MRRとは?計算方法、SaaSビジネスで重要な理由、改善方法を解説
【目次】
MRRとは?
MRRとは「Monthly Recurring Revenue(マンスリー・リカーリング・レベニュー)」の頭文字を取った言葉であり、日本語に訳すと「月次経常収益」を意味するビジネス用語です。より詳しく説明すると、毎月、繰り返し得られる収益・売上を合算し、経営上の指標としたものです。
MRRは、売り切り型ではないクラウドサービス(インターネット経由で、デスクトップ仮想化・共有ディスクなどのハードウェア・インフラ機能を提供するサービス)やサブスクリプション型のビジネスにおいて、経営上の指標として活用されています。サブスクリプション型のビジネスとは、コンテンツやサービスなどの利用期間に応じて定額料金を支払ってもらい、収益を得るビジネス手法のことです。
MRRの種類と計算方法
本章では、MRRを検証・分析していくうえで知っておくと役立つ、MRRの種類および計算方法を順番に取り上げます。
種類
MRRは、大まかに以下4つの種類に分けられます。
New MRR
新規ユーザーによってもたらされるMRRのことで、読み方は「ニュー・エムアールアール」です。別名、「新規MRR」とも呼ばれています。とりわけクラウドやサブスクリプションのサービス開始直後に重要視される指標です。
例えば、50人の新規ユーザーが1万円/月のサブスクリプションプランに加入した場合、New MRRは50万円と算出できます。
Expansion MRR
下位プランから上位プランにアップグレードしたことで前月よりも課金額が増加した既存ユーザーから計上されるMRRのことで、読み方は「イクスパンション・エムアールアール」です。別名、「拡大MRR」とも呼ばれています。とりわけサービスの開始後、ある程度契約者が増加してきた段階で注目される指標です。
具体例を挙げると、ユーザーAが5,000円/月のプランから1万円/月のプランに変更し、ユーザーBが1万円/月のプランから2万円/月のプランにアップグレードした場合、その月のExpansion MRRは以下のとおり算出できます。
- 5,000円(ユーザーAの増加額)+1万円(ユーザーBの増加額)=1万5,000円
Downgrade MRR
上位プランから下位プランにダウングレードしたことで前月よりも課金額が減った既存ユーザーから得るMRRのことで、読み方はそのまま「ダウングレード・エムアールアール」です。別名、「減少MRR」とも呼ばれています。契約プランが複数ある場合、ダウングレードした原因の分析が求められることもあります。
例えば、ユーザーCが2万円/月のプランを5,000円/月に変更(ダウングレード)し、ユーザーDも1万円/月のプランを5,000円/月のプランに変更(ダウングレード)した場合、その月のExpansion MRRは以下のとおり算出されます。
- 1万5,000円(ユーザーCの減少額)+5,000円(ユーザーDの減少額)=2万円
Churn MRR
当該月にサービスを解約したユーザーによりもたらされたMRRのことで、読み方は「チャーン・エムアールアール」です。別名、「解約MRR」とも呼ばれています。Downgrade MRRと併せて、少なければ少ないほどビジネスとしての健全性が高いと判断できる指標です。
具体例を挙げると、5人のユーザが2万円/月のプランを解約(チャーン)した場合、その月のChurn MRRは10万円と算出されます。
計算方法
ここからは、MRRを計算する方法をさらに詳しく解説します。
基本の計算方法
基本的にMRRは、「月額利用料×ユーザー数」の計算式を用いることで算出できます。例えば、月額利用料が5万円、ユーザー数が10人の場合、MRRの基本的な計算方法は以下のとおりです。
- 5万円(月額利用料)×10人(ユーザー数)=50万円
契約プランが複数存在する場合、プランごとにMRRを算出したうえで合算します。例えば、2種類(ベーシックプラン:5,000円/月、プレミアムプラン:1万円/月)の料金プランがあり、それぞれ5人のユーザーを抱えている場合、MRRは以下のとおり算出されます。
- 2万5,000円(ベーシックプラン:5,000円/月×ユーザー5人)+5万円(プレミアムプラン:1万円/月×ユーザー5人)=7万5,000円
最後に、以下の方法で各種類のMRRを計算することで、当該月のMRRを算出できます。
- 当該月のMRR=前月のMRR+(New MRR+Expansion MRR-Downgrade MRR-Churn MRR)
具体例を挙げると、前月のMRRが50万円、New MRRが10万円、Expansion MRRが5万円、Downgrade MRRが3万円、Churn MRR1万円の場合、当該月のMRRは以下の計算式で算出されます。
- 50万円+(10万円+5万円ー3万円ー1万円)=61万円
契約期間が複数ある場合の計算方法
年間や半年間、月ごとに契約するプランなど、サブスクリプションの契約期間が複数存在する場合、MRRの計算方法は複雑化します。
具体的には、年契約であれば「プラン料金÷12×ユーザー数」、半年契約であれば「プラン料金÷6×ユーザー数」というように、月額に直したうえでユーザー数をかけて算出します。その後、すべての契約期間・プランを合算することでMRRを算出できます。
例えば、以下のように契約期間が3種類あるケースを想定します。
- 年契約:10万円、ユーザー3人
- 半年契約:5万円、ユーザー6人
- 月契約:1万円、ユーザー8人
上記のケースにおけるMRRは、以下のとおり算出されます。
- (10万円÷12カ月×3人)+(5万円÷6カ月×6人)+(1万円×8人)=15万5,000円
MRR計算の注意点
冒頭でもお伝えしたとおり、MRRは毎月繰り返し得られる決まった売上のことです。そのため、初期費用やコンサルティング費用といった一度限りの収益はMRRに含めません。
また、ユーザーからの利用料金の支払いに遅延が発生していたとしても、解約されずに料金を請求している状態であれば、MRRに含めて計算するのが一般的である点も要注意です。
さらに、SaaS(ベンダーが提供するクラウドサーバーにあるソフトウェアを、インターネットを経由してユーザーが利用できるようにするサービス)をはじめとするクラウドサービスやサブスクリプション型のビジネスでは「契約後1年間は半額」「最初の1カ月間は無料」といったサービスを実施していることもありますが、MRRを計算する際は実際の契約プランに関わらず、請求する金額で算出する点も注意しましょう。
そのほか、MRRは、初期費用・追加費用などの収益を含めずに毎月発生が確定している収益のみを計上するもので、会計上で示せる公式の指標ではない点も把握しておいてください。
SaaSの詳細は、以下の記事をご確認ください。
MRRがSaaSビジネスで重要な理由
継続的に得られる収益・売上を可視化できるMRRは、サブスクリプション型のSaaSビジネスの戦略・施策の構築に活用できます。
それだけでなく、MRRは、第三者がSaaSビジネスを手掛ける企業を評価するための判断材料としても重用されています。なぜなら、投資家にとっては、MRRによってSaaSビジネスの運用実績が数値化されることで、ビジネスの成長性・効率性・継続性を把握でき、投資の判断を行いやすくなるためです。
なお、投資家がどの種類のMRRに注目するのかは、企業規模によって異なると考えられています。例えば、創業直後から発展途中の段階にある企業では、新規ユーザーの獲得が重要であるため、New MRRが大きく注目される傾向があります。その後、企業が成長していくにつれて、Expansion MRRやDowngrade MRR、Churn MRRなどに重きを置くようになるのが一般的です。
MRRの改善方法(種類別)
ここまでMRRが重要な理由を紹介しましたが、事業成功を目指すうえでMRRの数値を向上させることが大切であり、そのためにはMRRの定期的な検証・分析・改善が望ましいです。本章では、MRRの種類別に代表的な改善方法を解説します。
New MRR
New MRRの改善を目指すうえで、新規ユーザーを獲得する施策を打ち出し実行することが効果的であると考えられています。具体的には、見込みユーザーを増やしたり、コンバージョン率を向上させたりするマーケティング施策を講じることが望ましいです。
Expansion MRR
Expansion MRRの改善を目指すうえで、顧客単価を高める施策を打ち出し実行することが効果的であると考えられています。そのためには、アップセル(顧客に上位の商材を提案し購買してもらうこと)やクロスセル(顧客が購入しようとしている商品と異なる商品を提案し、購入を検討してもらうこと)を積極的に行うことが大切です。
そのほか、自社の商品・サービスを利用するメリットを実感してもらい、ファン化させることも有効策の1つです。
Downgrade MRR
Downgrade MRRの改善を目指すうえで、契約プランをダウングレードするユーザーを減らすことが大切です。Downgrade MRRが増える主な要因は、サービスに満足できていなかったり、サービスを使いこなせていなかったりするユーザーがいることです。
上記の点を踏まえて、Downgrade MRRを減少させるには、サービスの質を向上させたり、メール・チャットなどでユーザーをアフターフォローできる機能を追加したりする施策が効果的です。そのために、カスタマーサクセス部門を設けることも一案として挙げられます。
Churn MRR
Churn MRRの改善を目指すうえで、ユーザーの解約・退会数を減らす施策は必要不可欠です。
具体的な有効策はDowngrade MRRの場合と変わらないものの、Churn MRRの方が価格面・サービス面に深刻な課題が存在するケースが多く、料金プランの見直しやサポート専門部署の立ち上げなどの施策が望ましいと考えられています。
MRRとARRの違い
SaaSビジネスの成功を目指すうえで、MRRと同様に重要視されている指標として「ARR」が挙げられます。ARRとは「Annual Recurring Revenue(アニュアル・リカーリング・レベニュー)」の頭文字を取った言葉であり、日本語に訳すと「年間経常収益」を意味するビジネス用語です。より詳しく説明すると、毎年、決まって得られる収益・売上をさします。
ARRの数値を年単位で分析すれば、企業全体の成長率・顧客の定着率などが把握できます。そのため、特に年間契約を締結することの多いBtoBビジネスでは、MRRよりもARRを重要視する傾向が強いです。
ARRは、「MRR×12」の計算式で算出できます。ただし、スタートアップやベンチャーなど、収益の増減が安定していない企業の場合、ARRの予測は難しいため注意しましょう。とはいえ、MRRとARRはいずれもビジネスが健全に成長しているのか確認するうえで有用な指標であるため、分析対象の性質に合わせて活用することが望ましいです。
ARRについて詳しく知りたい場合、以下の記事で解説しています。ARRとの関係性を含めてMRRに対する理解をさらに深められますので、ぜひご確認ください。
まとめ
MRRとは「月次経常収益」を意味するビジネス用語で、毎月、繰り返し得られる収益・売上を合算し、経営上の指標としたものです。基本的には、以下の計算方法でMRRの数値を求められます。
- 月額利用料×ユーザー数
MRRを用いると、継続的に得られる収益・売上を可視化できます。そのため、サブスクリプション型のSaaSビジネスの戦略・施策の構築に活用できるほか、第三者がSaaSビジネスを手掛ける企業を評価するための判断材料としても活用されています。
月次経常収益のチェックのために活用するだけでなく、4種類のMRRを検証・分析・改善することで、企業の成長につなげられる可能性があります。本記事で解説した改善策を参考に自社のSaaSビジネスの成長をはかる指標としてMRRを活用しましょう。