2023/1/24

東大IPC DEEPTECH DIVE Live! #12「世界最大のオールリモート企業GitLabに学ぶ!組織の自律自走を促すコミュニケーション」ハイライトレポート

東大IPC DEEPTECH DIVE Live! #12「世界最大のオールリモート企業GitLabに学ぶ!組織の自律自走を促すコミュニケーション」ハイライトレポート

東大IPCのオンラインキャリアイベント「DEEPTECH DIVE LIVE!」第12回を2022年7月29日(金)に開催しました。このイベントは、キャリアコミュニティサービスDEEPTECH DIVEについて知っていただくために、東大IPCの支援するスタートアップ企業にご登壇いただき、業界の動向、起業エピソード、直近の募集職種などについてカジュアルにお話しいただくというものです。

今回は「世界最大のオールリモート企業GitLabに学ぶ!組織の自律自走を促すコミュニケーション」をテーマに、DevOpsプラットフォーム「GitLab」を展開しており、67カ国以上にまたがる1,600名以上の従業員を抱えながら、2014年に法人化して以来、全チームメンバーが100%リモートでオフィスを持たずに会社を運営しているGitLab Inc.のソリューションアーキテクトとして活躍する伊藤俊廷さんと佐々木直晴さんの2名にお越しいただき、最高の働く環境の作り方について知見を披露いただきました。こちらの記事では、特に盛り上がった内容についてハイライトでお伝えします。

▼登壇者プロフィール(順不同)

伊藤 俊廷氏 GitLab Inc. ソリューションアーキテクト

日本のSIerでソフトウェア開発、プロジェクト管理、技術調査、海外勤務等の業務に従事した後、米国のアプリケーションセキュリティベンダーにて、戦略顧客にソリューションを導入する任務を担う。現在は、GitLabのAPACリージョンのソリューションアーキテクトとして、顧客のDevOps/DevSecOpsでの成功に向けた課題解決を行う。

佐々木 直晴氏 GitLab Inc. ソリューションアーキテクト

2010年野村総合研究所に入社、Webシステムを中心とした開発のテクニカルメンバーとして様々な業種のアジャイル開発プロジェクトに参画し、アーキテクチャ設計やCICD環境構築などを担当。2021年7月よりGitLabに入社し、Senior Solutions Architectとして、導入に際する技術検証や、顧客社内の開発プロセスの可視化・刷新などに従事。

久保田 健瑛氏 レペリオ株式会社 代表(Q&Aセッション モデレータ)

情報科学修士(名古屋大学大学院)、MBA(グロービズ)、ソフトバンクアカデミア。MURC LEAPOVER採択(2017年)、AIアクセラレータ10期採択(2019年)。

GitLab Inc.のトークセッション

ケース1:そっけない返事

佐々木:メールやチャットツール・打ち合わせなどの場面で、コミュニケーションの行き違いが生まれることって少なくないですよね(※上記の画像参照)。この行き違いの多くは、コミュニケーションの目的と手段にズレがあることで生じています。

コミュニケーションの仕方による行き違い

私たちは、こうした行き違いを無くすために、コミュニケーションの仕方を意識的に変える必要があると考えています。

コミュニケーションに関する観点

コミュニケーションに関する観点

伊藤:ここからは具体的な事例を見ながら、課題の改善方法を説明していきます。私たちは、コミュニケーションに大切な観点は2つあると考えています。

いわゆる「コミュ力」を伸ばすためには、1つ目の「相手の感情、心理を考えた観点」を押さえることが大切であると考えられています。この観点については現在までにさまざまな本が出版されており、これをお聞きになっている皆さんも積極的に学んでほしい観点ですが、本日のテーマとしてお話するのは2つ目の「手段の観点」です。つまり、「いつどのようなコミュニケーション手段を取るか」という観点です。

手段の観点は世の中でそれほど盛んにディスカッションされておらず、軽視されている風潮があるように思っていますので、本日はこの点を中心に取り上げていきます。例えば、「同期か、非同期か」「コミュニケーションのベースとなるものは何か」「複雑化される業務の中でどう効率よく協調するか」といった点を考える必要があると思っています。

手段の観点も重要視する理由

手段の観点も重要視する理由

伊藤:これは極端な例ですが、誰もが羨むコミュニケーションスキルを持っている人がいるとします。仮にこの人が「チームメンバーに対して、電話でしかコミュニケーションを取らない」という謎のポリシーを持っていた場合、各メンバーがどのように困ってしまうのか考えてみます。皆さんにも似た経験があるかもしれません。

よくある惜しい働き方改革:業務の自動化

よくある惜しい働き方改革:業務の自動化

伊藤:働き改革の一環として、多くの企業で業務の自動化が推進されています。例えば、ソフトウェア業界ではデータ入力のインプット業務などで自動化が進んでおり、これは私も非常に重要なことであると考えています。ただし、業務の自動化ばかり着目されてしまい、ミーティングを何度も重ねたり、そもそもミーティングの実施日までに待ち時間や調整のためのコミュニケーションが生じたり、ミーティングでの指摘に対応したことで再度ミーティングを実施したりといった課題が生じるケースが多いです。

解決策:コラボレーション方法の効率化

解決策:コラボレーション方法の効率化

伊藤:例えば、複数のミーティングを経た後に合意事項を達成できるといった事例に対しては、チャットツールやチケットなどを活用しながら、非同期的にコミュニケーションを行うことで効率化を図れます。

よくある惜しい働き方改革:チャットツールの導入

よくある惜しい働き方改革:チャットツールの導入

伊藤:もう1つ事例を紹介します。コミュニケーションを効率化するためにチャットツールを導入するというのはよくあるケースで私自身も正しい施策だとは思いますが、ただ導入しただけで放置するというケースも多くあります。

例えば、いつの間にかチャットに対して即レスすることが暗黙のルールとなってしまい、隣同士で座ってコミュニケーションするときよりも非効率的になっている状況が見られます。

解決策:チャットツールの役割の明文化

解決策:チャットツールの役割の明文化

伊藤:チャットツールを導入する際に使用にあたってのルールを定義することが大切です。実際にGitLab社では、ルールをなるべく定義しています。ルールを定義したうえで、使用者全員が同じ認識のうえで最適なチャットツールを使用していくことが解決策の1つです。

よくある惜しい働き方改革:ミーティング時間の短縮

よくある惜しい働き方改革:ミーティング時間の短縮

伊藤:続いて、働き方改革の一環として、ミーティング時間の短縮を図った事例です。表面上は作業時間が大幅に増えたように見えますが(※上記の画像参照)、作業者にとっては2〜3時間などある程度連続した作業時間がないと、資料作成やコーディング、トレーニングの受講などに着手しづらいという問題があります。

単純にミーティング時間を短縮するだけでは効果が一定的であり、そもそもミーティング自体をやめることも検討することが大切です。

解決策:Focus Timeの設定

伊藤:これは根本的な解決には至らないものの、Focus Timeをあらかじめ設定することが効果的です。Focus Time以外の時間にミーティングが入ってくるという仕組みにすることで、Focus Timeを使って集中が必要な作業を進められるようになります。

作業している時間は、基本的にチャットやメール通知はオフにした方が望ましいです。また、1日にできるミーティングの上限を抑えることができるので、不要なミーティングについて議論することにもつながります。

野球とコミュニケーション

野球とコミュニケーション

佐々木:ここまでをまとめると、ミーティングなど同期的なコミュニケーションを減らすことが大切であるといえます。しかし、同期的なコミュニケーションを減らした状態でこれまでのような成果を出すためにはどうしたらよいのか考えていきます。

それでは、ここでクイズです。野球でランナーが詰まっていて、フルカウントという場合、ピッチャーが投球したらランナーはどうするのがセオリーなのか考えてみてください。答えをいうと、ピッチャーが投球した瞬間に、ランナーは次の塁に走るのがセオリーです。この場合、走るメリットしかなく、デメリットはありません。

カウントがわかれば行動に移せる

カウントがわかれば行動に移せる

佐々木:それでは、なぜランナーがこうした行動を監督からの指示やミーティングなしで行えるのかを考えてみます。野球の場合、現時点のカウントがわかるために、行動に移せます。これを人類全体の知見に置き換えると、「情報が可視化されていると、メンバーは自律的な行動が取れる」といえます。野球中継を見たことがある方はわかると思いますが、スコアボードの情報はチームメンバーも審判も監督も観客もテレビの視聴者もみんな同じものを見ています。

これを情報科学の分野では、SSOT(Single Source of Truth)、日本語でいうと「信頼できる唯一の情報源」と呼んでいます。SSOTがあることで、沢山の情報でも効率的に共有でき、みんなが同じ気持ちを抱き、期待を持ち、連携しあえるようになるのです。私たちはこのSSOTが重要だと考えています。

同期コミュニケーションと非同期コミュニケーション

同期コミュニケーションと非同期コミュニケーション

佐々木:同期と非同期のコミュニケーションは優劣の関係にはなく、いずれの手法も状況に対して向き不向きがあります。チームで成果を出していくためには、必ずコミュニケーションが求められます。しかし、多くの企業の場合、打ち合わせだけや電話だけのように、同期コミュニケーションのみという前提で業務を進めることは不可能だと思います。

やはり各メンバーが集中するための時間が必要であり、会議のスケジュールが合わない場合などにチャットツールの活用は必要不可欠となります。なので、この2つの手法を意識して使い分ける必要があると考えています。

同期コミュニケーションも大切

同期コミュニケーションも大切

佐々木:同期コミュニケーションは大事な同期ポイントとして機能します。つまり、複数人が同時に質問し合い、認識を合わせることは大切なのです。これをしっかり機能させるには、同期コミュニケーションを行ったタイミングで、次の同期ポイントまでの具体的な行動や成果物などの情報をしっかり認識合わせを行い、それまでの期間を個人かつ非同期期間に委ねる必要があります。

これが、非同期期間をリモートワークやオフィスでの各自作業に割り振って業務を効率化していくための大きなポイントだと考えています。実際にGitLab社では、入社時にやることも細分化、明文化かつ公開されており、非同期で自身のペースで実施可能となっています。

コミュニケーション手段の使い分け

コミュニケーション手段の使い分け

伊藤:続いて、GitLab社の事例をもとにコミュニケーション手段の使い分けについて紹介します。GitLab社ではさまざまなコミュニケーション手段をどのように使用するのかハンドブックに定義し、各メンバーが共通認識を持ちながら業務に取り掛かっています(※上記の画像参照)。

手段の使い分けから伝えたいこと

手段の使い分けから伝えたいこと

伊藤:今回ご紹介したものは、あくまでもGitLab社としての一例にすぎません。この通りにしなければならないという意味合いもなく、「このようにして手段を定義しましょう」というメッセージです。手段を定義することで、例えば、「イシューの内容を見てくれない」「Slackチャンネルだけに決定事項を残して逃げ去る」「すぐに電話をかけてくる」といった立ち回りをするメンバーを減らして皆さんが同じルールのもとでチャンネルを使うことで効率化を図れます。

スタートアップでコミュニケーション設計がしやすい理由

スタートアップでコミュニケーション設計がしやすい理由

伊藤:こうしたコミュニケーション上のルール設計は、組織規模の小さい頃に行った方が容易です。コミュニケーション設計のパラメータはさまざまありますが、例えば「デフォルトの文書の共有範囲」「デフォルトの情報の存在場所」「デフォルトのコミュニケーション方式」といったパラメータは組織の規模が小さいうちに定義すると浸透しやすく、文化としても醸成しやすいです。

コミュニケーション手段の特性

コミュニケーション手段の特性

伊藤:正確なものではありませんが、これまで登場した手段を2軸でマッピングしました(※上記の画像参照)。「透明性の高い文書」はGitLab社のハンドブックを想定して記載しています。「透明性の低い文書」とは、部署をまたぐと見えなくなるものを想定しています。最終的には右上の部分「透明性の高い文書」に集約していくと、長期的な組織全体の効率化を図れると考えています。

パネルセッション・Q&A

久保田:ここからはパネルセッション・Q&Aに移ります。これは事前に寄せられていた質問ですが、オールリモートのコミュニケーションと出社の違いはどういったものでしょうか?

佐々木:そもそも私たちはオフィスがないので出社できないのですが、とはいえ私や伊藤のようなエンジニアのロールで実際にちょっと集まってホワイトボードに書きながらミーティングをすることもあります。ミーティングの方が効率的なものもあります。ただし、基本的にはオールリモートのポリシーを持っており、非同期で情報を可視化するメリットもありますので、この点をしっかり意識しながら普段の業務に取り組んでいます。

久保田:実際に集まってミーティングを行う頻度はどれくらいでしょうか?

佐々木:現在は3週間に1度くらいですかね。

伊藤:私たちの間ではそれくらいですね。付け加えると、もともとGitLab社はコロナ禍の前には、9カ月に1度、全社員が世界中のどこかに集まっていました。グループによってまちまちな部分はありますね。

オールリモートでも出社でも共通点があって、「常に同期的なコミュニケーションはできない」という点です。なので、リモート・出社という部分は意識せずに、コミュニケーションが同期的なのか非同期的なのかを意識することがベストだと考えています。

グローバル企業ゆえの課題

久保田:続いての質問です。グローバル企業なので、タイムゾーンがすれ違うことは課題になりませんか?

佐々木:非同期コミュニケーションなので、タイムゾーンがすれ違うことは基本的に課題にならないと考えています。

伊藤:私個人は現実問題として課題は存在すると考えていて、根本的な解決策を見つけられずにいますね。例えば、アメリカにいるメンバーとの間でSlackを使う場合は1日1往復ほどしかやりとりできず、それ以上行うためにはどちらかが業務時間外に働く必要があります。こうした制限がある中で、非同期のコミュニケーションを最大限に活用すればある程度は改善されると考えています。考え方としては、さまざまな手段を組み合わせて使いながら、課題の数を減らしていくことが可能だと思っています。

GitLabのユニークな就業規則・セキュリティ

久保田:最後の質問です。オフィスを持たないということで、就業規則やセキュリティ関係でユニークなものがあればお伺いしたいです。

伊藤:これはリモートという性質とは関係ありませんが、1つ挙げるとすれば「Family&Friends Day」というものがあります。これは半強制的に有給休暇を取る制度で、皆さん基本的にその日は休みましょうというものです。

あと、実はGitLab社では有給休暇を無限に取れますね。実際にするかどうかは別ですが(笑)。有給休暇を取得するためにも、非同期的なコミュニケーションがうまく機能していないといけませんよね。いきなり休んでしまうことで、チームに迷惑がかかってしまいますから。

佐々木:データのガバナンスや就業規則でいうと、私たちは基本的に年俸制で業務時間が定まっておらず、役割とロールで業務に取り組んでいます。成果さえ出せれば、基本的に何時間働いても問題ありません。

セキュリティ面でいうと、例えば「MacBookにこういう設定をして」といった決まりが事細かに定められていて、そこで縛っている形ですね。

久保田:本日はどうもありがとうございました。

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