種類株式とは?全9種類、活用するメリット・デメリットを解説
【目次】
種類株式とは?
種類株式(英語:Classified Stock)とは、権利の内容が異なる2種類以上の株式を発行する場合における各株式をさす言葉です。
一般的に「株式」と呼ばれているものは普通株式をさし、普通株式は各株式の権利内容が同一・平等に設定されています。これに対して、種類株式は、配当・残余財産の分配・議決権・譲渡などに関する事項に特典(優先)、もしくは制限があるなど、普通株式とは異なる権利内容が盛り込まれている点が大きな特徴です。
種類株式は、権利の内容に応じて、以下の9つに分けられます。
- 剰余金の配当(会社法108条1項1号)
- 残余財産の分配(会社法108条1項2号)
- 議決権の制限(会社法108条1項3号)
- 譲渡制限(会社法108条1項4号)
- 取得請求権(会社法108条1項5号)
- 取得条項(会社法108条1項6号)
- 全部取得条項(会社法108条1項7号)
- 拒否権(会社法108条1項8号)
- 役員選任権(会社法108条1項9号)
なお、種類株式は、上記9つの権利の中から、複数の権利を重複して付与したり、これとは反対に複数の権利を制限または剥奪したりすることも認められています。
種類株式の4つの目的
種類株式は、普通株式により増資を行う際に生じる問題への対処法として、主に以下4つの目的のもとで活用されています。
投資の魅力を向上
種類株式の中には、自社株式の魅力度を向上する目的で活用できるものがあります。
具体例を挙げると、剰余金の配当(優先配当)・残余財産の分配(優先残余分配)を盛り込んだ種類株式は、普通株式と比べて投資家が得られる経済的利益が大きくなります。また、拒否権・役員選任権を盛り込むと、投資家に対して投資先企業のガバナンスに関われる権利が与えられます。
投資のハードルを下げる
取得請求権を盛り込んだ種類株式は、投資家の投資実行に対するハードルを下げる目的で活用できます。なぜなら、取得請求権を持つ株主は、自身が所有する当該種類株式を取得するよう、企業に対して請求できるためです。
経営に対する影響力の維持
剰余金の配当・残余財産の分配・議決権の制限などを盛り込んだ種類株式は、経営者の経営に対する影響力を維持する目的で活用されることがあります。
もともと増資を実施すると、経営者の持分比率が減少(権利が希薄化)します。仮に第三者割当増資の手法を採用し、ある株主に対して議決権の過半数を渡してしまえば、経営権を奪われてしまいかねません。
経営者の経営への影響力を維持しつつ増資を実施するには、以下のような事項を盛り込んだ種類株式を発行することが有効だと考えられています。
- 剰余金の配当、残余財産の分配→優先配当権、優先残余財産分配権などの経済的利益を付与し、 1株あたりの株式の価値を向上させることで発行株式数を抑える
- 議決権の制限※
※議決権を制限すると投資家から見た株式の魅力が低下するため、これと引き換えに「優先配当権」や「優先残余財産分配権」などの経済的利益を付与することが効果的。
不本意な株主への対応
種類株式は、不本意な株主に対応する目的で活用されることもあります。
具体例を挙げると、譲渡制限を盛り込んだ種類株式では、 株主総会や取締役会などの承認を受けない限り、第三者に対して当株式を譲渡できないよう制限できます。
また、取得条項を盛り込んだものは、定款に規定された事由が発生した場合、企業が株主の同意を得なくとも、株式を取得できます。そして、全部取得条項を盛り込んだものは、株主総会の決議で企業が全ての株式を取得することが可能です。
種類株式
本章では、9つの種類株式の内容を順番に解説します。
剰余金の配当
株主に交付する配当財産(株式会社が剰余金の配当をする場合における、配当する財産)の価額を決定する方法、剰余金の配当を支払う条件、剰余金の配当に関する取扱い(地位の優劣)などの決まりがあるものです。
この規定によって、配当の支払いに関して他の株式よりも優越的な地位が認められるものは「優先株式」、標準的な地位に置かれるものは「普通株式」、劣後的な地位に置かれるものは「劣後(後配)株式」と呼ばれています(後述の「残余財産の分配」にも同様の分類が存在)。
残余財産の分配
株主に交付する残余財産(会社を解散・清算する際に、債権者に対して債務の支払いを行った後に残った資産)の価額を決定する方法、残余財産の種類、残余財産の分配に関する取扱い(地位の優劣)などの決まりがあるものです。これを活用すると、会社が倒産や合併などにより解散もしくは清算する際、負債などを返済した後に残った財産の株主への分配額に差を付けることが可能です。
例えば、「残余財産の分配に関して、当該株式の払込金相当額を限度として普通株式に優先する」といった規定を設けることで、株主からすると投下した資本の回収可能性を高められるメリットがあります。
剰余金の配当と合わせて、以下の記事で詳しく解説していますので、ご参考にしてください。
優先株とは?投資家と企業双方のメリット・デメリット、種類を解説
議決権の制限
株主総会において、決議への参加を制限するものです。「経営への関与には興味がなく、利益のみを追求したい」という投資家・株主に向けて交付されることがあります。
上記の場合、株主に認められている議決権を放棄する代わりに、高配当を要求する傾向があることから、剰余金の配当優先株式と抱き合わせて発行されるケースが多く見られます。
なお、無議決権株式を発行することも可能ですが、その場合であっても当該種類株主は種類株主総会において議決権を行使できます。
また、公開会社では、議決権制限株式が発行済株式総数の2分の1を超えた場合、直ちに発行済株式総数の2分の1以下にする措置を取らなければなりません。その一方で、非公開会社には、このような規制は設けられておらず、1株のみ議決権が付与されていれば、他の株式はすべて無議決権株式とすることも認められています。
議決権の制限に関する詳細は、以下の記事で解説しています。
議決権制限株式とは?ポイントや株式総数の制限、定款記載例を解説
譲渡制限
株主総会・取締役会・代表取締役などの承認がないと、株式を第三者に対して譲渡できないよう制限をかけられたものです。
譲渡制限付株式を発行する目的の1つに、第三者による会社の乗っ取りを防ぐことが挙げられます。会社に不利益をもたらす第三者に株式が譲渡されようとしている場合、第三者への譲渡を会社が認めない限り、第三者に株式を譲渡することはできず、会社が乗っ取られることはありません。
より詳しく知りたい場合は、以下の記事をご確認ください。
譲渡制限株式とは?ポイントと譲渡の流れ、注意点をわかりやすく解説
取得請求権
当該株式について、株主が会社に対してその取得を請求できる決まりがあるものです。
取得請求権を行使された会社は、その請求を拒否することは認められず、定められた種類の対価(例:普通株式・社債・新株予約権・その他のタイプの種類株式など)を株主に交付しなければなりません。
取得請求権を盛り込んだ株式を活用すれば、自社の経営に相応しくない者に株式が渡らないよう譲渡制限を設けている場合であっても、自社が株式の買い取りを保障できます。これにより、「株主が株式を売却したくてもできない」というトラブルの発生を防ぎ、投資家が実際に投資するハードルを下げる効果が期待できます。
以下の記事で詳しく解説していますので、ご参考にしてください。
取得請求権付株式とは?ポイントや活用例、定款記載例をわかりやすく解説
取得条項
当該株式について、一定の事由(例:株式を公開した、会社が定める日が到来した、株主が亡くなったなど)が生じたことを条件として、会社が強制的に株式を取得できる決まりがあるものです。強制的に権利を行使できるため、株主の同意は不要であるものの、会社は株式を取得する際、株主に対価を支払わなければなりません。
取得条項に関する詳細は、以下の記事で解説しています。
取得条項付株式とは?ポイントや相続、事業承継での活用、注意点を解説
全部取得条項
株主総会の特別決議によって、会社が株主の持っている株式すべてを取得できる決まりのあるものです。会社は、株主からすべての株式を取得する対価として、金銭や株式などを株主に与えます(対価なしと設定することも可能)。
全部取得条項付株式は、少数株主の排除(スクイーズアウト)、100%減資、敵対的買収の防衛策などの手段として活用できます。
より詳しく知りたい場合は、以下の記事をご確認ください。
全部取得条項付株式とは?ポイントや定款変更の方法、取得の流れを解説
拒否権
株主総会もしくは取締役会において決議すべき一定の事項を否決できる決まりのあるものです。非常に強力な権力を持つことから、黄金株とも呼ばれています。
拒否権付株式を発行する会社では、一定の事項に関して、株主総会もしくは取締役会における決議だけでなく、拒否権付株式を持つ株主による種類株主総会の決議も必要になります。
この株式を発行する主なメリットは、保有株式が1株であっても議案を否決できること、敵対的買収の防衛策として機能すること、経営者が引退した後も経営に大きな影響力を持てることなどが挙げられます。
以下の記事で詳しく解説していますので、ご参考にしてください。
黄金株(拒否権付株式)とは?ポイント、メリット・デメリットを解説
役員選任権
種類株主総会において、取締役や監査役を選ぶことができる決まりのあるものです。役員選任付株式を発行すると、特定の株主のみが選任に携わることになります。たとえ保有株式が1株のみだったとしても、役員選任に関して会社に強い影響力を持てる点が特徴的です。
なお、役員選任権付種類株式は、公開会社(全部または一部の株式について、譲渡制限がない株式を発行できると定款で定めている会社)および委員会設置会社(指名委員会、監査委員会、報酬委員会の3つの委員会を設置する会社)では発行できません。つまり、委員会を設置していない非公開会社のみが、役員選任権付種類株式を発行できます(会社法108条1項但書)。
なぜなら、この株式は経営者による会社支配の手段として利用できることから、多くの投資家が株主になりうる公開会社で発行されると、株主が不利益を被るおそれがあるためです。
役員選任権に関する詳細は、以下の記事で解説しています。
役員選任権付種類株式とは?ポイント、公開会社での制限について解説
種類株式のメリット
本章では、種類株式の発行によって企業に期待されるメリットの中から、代表的な2つをピックアップし解説します。
資金調達がしやすくなる
出資者から新たな出資を受け入れる形で増資を行う際、投資家や既存株主から資金を集める必要がありますが、このときに必ずしもスムーズに出資者を確保できるとは限りません。
こうした状況で資金調達が難しいという場合に、種類株式を活用することで、自社に対する投資の魅力度を向上させられて、資金調達が容易になる可能性があります。
例えば、普通株主に優先して剰余金・残余財産の配当を受けられるように権利内容を盛り込んだ種類株式を活用することで、これらの種類株主はより多くの経済的利益を得られるようになります。
また、種類株主総会で重要な会社の判断事項に関して拒否したり、役員を選任したりできるように権利内容を盛り込んだ種類株式を活用すれば、これらの種類株主に投資先企業のガバナンスに関われる権利を与えることが可能です。
このように種類株式を活用すれば、投資家が投資を実施するインセンティブが向上することから、企業側からすると資金調達を行いやすくなるメリットがあります。
経営の自由度を確保しやすい
増資に伴い自社の支援者(株主)が増えること自体はメリットであると考えられるものの、株主は容易に切り離せない点には注意が必要です。とりわけ未上場企業の場合、一度株主になったら会社側の都合で切り離すのは非常に困難です。これは、株式市場において手軽に株式を売買できないうえに、増資に応じた株主が短期間で売買取引を求めるケースは少ないためです。
ところが、増資に際して種類株式を用いれば、経営者が継続して経営の自由度を確保していくことが容易になります。例えば、議決権制限株式を発行することで、保有する株主が株主総会で議決権を行使することを防げます。
そのほか、取得条項付株式、全部取得条項付株式を発行することで、自社の経営にとって好ましくない者が株主となって会社経営に介入することを防ぐことが可能です。
このように、種類株式の権利内容によっては、経営の自由度を確保しやすくなるメリットが期待できます。
種類株式のデメリット
企業が種類株式を発行する際の注意点を強いて挙げるとするならば、管理に手間がかかることです。とりわけスタートアップやベンチャーの場合、資金調達を複数回実施していく中で、各資金調達ラウンドを通じて発行する種類株式の数や種類が段階的に増えていくことが想定されます。そのため、自社で発行している種類株式を把握・管理しておかなければならず、これに手間を感じることがあります。
また、未上場株式ではあまり考えられませんが、株式の売買で利益を上げたいと考えている投資家にとっても、デメリットが生じる可能性はゼロではありません。このデメリットは、特に企業が優先株式を活用し資金調達を行う際に、問題となりやすいです。
優先株式を保有する株主には、剰余金の配当や残余財産の分配に関して優先権を確保できるというメリットが期待されます。しかし、このメリットが十分に機能するのは、あくまでも株主となる投資家が剰余金や残余財産の受け取りによって利益を獲得したいと考えている場合に限定されます。
つまり、上記の種類株式は、株式の売買を通じたキャピタルゲインの獲得を図りたい投資家からすると、取得に適さない可能性があります。このように、種類株式に盛り込む権利の内容によっては、出資を望まない投資家がいることを把握しておきましょう。
まとめ
近年、とりわけスタートアップやベンチャーなどにおいて、資金調達をする際に種類株式を利用するケースが多く見受けられます。ただし、種類株式の仕組みは複雑であり、複数の種類を抱き合わせなければマイナスの効果となってしまうリスクもあります。
種類株式を発行する際は、その前提として、9つに分類された権利・義務の内容をしっかりと理解し、自社の目的を叶えるための手段として相応しいかどうか念入りに検討することが大切です。不明な点があれば、専門家の意見を聞くことも望ましいです。