ベンチャーキャピタリストとは?業務や年収、求められるスキル・経験
【目次】
ベンチャーキャピタリストとは?
ベンチャーキャピタリストとは、ベンチャーキャピタルに所属する投資担当者のことです。キャピタルゲインの獲得を主な目的に掲げて、高い成長率が見込める未上場企業に対して、主に出資(株式の取得)の形で投資を行います。
投資を行った後、ベンチャーキャピタリストは投資先企業の株主となり、コンサルティングなどを通じて経営を支援し、企業価値の向上を目指すのが一般的です(ときには、ベンチャーキャピタリストが投資先企業の社外取締役に就任し、経営の一端を担う場合もあります)。
そして、企業価値が向上した投資先企業がIPO(株式公開)やM&A(バイアウト)などでイグジットを行う際に、株式を売却することで投資資金の回収およびキャピタルゲインの獲得などを図ります。
ベンチャーキャピタリストが所属するベンチャーキャピタルについては、以下記事で投資目的や仕組み、種類など詳細に解説しているので、併せてご確認いただけるとさらにベンチャーキャピタリストへの理解が深まります。
ベンチャーキャピタリストの業務内容
ベンチャーキャピタリストの業務内容には、主に「投資関連業務」「ファンドの組成・運営業務」の2つが存在します。本章では、これら2つの代表的な業務内容について詳しく紹介します。
投資関連業務
一般的に、ベンチャーキャピタリストが担う投資関連業務は、以下の5つに大別されます。
- 経営支援
- イグジット
それぞれの業務内容を順番に詳しく取り上げます。
ディールソーシング
ディールソーシングとは、投資案件を幅広く集めてアプローチを行う業務のことであり、ディールファインディングとも呼ばれています。ベンチャー企業側から投資検討依頼が持ち込まれる場合もあれば、ベンチャーキャピタルが有望なベンチャー企業を探索してアプローチする場合もあります。
デューデリジェンス
デューデリジェンスとは、数多くの投資案件候補の中から実際に投資すべき案件を見いだし、投資の適格性を精査する業務のことです。精査する分野は、ビジネスモデル・市場規模・成長性・財務状況・経営陣・人事・競合他社・株価・株式マーケットの状況のほか、税務・法務・労務など広範にわたります。
なお、一般的にベンチャーキャピタルからすると、投資先企業にはIPOやM&Aなどでイグジットを目指してもらう必要がありますが、投資先企業にIPOやM&Aを妨げられるような根本的な問題(資本関係や知的財産など)が潜んでいる場合、将来的にイグジットを果たせなくなるおそれがあります。
そのため、デューデリジェンスは、投資するかしないかの判断のみならず、その企業がイグジットするために解消しなければならない問題や改善点などを洗い出す業務でもあります。
また、精査する対象によっては、弁護士や弁理士など、外部の専門機関にデューデリジェンスを依頼するケースも見られます。
意思決定
ベンチャーキャピタリストは、デューデリジェンスで得られた情報を分析し、投資をするかしないかを検討します。投資をする場合は、投資金額、株価、資本政策などを検討し、意思決定をします。
これらの判断は投資の結果に大きな影響を与えることから、ベンチャーキャピタルでは、ベンチャーキャピタリスト個人の判断に加えて、社内において投資会議や投資審査部門による審査を行い、これらの結果を踏まえて意思決定を慎重に下すケースが一般的です。
経営支援
ベンチャーキャピタルにて意思決定がなされ、被投資企業と投資条件の合意ができ、無事に投資実行に至った後、ベンチャーキャピタリストは、投資先企業の成長を図るべく経営支援の業務を手掛けます。主な業務内容を挙げると、モニタリングや、株主として経営に関与することです。そのほか、ベンチャーキャピタリストが投資先企業の社外取締役に就任する場合もあります。
とはいえ、いずれの場合においても、投資の実行後、ベンチャーキャピタリストは、経営陣に対する事業推進のためのアドバイス・取引先や提携先の紹介・組織体制の強化・追加の資金提供などを通じて、投資先の企業価値が向上するよう支援を行っていきます。
イグジット
ベンチャーキャピタリストは、投資先企業が描くイグジットの理想像に近付ける為の各種支援を行い、また投資先企業から求められれば、その理想像を描くための協議を行います。投資先企業がイグジットに成功すれば、ベンチャーキャピタルは多額のキャピタルゲインの獲得が期待できる一方で、失敗すればキャピタルロスが発生するおそれがあります。
投資から回収までの期間はベンチャーキャピタルおよび投資先企業にもよりますが、数年間〜10年間程度に設定されるケースが比較的多く見られます。
ファンドの組成・運営業務
ベンチャーキャピタルが投資を行うには投資資金が必要であり、ときにはベンチャーキャピタリストが投資資金を集めて管理するためにファンドの組成・運営を行う場合があります(中には、投資資金を集めた後にファンドを組成せず、ベンチャーキャピタル自身から出資を行う場合もあります)。
ファンドを組成する際は、金融機関、事業会社、機関投資家などの投資家、投資ファンドなどから出資を募ると同時に、未上場企業に対する投資方針の説明や業績報告などを通じて、コミュニケーションを取りながら出資元と良好な関係を築いていくことが業務として求められます。
こうした業務をこなすには、ベンチャーキャピタリストに実績や実力(資金調達力)などが求められ、これらが不足していると投資資金を集めることが難しいケースも見られます。そのため、投資資金の確保のために、専門チームや専門役員を配置するベンチャーキャピタルもあります。
ベンチャーキャピタリストに役立つスキル・経験
本章では、ベンチャーキャピタリストが備えていると役立つスキル・経験を、ベンチャーキャピタルにおける以下の3つの業務の遂行を例にして取り上げます。
- ディールソーシング
- 意思決定
- 経営支援
まず、ディールソーシングの際には、特に、①数多くのベンチャー企業の中から優良だと思われる企業を見つけ出すスキル(調査力、案件を発掘する能力、産業・企業の分析力、ベンチャーキャピタルや起業家とのネットワークを活用する力)、②投資検討候補先のベンチャー企業に対して粘り強くアプローチするための行動力・交渉力・営業力などが備わっていることが望ましいです。
次に、意思決定の際には、候補先ベンチャー企業の①戦略・事業を精査するスキル、②人・組織を精査するスキル、③成長する可能性を精査するスキルの3つを発揮することが望ましいです。
これら3つを順番に説明すると、1つ目の「戦略・事業を精査するスキル」とは、候補先ベンチャー企業の戦略・事業を評価するためのスキルのことです。戦略・事業を評価するためには、関連する産業分野の知識のほか、法務、知的財産などへの理解があると望ましく、また経営(マーケティング、経営戦略、経営・事業のノウハウ、アカウンティング、ファイナンスなど)について知見があるとより良いです。
2つ目の「人・組織を精査するスキル」とは、リーダーや経営チームのケイパビリティ(才能・能力)を精査するためのスキルのことで、人や組織に対する深い洞察力を備えることが望ましいです。
3つ目の「成長する可能性を精査するスキル」とは、候補先ベンチャー企業の戦略・事業および人・組織を考慮して、企業としての成長可能性を評価するためのスキルのことです。
したがって、これら3つのスキルはそれぞれ独立して存在するものではなく、ベンチャーキャピタリストの業務の様々なシーンにおいて、それぞれが重なり合って役立つスキルであると言えます。
最後に、投資先の経営支援を進めるには、以下のようなスキルが役立つと考えられています。
- 戦略・事業面で経営を支援するスキル(例:戦略企画能力、PR・ブランディング)
- 人・組織面で経営を支援するスキル(例:チームビルディングのスキル、KPI(重要業績評価指標)の設定・管理を行うスキル、イベント企画や人事戦略など採用に関するスキル)
- 戦略・事業、人・組織の両面を勘案して問題の本質を見抜くスキル
- EXIT(IPO・M&A)を支援するためのスキル
なお、創業前のチームに対する経営支援の場合は、上記のスキルに加えて、創業支援を行うためのスキル(例:起業前の相談、事業計画の立案、会社設立手続きなどをサポートする能力)も備わっていることが望ましいです。
資格は必要?
ベンチャーキャピタリストになるうえで、必要とされる資格はありません。特定の資格を保持していなくても、ベンチャーキャピタリストという職業に就ける可能性があります。
とはいえ、ベンチャーキャピタリストの業務を遂行するうえで役立つ資格は存在します。例えば、以下のような資格です。
- TOEICなど語学に関する資格(海外の投資案件を扱う場合)
- 証券アナリスト(財務分析を専門的に行う場合)
- 弁護士、公認会計士などの専門資格
- MBA(経営学修士)
もちろん上記の資格は必須ではありませんが、備えていると一部の業務をスムーズに進められる可能性があります。
ベンチャーキャピタリストの年収
本章では、ベンチャーキャピタリストの年収および、賞与・ボーナス、月給、役員報酬について、ベンチャーキャピタル上場3社(フューチャーベンチャーキャピタル、日本アジア投資、ジャフコグループ)のデータを用いながら紹介します。
年収
公表されている有価証券報告書をもとに、ベンチャーキャピタル上場3社の平均年間給与をまとめました。なお、決算年月は、上場3社いずれにおいても2021年3月です。
ベンチャーキャピタル名 | 平均年間給与 | 従業員数(単独) | 平均年齢 |
フューチャーベンチャーキャピタル | 633万4,563円 | 32名 | 41歳 |
日本アジア投資 | 957万5,920円 | 19名 | 49歳1カ月 |
ジャフコグループ | 1,220万7,541円 | 103名 | 44歳3カ月 |
出典:フューチャーベンチャーキャピタル「第23期有価証券報告書」
日本アジア投資「第40期有価証券報告書」
ジャフコグループ「第49期有価証券報告書」
賞与・ボーナス
ベンチャーキャピタル会社によっては、投資先の上場やM&AなどのEXITによって得られるキャピタルゲインを基に、ベンチャーキャピタリストである社員に賞与・ボーナスを支給する規程を設けている会社もあります。
したがって、ベンチャーキャピタリストの賞与・ボーナスは、年収額に大きな影響を与える場合があります。
多額のキャピタルゲインを獲得することに貢献したベンチャーキャピタリストには、大手のベンチャーキャピタルでは数百万円規模の賞与・ボーナスが支給されるケースが見られる一方で、独立系のベンチャーキャピタルでは、賞与・ボーナスが1,000万円に及ぶケースも見られます。
とはいえ、多額のキャピタルゲインを獲得する機会はそれほど頻繁には見られないため、多くのベンチャーキャピタリストは、一般企業のように「業績に応じて数カ月分」の賞与・ボーナスが支給されているほか、賞与のない年俸制で勤務していると考えられています。
月給(新卒初任給)
月給(新卒初任給)に関しては、公表しているベンチャーキャピタルは少ないです。とはいえ、20万円〜24万円程度に設定しているベンチャーキャピタルが多いと推定されます。
役員報酬
有価証券報告書をもとに、ベンチャーキャピタル上場3社の役員報酬を以下の表にまとめました。こちらも、それぞれ2021年3月期の決算データを用いています。
【フューチャーベンチャーキャピタル】
役員区分 | 報酬等の総額 | 報酬等の種類別の総額 | 対象となる役員の員数 | |||
基本報酬 | 譲渡制限付株式報酬 | 業績連動報酬 | 退職慰労金 | |||
取締役(監査等委員、社外取締役を除く) | 2,600万円 | 1,900万円 | − | 700万円 | − | 3名 |
取締役(監査等委員) (社外取締役を除く) |
− | − | − | − | − | − |
社外役員 | 700万円 | 700万円 | − | − | − | 7名 |
【日本アジア投資】
役員区分 | 報酬等の総額 | 報酬等の種類別の総額 | 対象となる役員の員数 | ||
基本報酬 (固定報酬と変動報酬の合計額) |
ストックオプション | 左記のうち、非金銭報酬等 | |||
取締役(監査等委員、社外取締役を除く) | 8,600万円 | 8,300万円 | 200万円 | 200万円 | 2名 |
取締役(監査等委員)(社外取締役を除く) | 1,600万円 | 1,600万円 | − | − | 1名 |
社外取締役 | 4,900万円 | 4,900万円 | − | − | 4名 |
【ジャフコグループ】
役員区分 | 報酬等の総額 | 報酬等の種類別の総額 | 対象となる役員の員数 | ||
基本報酬(固定) | 基本報酬(業績連動) | 臨時報酬 | |||
取締役(監査等委員、社外取締役を除く) | 1億7,500万円 | 7,000万円 | 2,000万円 | 8,400万円 | 3名 |
取締役(監査等委員)(社外取締役を除く) | − | − | − | − | − |
社外取締役 | 7,300万円 | 7,300万円 | − | − | 4名 |
出典:フューチャーベンチャーキャピタル「第23期有価証券報告書」
日本アジア投資「第40期有価証券報告書」
ジャフコグループ「第49期有価証券報告書」
まとめ
ベンチャーキャピタリストとは、ベンチャーキャピタルの投資担当者のことです。高い成長率が見込める未上場企業に対して、主に出資(株式の取得)の形で投資を行い、企業の成長を支援して、最終的にEXITすることを目指す人物をさします。
ベンチャーキャピタリストの業務内容を大まかに分けると、投資関連業務および、ファンドの組成・運営業務の2種類です。これらの業務を遂行するうえで、ベンチャーキャピタリストには、様々なスキルや経験が求められます。