2021/11/30

インキュベーション施設とは?メリット・デメリット、施設一覧

インキュベーション施設とは?

インキュベーション施設(英語:Incubation facility)とは、創業初期段階にある起業者の事業拡大や成功を支援する目的のもと、通常よりも安価な賃料で事務所スペースを提供したり、事業の立ち上げに関する専門家(インキュベーションマネージャー)によるサポートを提供したりする施設のことです。

事務所スペースおよびサポートの提供を通じて、スタートアップでのチャレンジを目指す起業者に不足している経営資源を補完しています。

インキュベーション施設で受けられる支援

インキュベーション施設で受けられる支援

インキュベーション施設で受けられる支援は、インキュベーション施設によって様々ですが、ここでは一般的なインキュベーション施設が提供している支援の内容を想定して説明します。インキュベーション施設の入居者は、入居から卒業(退居)までの期間中、インキュベーションマネージャーから、経営に関するアドバイスやコンサルティングなどを受けられることが多いです。これらの支援は、創業初期の事業を軌道に乗せるうえで非常に役立ちます。

支援を行うインキュベーションマネージャーの主な目的は、インキュベーション施設の入居者を育成し、事業の達成につなげることです。これを成し遂げるために、入居者と連携しながら課題認識の共有、事業進捗の確認、課題解決などを図っています。

インキュベーション施設のメリット

インキュベーション施設のメリット

本章では、インキュベーション施設に入居する代表的なメリットを2つ紹介します。

インキュベーションマネージャーの支援が受けられる

インキュベーション施設には、通常、事業の拡大および成長に求められる知識・経験を備えたインキュベーションマネージャーが常駐しています。インキュベーションマネージャーは、入居者のサポーター・相談相手として、経営ノウハウの提供から人材の紹介に至るまで、入居者からの経営相談に幅広く応じます。

こうしたインキュベーションマネージャーによる支援は、創業から間もない時期であり経営に関して不安を抱えている起業家にとって、大きなメリットだといえます。

家賃が安い

インキュベーション施設に入居する場合、一般的なレンタルオフィスよりも安価な賃料で事務所を借りられることが多いです。インキュベーション施設の家賃相場は、月額3万円〜5万円程度が目安です。

また、地方自治体が運営するインキュベーション施設の中には、家賃の一部を補助する制度が設けられている施設もあり、その場合は入居に伴う家賃負担をさらに軽減できます。

なお、インキュベーション施設には、オフィスに適した電源・設備などが備わっているため、入居者側で新たに費用をかけて準備する必要はありません。中には会議室や商談室などが備わっている施設もあり、安価な賃料で起業に最適な環境を確保できます。また、事業の内容によっては、工場・ラボ(研究室)を借りられる場合もあります。

以上の特徴から、インキュベーション施設は、「起業者を支援する機能を備えたレンタルオフィス」に相当する施設であるとも考えられています。

インキュベーション施設のデメリット

インキュベーション施設のデメリット

ここまで、インキュベーション施設に入居することで享受できるメリットを紹介してきましたが、反対に以下のようなデメリットが生じるおそれがあることも把握しておきましょう。

金銭以外の対価を求められることがある

一般的に、インキュベーション施設は、市場価格よりも安価な家賃で入居できることが多いですが、施設運営者の目的によっては、金銭以外の対価を求められる場合があります。具体的にいうと、施設運営者がインキュベーション施設入居企業への投資とそのリターンを目的としている場合、市場価格よりも安価な家賃で入居できる代わりに、ストックオプションの付与や、事業が成長した際の投資の確約を求められる場合があるため注意が必要です。

したがって、入居を検討する際は、インキュベーション施設との間で交わされる契約の内容を十分に理解し、入居した後の事業計画と照らしながら適切に判断すると良いでしょう。

手続きが煩雑

一般的なレンタルオフィスと比べて、インキュベーション施設に入居する際は、煩雑な手続きが求められます。例えば、問い合わせ・事前面接・審査・契約など、入居の前にさまざまなプロセスを経る必要があります。

とりわけ事業計画の提出や家賃の補助申請などに煩雑な手続きが求められるため、書類の作成を苦手に感じる場合は注意しておくと良いでしょう。

自由度が少ない

インキュベーション施設に入居する際は、レンタルの形式で施設を提供してもらうケースがほとんどであり、スペースの使用にあたって自由度が低い点はデメリットとして働くおそれがあります。賃貸オフィスではコストを費やせば間仕切りを自由に変えられますが、レンタルオフィスでは変更できないのが一般的です。

また、設備も自由に選択できず、入居時から設置されているものを使用せざるを得ません。こうした点は、自分好みのオフィスを確保したい創業者にとってデメリットになりえます。

インキュベーション施設に入居可能な期間・費用

インキュベーション施設に入居可能な期間・費用

1つ1つの施設によって違いはあるものの、入居可能な期間は1年間と定められているケースが多く見られます。しかし、インキュベーション施設の多くは入居期間の延長が可能です。とはいえ、1度の申請で3年〜5年間延長できたり、1年ごとに申請が求められたりなど、延長の申請方法は施設ごとに多種多様です。

また、インキュベーション施設の入居費用(月額のレンタル料金)は、施設の運営主体(公的機関・民間企業など)によって異なります。1平方メートルあたりで換算すると、公的機関の運営する施設では2,500円〜3,000円程度、民間企業の運営する施設では10,000円〜15,000円程度の費用が発生するケースが一般的です。

そのほか、提供スペースの特徴(固定席、個室など)により異なる入居費用が設定されている施設もあります。

インキュベーション施設一覧

インキュベーション施設一覧

本章では、運営主体(公的機関、民間企業)ごとにインキュベーション施設の例を挙げて、それぞれの基本情報について紹介します。

大学・研究機関

はじめに、大学・研究機関により運営されているインキュベーション施設の例を挙げて、それぞれの基本情報を以下の表にまとめました。

運営主体 施設名 場所 施設概要 用途 契約期間
東京大学産学協創推進本部 アントレプレナープラザ 本郷キャンパス 約58m²の個室30室 23室はウェットラボ利用可能 1~3年(再契約可能)
アントレプレナーラボ(個室) 本郷キャンパス南研究棟内 約25~75m²の個室32室 24室はウェットラボ利用可能 1~3年(再契約可能)
アントレプレナーラボ共用バイオ実験室(シェアラボ) 本郷キャンパス南研究棟内 専有ベンチ12台 ベンチ(実験台)単位での利用 1年(原則として2回まで再契約可能)
アントレプレナーラボ共用オフィス(シェアオフィス) 本郷キャンパス南研究棟内 専有デスク15席、オープンデスク22席 デスク単位での利用 1年(再契約1回可能)
駒場連携研究棟インキュベーションルーム 駒場IIキャンパス連携研究棟 約54m²または68m²の個室3室 オフィス利用のみ 1年(延長可能性あり)
柏IIアントレプレナーハブ 柏IIキャンパス 約65m²の個室14室 全室ウェットラボとして利用可能 1~3年(再契約可能)
独立行政法人 中小企業基盤整備機構(東京大学および地域と連携し運営) 東大柏ベンチャープラザ 千葉県柏市柏の葉五丁目4番地19 118~143㎡の個室5室(1階)、32~74㎡の個室12室(2階)、32~63㎡の個室15室(3階) 1階は天井高5mのため試作開発用の機器等を設置可能、2〜3階はウェットラボとして利用可能 5年以内(審査により期間を決定)(2年以内の再契約を認める場合あり)

出典:東京大学産学協創推進本部「インキュベーション施設/入居の流れ」
独立行政法人 中小企業基盤整備機構「東大柏ベンチャープラザ」

民間

次に、民間企業により運営されているインキュベーション施設の例を挙げて、それぞれの基本情報を以下の表にまとめました。

運営主体 施設名 場所 施設概要 用途 契約期間
東和不動産 axle御茶ノ水 東京都千代⽥区神⽥⼩川町3丁⽬28−5 固定席68席、フリーアドレス席45席、プロジェクトルーム19室、オフィスフロア14区画、レンタルスペース(イベントスペース2室、ミーティングルーム13室)等 オフィス・コワーキング、レンタルスペース、カーシェアリング等 なし
CIC Japan CIC Tokyo 東京都港区虎ノ門1-17-1 虎ノ門ヒルズビジネスタワー15階 個室(スモール、ミドル、ラージの3サイズ)、フリー席100席、キッチン兼イベントスペース、ウェルネスエリア、会議室(20室)等 プライベートオフィス、コワーキングスペース等 なし

出典;東和不動産「axle御茶ノ水」
CIC Japan「CIC Tokyo」

なお、上記2つのインキュベーション施設は、インキュベーションプログラム「1stRound」が連携している施設です。ベンチャーキャピタルから外部調達を行う前のチームあるいは設立3年以内のベンチャーは、1stRoundで採択されると、支援期間中にわたって「axle御茶ノ水」および「CIC Tokyo」のシェアオフィスを優遇価格で入居できます。

また、希望者には、東京大学産学協創推進本部の運営するインキュベーション施設(アントレプレナープラザ・アントレプレナーラボ・アントレプレナーハブ)への紹介も可能です(別途、入居審査があり、利用料が発生いたします)。

まとめ

インキュベーション施設とは、創業初期段階にある起業者の事業拡大や成功を支援する目的のもと、通常よりも安価な賃料で事務所スペースを提供したり、事業の立ち上げに関する専門家(インキュベーションマネージャー)によるサポートを提供したりする施設のことです。

インキュベーション施設に入居すると、退去までの期間中、インキュベーションマネージャーから、経営に関するアドバイスやコンサルティングなどを受けられます。これらの支援は、創業初期の事業を軌道に乗せるうえで非常に役立ちます。

ただし、インキュベーションに入居する際は、金銭以外の対価が求められる場合があることや、煩雑な手続きがあることも考慮しなければなりません。
加えて、入居可能な期間は1年間と短期であるケースが多いほか、入居費用には施設の運営主体や提供スペースの特徴などによって差が見られます。

インキュベーション施設への入居を検討する際には、入居してから数年の期間の事業計画と照らして、自分・自社に合った施設を選ぶと良いでしょう。

DEEPTECH DIVE

本記事を執筆している東京大学協創プラットフォーム開発株式会社(東大IPC)は、東京大学の100%出資の下、投資、起業支援、キャリアパス支援の3つの活動を通じ、東京大学周辺のイノベーションエコシステム拡大を担う会社です。投資事業においては総額500億円規模のファンドを運営し、ディープテック系スタートアップを中心に約40社へ投資を行っています。

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