株式会社Alivas
第一回起業支援プログラムで採択された株式会社Alivas の田島CEOへお話を伺ってきました。田島CEOは現役の医師でもあります。
東京都の先端利用機器アクセラレーションプロジェクト(AMDAP)の採択や、ちば中小企業元気づくり事業基金 成長分野研究開発助成への採択など、事業の訴求力が強く、周囲の注目を集める秘密について探っていきます。
「まずは、事業概要のご説明をお願いします。」
私達は難治性便秘を治療する新しい医療機器の研究開発をしています。便秘は人口の14%が罹患していると言われる非常に一般的な慢性疾患ですが、実は患者さんのQOLは非常に低いことが知られています。特に、薬剤治療で十分にコントロールできない難治性慢性便秘に対する治療手段は限られており、多くの患者さんは病状に苦しみながらの生活を強いられています。私達はこうした方を対象に医療機器による低侵襲治療という新しい選択肢を提供したいと考えています。
「起業のきっかけを教えてください。」
私はもともと東大の出身なんですけど、2年次にゼミを選ぶ時があって、その中で何でもいいから起業しようというゼミがあり参加しました。工学部が主催で、経済学部の学生もいましたが、医学部はもちろん私1人でした。それまで学部が違う人たちとあまり交流は無くて、医学部も生物学系や医学系の人たちとの交流が中心だったので、すごく新鮮で面白かったです。学生なので何をやったらいいのかわからない、社会でどういった課題があるのかということも実感として持てない中、当時の流行もあり、とにかくIT化して事業化しようとしていたゼミでした。いろいろ迷走はしましたが、他の医学部生の中では特殊な起業に関わる経験ができたのは大きかったです。起業という選択肢があるんだ、自分たちでも何かできるんだという認識を最初の時点で持てました。この経験が起業のきっかけとなりましたね。
「大学卒業後はどのような道を選んだのですか?」
研修医を終えて3年目になると専門科を選ぶことになりますが、私は治療に関わることをしたいという気持ちが結構あることに気が付きまして、循環器内科を選びました。循環器内科はカテーテル治療という治療手段があり、重篤な状態になって救急車で病院に来た人を治療して、治った治らないという世界なので、非常にわかりやすい、という点にやりがいを感じたことも選択した理由の1つです。
医者のキャリアは選択肢があるようでなくて、ざっくり分けると、そのまま臨床をやって一般病院でスキルを磨くか、大学病院に戻って論文を書いてアカデミックな世界で生きていくかの2択くらいです。私はあまり論文を書く世界には興味が持てなくて、一般臨床をやるのも楽しかったんですが、大学院に行ったことで一度臨床を離れたので、その次何をやるか、ちょっと立ち止まって考えようと思いました。
「現在に至るまでの経緯を教えてください。」
私は臨床をまず5年やって、ものすごく多忙ではありましたが非常に充実した日々でした。循環器内科医という仕事自体はとても好きだったのですが、研究の方も見てみたいと思い大学院に行ったんですね。そこでは4年間次世代シーケンサーを使って心疾患の遺伝解析などの研究をして、これも面白かったんですが、これはあまりにも臨床から遠いなと感じたんです。それで次に何をしようかなと思った時に、私はもともと起業の経験があったので、もうちょっと他のパスがあってもいいんじゃないかなと思ったんですね。そういう思いがある時に、ジャパンバイオデザインというスタンフォード大学の医療機器開発のための教育プログラムが東大でも始まるという連絡が全体メールで飛んできて、これは自分の状況とバックグラウンドに合っているんじゃないかと思って応募を決めました。
「ジャパンバイオデザインはどのようなプログラムなのでしょうか?」
10ヶ月間フルタイムのプログラムなので一言では言えないのですが、これはシリコンバレーのプログラムなので考え方が日本と全然違うんですね。内容が日本で教育されていないようなことだったので衝撃的でした。日本の教育は問題解決の方法論については詳しく教えるんですけど、そもそもどういう問題に取り組んだらいいのかということはまず学ぶことがないんですね。私も学位論文を書くときに、テーマをあまり考えずに決めたんですけど、よく考えれば4年間費やすテーマを適当に決めて良かったのかなと改めて思うんです。そのテーマ自体が突き詰めても何もならない、発展性のないテーマであったり、あまりに博打度が高いテーマという可能性も結構あるわけで、やっぱりテーマは慎重に選ばないといけない。学位論文なら学位がとれればいいかもしれませんが、起業となるとそうは行きません。それがバイオデザインのプログラムなんです。数打ちゃ当たるじゃないですけど200くらいテーマとなる未解決医療ニーズを並べて、どれが1番有望か選ぶところから始める。結構システマチックなプログラムで、こういう視点が研究にしても何にしても日本には結構必要なんじゃないかなと思います。
「事業の分野を決定した決め手は何だったのでしょうか?」
取り組む分野を決めるために、実際に病院へ行って未解決ニーズを200から300くらい見つけてくるんですね。それらを点数付けして高いものを残して、残ったものをさらに調べてというサイクルを回して、取り組むべきニーズを絞っていくんです。そして、それを解決するための手段をブレインストーミングなどで考えていき、最後に知財・薬事・治験戦略などの視点も加味して1番良いものを選ぶ。その結果、今取り組んでいる分野にたどり着いたということになります。
「医者としてのキャリアはどのようなものがあるのでしょうか?」
医者で起業している人は少しずつ増えてきていると思うんですが、皆さんAIとかITを医療にからめたり、医者を対象としたSNSをやっていたりとか、遠隔医療システムを作ったりとか、周辺領域を攻めようとしているんですね。あまり医療自体に踏み込んでいる人はまだ多くはないんです。会社を起業するとなると利益を上げなくてはならないわけで、利益を追求することに対する嫌悪感、拒否感がある業界だと思うんですね。そのせいで、医者で起業していると言うと怪しい人と思われてしまうんです。
ただ、私としてはバイオデザインプログラムに入ってシリコンバレーで医療機器スタートアップを立ち上げている医師たちを見たせいか、起業に対する抵抗が無くなりました。今は新しい治療機器を開発しているんですが、医者として働いていた時と目指すところは同じなんですよね。違うアプローチでやっているだけで、結果的に患者さんを助けて私たちも経済的に成功できれば、みんなハッピーになるわけで何も恥じることは無いんです。また医療は基本的に1対1ですが、機器開発では臨床医ではアクセスできない数の患者さんの治療に関わることもできます。そういう医者の仲間が増えてくれるといいなという思いはあります。そもそも全く新しい医療機器って医者が発想しないと出てこないんです。メーカーの人は医療を自分たちでやったことはないので、機器の改良はできるんですが全く世の中にないものを作ることはできないので。
「共同創業者である竹下先生と出会ったきっかけは?」
私はバイオデザインのフェローチームの1年目で、彼は2年目のチームだったんです。竹下先生は便秘の治療というテーマは決まっていたものの、解決できるいい方法が思い浮かばないと悩んでいたので、一緒にブレインストーミングをしたんですね。そうしたら、今やっている良いコンセプトが出てきて、それがきっかけで一緒にやることになったんです。
「臨床の時にも、研究の時にも、感じられなかった起業して楽しいことは?」
まだ誰もやっていないことをやっているのはすごく面白いですし、起業に関わる細かいことでさえ、新鮮に感じながらやっています。本業以外のことは社長がやるべきではないという人もいますが、1度は自分でやってみたいと思っています。
また、これまではユーザーとして機器を使っていて、袋を開けたら出てくるものと思っていたんですが、今は、部材の設計や加工方法を考えて、試作でそれっぽいものができあがるのも面白いですね。普段何気ないものを自分で作ると面白いと思うんですけど、そんな感じです。
「これまでで一番パワーを使ったことは?」
まだ完了してないんですが、資金調達はかなりパワーを使いますね。我々の事業はビジネスモデルの部分はすごく単純で、開発を成功させて、それを売るという単純なビジネスモデルなんですけど、規制産業なので承認が得られる前の開発物を勝手に販売することはできません。最後の最後まで売上が立つことは無いので、それまでの運転資金は基本的にベンチャーキャピタルなどから出資を受けないといけません。資金を調達できないと先へ進めないこともあってストレスですね。
「東大IPCをはじめ、次々と採択されています。」
バイオデザインというプログラムが非常に良くできていたこともあって、ピッチコンテストなどの評判はかなり良いんですね。これまで参加してきた中で半分くらい優勝しています。起業のテーマは200から300の中から厳選したものを扱っているので、ちゃんと誰に対しても説明ができるので、すごく強いなと思います。
ピッチコンテストでは、どんな分野でもまずカスタマーのペイン(困っていること)を示して、それを自分たちが解決しますという話をすると思うんですが、医療系のテーマはペインが分かりやすくて強いんですね。コンシューマー向けの事業だと、便利にはなるんですがそれほどペインにインパクトが無い。医療系は誰でも経験したことがあって嫌な記憶も残っているので、納得感を持たせやすいんだと思います。
「最後に、起業を目指す医師の方へアドバイスをお願いします。」
医療機器を開発する仲間の医師がもっと増えてほしいです。臨床でも、研究でもない医師の第3のキャリアとして、医療機器開発が日本でも一般的になってほしいと思います。アプローチが違うだけで、むしろ基礎研究をやるよりは患者さんに近い道だと思います。そのように考えると、起業の道への抵抗も無くなるのではないでしょうか。医者はアルバイトでもある程度の収入を確保できるので、他の職業よりもリスクは低いです。なにより、やってみると毎日とても面白いです。