場・顧客」を分析する際は、ミクロ環境分析とマクロ環境分析の双方を採用するのが一般的です。このときには、マクロ環境分析の手法としてPEST分析、ミクロ環境分析の手法として5フォース分析を用いるケースが多いです。また、内部環境にあたる「自社」を分析する際は、主にSWOT分析を用います。
3C分析では、客観的なマーケティング環境の情報を集めることに主眼が置かれており、それぞれの「C」を分析することで、事業の成功に向けて進むべき方向性が把握できると考えられています。
まとめ
PEST分析とは、自社を取り巻く外部環境が、現在もしくは将来的にどのような影響を与えるかを把握・予測するためのフレームワークのことです。
「政治(Politics)」「経済(Economy)」「社会(Society)」「技術(Technology)」という4つの外部環境を取り出し分析対象とする手法で、主に事業戦略(経営戦略、海外戦略、マーケティング戦略などを含む)を策定する際に使用されるケースが多いです。
PEST分析は、以下のやり方・手順に沿って進めていくのが基本的です。
- 情報収集
- PESTの4要素に分類
- 事実と解釈に分類
- 「事実」を機会と脅威に分類
- 短期か長期かに分類
- 事業戦略に落とし込む
併せて、「短期の分析には向いていない」「内部の環境分析ではない」「目的を見失わない」などの注意点も把握したうえで、スムーズなPEST分析の実施につなげましょう。
DEEPTECH DIVE
本記事を執筆している東京大学協創プラットフォーム開発株式会社(東大IPC)は、東京大学の100%出資の下、投資、起業支援、キャリアパス支援の3つの活動を通じ、東京大学周辺のイノベーションエコシステム拡大を担う会社です。投資事業においては総額500億円規模のファンドを運営し、ディープテック系スタートアップを中心に約40社へ投資を行っています。
キャリアパス支援では創業期~成熟期まで、大学関連のテクノロジーシーズを持つスタートアップへの転職や副業に関心のある方とのマッチングを支援しており、独自のマッチングプラットフォーム「DEEPTECH DIVE」を運営しています。
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