資金繰りとは?経営者が知っておくべき基礎知識を網羅
【目次】
資金繰りとは?
資金繰りとは、資金のやりくりのことで、一定の期間にわたって資金の「収入」と「支出」を対照させて過不足を調整する行為をさします。通称、「金繰り(かねぐり)」とも呼ばれています。
なお、企業が資金繰りを行うケースでは、設備資金と運転資金に分けたうえで、前者に関しては長期資金繰り計画を、後者に関しては短期資金繰り計画をそれぞれ作成するのが一般的です。
また、上記の計画を作成する際は、一定期間における資金の需給を調節し、不足分は借入によって資金調達する一方で、過剰分は効果的な資産運用を図るケースが多く見られます。このときには、資金繰り表(資金計画表・資金運用表)が用いられるのが一般的です。
【重要】利益とキャッシュフローは異なる
資金繰りを考える際は、まず企業の利益とキャッシュフローは異なる概念であることを把握しておくことが大切です。
利益とは、「収益(例:売上)」から「費用(例:仕入)」を差し引いたものをさします。これに対して、キャッシュフローとは、企業活動や財務活動などによって実際に得られた「収入」から、外部への「支出」を差し引いて手元に残る資金の流れのことで、資金繰りに直接的な影響を及ぼす要素だといえます。
この違いを把握しておくと、利益を出していて黒字の状態にある企業であっても資金繰りが悪化する場合があることを理解する助けとなります。
黒字でも資金繰りが悪化する場合がある
ここでは、黒字でも資金繰りが悪化する場合がある理由を説明するために、収入(売上)が100万円、費用が70万円、利益が30万円発生した企業のケースを用います。
このケースにおけるキャッシュフローは、取引条件の違いにより下記のとおり変動します。
- 条件A:現金売上(100万円)−現金仕入(70万円)=キャッシュフロー(30万円)
- 条件B:掛売上(100万円)−掛仕入(70万円)=キャッシュフロー(0円)
- 条件C:現金売上(100万円)−掛仕入(70万円)=キャッシュフロー(100万円)
- 条件D:掛売上(100万円)−現金仕入(70万円)=キャッシュフロー(−70万円)
掛売上は、売掛とも呼ばれ、売上を計上しているものの、代金が未回収である状態のことです。一方、掛仕入とは、買掛とも呼ばれ、商品を受け取っているものの、代金が未払いの状態をさします。
つまり、条件Dのケースのように、収益が費用を上回っている(利益が出ていて黒字である)状態であっても、掛売上による未収金があるためにキャッシュフローがマイナスとなり、資金繰りの悪化を招くおそれがあります。
資金繰りが悪化する原因5選
本章では、資金繰りが悪化する原因の代表例を5つ取り上げます。
原因①赤字状態の継続
黒字でも資金繰りが悪化する場合があると述べましたが、もちろん赤字経営の状態が継続すれば資金繰りの悪化を招きます。事業が順調に進んでおらず、支出が収入を超過する赤字の状態が継続すれば、資金不足に陥り、資金繰りが悪化します。
原因②過剰在庫、過剰な設備投資
業績が好調で利益を出している企業であっても、商品在庫を過剰に抱えたり、過剰な設備投資を行ったりした際に、一時的に資金繰りが悪化することがあります。
原因③売上が大幅に伸びた
売上の大幅な伸長も、資金繰り悪化の原因となります。なぜなら、たとえ帳簿上で大きな売上が出たとしても、それに伴い仕入額が増加すれば、資金不足に陥ることがあるためです。
こうした理由により、例えば、ある取引先からの売上代金の入金前に、別の取引先に仕入代金を支払わなければならないケースで、資金繰りが悪化します。
そのため、新規の大口取引の受注は慎重に行い、必要に応じて増資や金融機関からの融資などの活用も検討しましょう。また、現金での取引や、支払期日が早く到来するように交渉することも有効策です。
原因④売上が大幅に減った
売上が大幅に減少すれば、もちろん資金繰りの悪化につながります。売上が減少する要因は、自社だけでなく、経済情勢や取引先の業績悪化などの外部状況にある場合もあります。
こうした不測の事態に対応すべく、日本政策金融公庫では、経営環境変化対応資金(セーフティネット貸付)という融資制度を設けています。これは、社会的・経済的環境の変化などにより資金繰りが悪化している中小企業を対象とする融資制度です。
一時的に資金繰りが悪化しているものの、中長期的に回復する見込みがある場合には、申請を検討してみるのも1つの有効策だといえます。
参考:日本政策金融公庫「経営環境変化対応資金(セーフティネット貸付)」
原因⑤債権の貸倒れ、得意先の倒産
万が一、何らかの理由(例:倒産)により取引先から代金の支払いが行われなければ、貸し倒れとなり資金繰りが急激に悪化します。最悪のケースでは自社の倒産にもつながるため、交渉により取引条件がまとまらない場合は大口の注文であっても慎重に判断する姿勢を持つことが大切です。
資金繰りを悪化させないためにすべきこと
資金繰りを悪化させないためには、はじめにキャッシュポジションを高めることが大切です。合わせて、資金繰り表をつけることも望ましいです。それぞれの施策について、順番に解説します。
キャッシュポジションを高める
キャッシュポジションとは、手元流動性とも呼ばれ、特定時点における現金預金と短期所有の有価証券(例:短期的な資金運用のもと、株式の売買差益の獲得を目的に所有する株式)の合計量をさします。
資金繰りの悪化を回避するには、事業内容にもよりますが、最低でも月商の1〜2カ月程度、可能であれば月商の3カ月程度までキャッシュポジションを高めることが望ましいです。これにより、資金繰りが多少悪化したとしても、経営者が怯えずに済む体制づくりにつなげられます。
資金繰り表をつける
資金繰り表をつけることで、資金の流れを把握しやすくなります。
作成方法に統一的なルールはないものの、日本政策金融公庫がフォーマットを公開しているので参考にすると良いでしょう。資金繰り表に盛り込む項目例は、以下のとおりです。
項目 | 記載内容の説明 | |
前期繰越現金・当座預金 | 決算書・試算表・総勘定元帳などをチェックして記載 | |
営業収支 | 営業収入 | 売上・売掛金の回収・受取手形入金・前受金入金などを記載 |
営業支出 | 現金仕入・買掛金支払い・支払手形決済、未払金支払い・給与・経費などを記載 | |
財務収支 | 財務収入(例:借入による現金調達・受取利息・受取配当金など)、財務支出(例:毎月の借入返済・支払利息・配当金支払など)を記載 | |
翌月繰越現金・当座預金 | 最終的な収支の結果(翌月に向けて残る金額)を記載 |
資金繰り表をつける際は、営業収支がプラスとなっているかどうかを確認することが大切です。営業収支が経常的にマイナスになっている場合は、事業が順調に進んでいない状態にあることを意味します。
また、人件費をはじめ過剰な設備投資をしていないかどうかの確認も大切です。長期的な視点のもと、資金不足が発生しないかチェックしましょう。
参考:日本政策金融公庫「中小企業事業、経営計画策定に役立つ各種資料について」
資金繰りを改善する方法
悪化した資金繰りを改善するためには、前述の資金繰り表を作成し現状を把握したうえで、経費削減や資金調達などの方法を採用するのが効果的です。それぞれの概要を順番に解説します。
経費削減
経費削減を行う際は、資金繰り表に加えて損益計算書も用いて分析を行い、余剰経費や削減できる経費を洗い出すことが望ましいです。その際、例えば以下の視点で自社の経費の支払い状況を見直してみると効果的であると考えられています。
- スタッフを必ずしも雇用するのではなく、適切なリソースを外部に発注することで人件費・求人広告費を削減できないか
- 機器や設備を必ずしも購入するのではなく、リースにより商品や資材を借り入れることで設備費用を削減できないか
- 金融機関借入が複雑化している場合は、借り換えや一本化することで金利や毎月の返済額の負担を軽減させることができないか
資金調達
資金調達により手元に現金を集めれば、キャッシュフローおよび資金繰りの改善につながります。資金調達を行う際には、主に以下の手段が採用されます。
- 株主や投資家から出資を受ける
- 金融機関から融資を受ける
- 国や地方自治体の補助金・助成金制度を利用する
- クラウドファンディングで参加者から資金を募る
- ファクタリング会社に売掛債権を買い取ってもらう
- ビジネスコンテストを通じて資金調達をサポートしてもらう
上記のような施策のほか、決算書の貸借対照表を確認し、資金化されていない資産(例:未回収の売掛金・放置されている在庫・生産に使われていない固定資産・保有する必要のない有価証券など)を見直すこともおすすめです。これらの資産を資金化し、資金繰りが大幅に改善されたというケースも少なからず見られます。
まとめ
資金繰りとは、一定の期間にわたって資金の「収入」と「支出」を対照させて過不足を調整する行為のことです。
資金繰りを考える際は、前提として、企業の利益とキャッシュフローが異なる概念であることを把握しておきましょう。これにより、黒字でも資金繰りが悪化する場合があることを理解できます。資金繰りが悪化する主な原因は、以下の5つです。
- 赤字状態の継続
- 過剰在庫、過剰な設備投資
- 売上が大幅に伸びた
- 売上が大幅に減った
- 債権の貸倒れ、得意先の倒産
上記を踏まえて、資金繰りを悪化させないためには、「キャッシュポジションを高める」「資金繰り表をつける」といった施策が有効です。
また、すでに資金繰りが悪化しており改善を図りたい場合は、「経費削減」「資金調達」などの方法を採用することが望ましいです。