ターゲティングとは?設定の重要性やフレームワーク、注意点【成功例あり】
【目次】
ターゲティングとは?
ターゲティング(英語:Targeting)とは、マーケティング用語であり、セグメンテーションによって細分化された市場の中から、自社がターゲットに据える市場を選ぶプロセスのことです。
そもそも市場には多種多様な顧客層が存在しており、市場のすべてを自社製品のターゲットに設定していては戦略を明確化できません。
そこで、ターゲティングを通じて市場を絞り込めば、特定の顧客が抱えるニーズに応える製品を提供するための戦略策定につながります。このとき、自社が勝負するのに適した市場を選ぶことができると、事業の戦略を明確化することができます。
なお、ターゲティングと併せて、「STP分析」を把握しておくことも重要です。なぜなら、ターゲティングはSTP分析(マーケティングの代表的なフレームワーク)の1項目であるためです。STP分析は、「セグメンテーション」により市場を細分化し、「ターゲティング」によりその中から狙うべき市場を選び、「ポジショニング」により競合他社との位置関係を決めるという流れで進めるのが一般的です。
STP分析について詳しく知りたい方は、以下の記事で解説しておりますので、ご確認ください。
ターゲティングはマーケティングにおいて非常に重要
現在の市場は飽和状態でモノや情報が余っており、単純に製品の性能が優れているだけではヒットしにくい状況にあります。こうした状況で製品を売るためには、営業・集客・販促などのベースとなるターゲティングを念入りに行ったうえで、対象とする顧客層の興味を引くコンテンツを作成するなど、マーケティング活動を効率化することが大切です。
また、マーケティング戦略を効果的に展開するためには、ターゲティングを通じて、顧客のニーズを深く分析したり、製品を改善したりする施策も重要です。
ターゲティングにおける必須フレームワーク「6R」
ターゲティングを効果的に行うためには、「6R」の活用が必要不可欠です。これは、6項目の英語の頭文字を取って名付けられたフレームワークです。それぞれの項目を順番に解説していきますので、自社がターゲットに据えようしている市場を検討する際にご活用ください。
有効な市場規模(Realistic Scale)
ターゲティング対象の市場規模をチェックするフレームワークです。より正確な情報を入手するために、各省庁・各業界団体・民間調査会社などが発表しているデータをもとにチェックを行うことが望ましいです。
一般的に、対象とする市場の規模が大きいほど、多くの売上を期待できます。とはいえ、あまりにも市場規模が大きすぎると、競合他社が多くなり、競争が激化しやすくなる点に注意が必要です。
上記を踏まえて、あえて規模の小さい市場をターゲットとするのも、マーケティング戦略の1つとして効果的です。一般的な顧客層には該当しない人のニーズにターゲティングできていれば、ニッチな市場で高いシェアを獲得できる可能性があります。ただし、市場規模が小さすぎると得られる利益が少なくなり、マーケティング戦略を策定・実行する意義が薄くなるため、市場規模の見極めが大切です。
成長性(Rate of Growth)
ターゲティング対象の市場の成長性を分析するフレームワークです。ここでは、対象とされる市場の売上高・シェア・発売された製品の種類・トレンド傾向を把握し、成長性を分析します。
今後の成長が見込まれる場合、早期に参入すると先行者利益を獲得できる可能性があります。また、成長の確実性がない場合でも、発生直後の市場であれば今後の期待値が高いです。
一方で、衰退している市場や今後の成長が見込まれない市場を選び取るのは控えるべきだといえます。ただし、投入する製品が市場を独占できるようなものであったり、横展開により他の市場も狙えるようなものであったりすれば、話は別です。
市場の成長性を分析する際は、例えば「Googleトレンド」の活用が考えられます。無料で利用できるため、気軽に分析を行えます。
顧客の優先順位と波及効果(Rank/Ripple Effect)
ターゲティング対象の市場の優先順位に注目するフレームワークです。ここでは、市場ごとに優先順位を付けたうえで、その重要性を検討します。
具体例を挙げると、インフルエンサーがいる市場やメディアが大きく注目する市場などは、マーケティング戦略を策定・実行した際に波及効果や口コミ効果を得やすいため、優先順位が高いです。
なお、市場に優先順位を付ける際は、顧客層の分布情報・男女比率・興味分野などの把握が大切です。たとえ重要性の高い市場であっても、そもそも顧客層に自社製品が合致していなかったら、製品に興味を持ってもらえず、売上を見込めません。
到達可能性(Reach)
ターゲティング対象の市場に対して、自社製品が到達する可能性をチェックするフレームワークです。たとえ自社製品の性能が優れていたとしても、地理的要因によりターゲットとする顧客層へ製品を届けられないならば意味がありません。
そのため、市場に参入する際は、ターゲットとする顧客層に到達するための販売チャネルや、広告・コンテンツメディアなどを確保しておくことが大切です。このときに採用される具体的なツールとしては、チラシ・SNS・Webサイト・ランディングページ・動画広告などが挙げられます。
競合状況(Rival)
ターゲティング対象の市場にいる競合を調査するフレームワークです。
市場への参入を図る際、競合他社の少ないブルーオーシャンの市場を選ぶことが理想的です。これに対して、競合他社が多数存在したり、多くのシェアを占める競合他社が存在したりする市場はレッドオーシャンと呼ばれ、市場に参入した際の成功難易度は高まります。
競合状況を調査する際に注意すべき代表的なポイントは、以下のとおりです。
- 売上・利益率
- 広告費・販売管理費用
- 製品開発の状況
- 販売ルート
- 営業方法
- 顧客に対するサポート
上記のポイントを中心に自社と他社の状況を比較し、ターゲティング対象の市場において「差別化を図れるか」「優位性を持てるか」などを判断することが大切です。
反応の測定可能性(Response)
ターゲティング対象の市場の測定可能性を検討するフレームワークです。ここでは、「顧客の傾向やフィードバック、購買力などを適切に測定できるかどうか」「PDCAを回せる市場であるかどうか」などを確認します。
たとえマーケティング戦略を策定・実行したとしても、これに対する顧客の反応や効果を測定できなければ、効果のあった戦略を把握できません。
近年は動画広告やSNSキャンペーンなど、新しく利便性の高いWebマーケティング施策が急増していますが、重要なのは手法そのものよりも、これらの効果を測定し今後の施策に生かすことです。反応を測定できる市場であれば、改善案を考えられるだけでなく、チームや企業全体のモチベーションの維持も期待できます。
以上、ターゲティングのフレームワークである6Rの各項目を解説しました。6Rを検討する際は、個々の項目に注目しすぎるのではなく、6つのフレームワークを総合的な視点で捉えることが望ましいです。
ターゲティングを変えて段階的にセグメントを広げる
ターゲティングを行う手段としては、段階的ターゲティング(段階的にアプローチしながらセグメントを広げていく手法)の実践も効果的です。
段階的ターゲティングでは、まず1番目のステップとして、既存の市場にいる顧客に対して製品を売り込んで、「リファレンスユーザー」になってもらいます。リファレンスユーザーとは、他の顧客がその行動を見習う対象とする代表的な顧客のことです。
例えば、ある業界に新規システムが導入される際、最大手の企業が導入した後に、それよりも規模の小さい企業が導入していくケースが見られます。このケースにおけるリファレンスユーザーは、初めに新規システムを導入した最大手の企業です。
次に、2番目のステップとして、前のステップでの実績をもとに、リファレンスユーザーと同じ事業を展開する他のセグメント(例:中堅企業)に対してアプローチを行います。つまり、「現在、最大手企業のA社に導入していただいておりますが、御社でもいかがでしょうか?」というように、実績をアピールしつつ同業他社に対して積極的な営業を展開していくプロセスです。
そして、3番目のステップでは、他業界の新たなセグメントに対してアプローチを行います。例を挙げると、「従来と異なる製品を提供する」「B2BからB2Cへと取引形態を広げる」などの施策が代表的です。
アマゾンの実例を紹介すると、書籍のEC事業から出発し(1番目のステップ)、その後はあらゆる商品のEC事業を提供しターゲットを広げ(2番目のステップ)、そこからさらに音楽・映画配信事業や、法人向けのクラウド事業・EC事業へと展開(3番目のステップ)しています。
ターゲティングの注意点
ここまでターゲティングの重要性を中心に解説してきましたが、実際にターゲティングを行う際には注意点も存在し、把握しておかないとデメリットが生じるおそれがあります。
本章では、ターゲットを設定する際の注意点に着目し、代表的なものとして2点をピックアップし紹介します。
「すべての人々」と設定しない
「すべての人々」をターゲットに設定することは、事実上ターゲット設定が行われていないことと変わりありません。このようなターゲット設定を行うと、以下のようなデメリットが生じやすいです。
- マーケティング戦略が散発的になりやすい
- マーケティングのメッセージで焦点が絞れなくなる
それぞれのデメリットを具体的に解説します。
マーケティング戦略が散発的になりやすい
ターゲット設定で「すべての人々」を採用した場合、ターゲットの範囲が広すぎるため、マーケティングチームのメンバー間で「ペルソナ(製品の典型的なユーザー像)」の共有が難しくなります。
これにより、ペルソナに関して、メンバーそれぞれで異なる解釈をしてしまったり、独自に「コアターゲット(製品購入する可能性が高い顧客)」を定めてしまったりして、マーケティング戦略がまとまらず散発的になってしまうケースが多いです。
その結果、1つ1つのマーケティング施策がつながりを持たなくなり、マーケティングの成果に悪影響が及ぶことから、「何も残らなかった単発施策」としてリソースを無駄にしてしまう可能性があります。
マーケティングのメッセージで焦点が絞れなくなる
とりわけブランドマーケティング(ブランド全体の価値を高めるために製品を宣伝すること)の戦略を講じる際は、ブランドに対する顧客からの感情移入を創出し、継続的に指名買いしてもらえる状態を作らなければなりません。この顧客からの感情移入を創出するには、顧客に対して以下のような価値を提供することが大切であると考えられています。
- 実利的な喜び
- そのブランドが自分の感性に合致する喜び
- そのブランドを通して前向きな気分になれる喜び
- そのブランドを通して自尊心が満たされる喜び
ただし、当然ながら、顧客によって感性・気分・共鳴するポイントなどは異なります。それににもかかわらず、「すべての人々」をターゲットとして設定すると、さまざまなライフスタイルや価値観を持つ人々を一括りにしてしまうために、焦点を絞れなくなるのです。
これにより、「どんな人にでも当てはまるメッセージ」を探すことになり、製品のスペック・技術などの機能を打ち出す戦略に収束してしまうことが多いです。
しかし、機能面しか打ち出せない製品では、ブランドマーケティングにつなげられません。なぜなら、消費者からすると、機能面しか打ち出されていない製品は、合理的な判断基準(例:製品の良し悪し、価格の高い安い)しか提供されず、ブランドへの感情移入につながる判断基準(例:好き嫌い、信じる信じない)が提供されないためです。
その結果として、ブランドに対する感情移入を創出できず、なにも残らない単発的なマーケティング施策に終わってしまう可能性が高いです。
性別・年齢のみで設定しない
性別・年齢のみでターゲット設定を行う場合、そのターゲットの中でもさまざまライフスタイル・生活様式・価値観を持った人々が混在しており、必ずしも一括りにできません。
例えば、「20代前半の女性」をターゲットに設定した場合、職業別に見ると以下のようにさまざまな種類に分けられます。
- 大学生
- 独身OL
- 子供を持たない既婚女性
- 小さな子供を持つ母親(専業主婦)
- 小さな子供を持つ共稼ぎの母親
前提として、性別・年齢のみを基準にターゲット設定を行い、効果的なマーケティングにつなげるためには、「その性別・年齢で類似するニーズが存在している」ことが求められます。
しかし、上記で紹介した「20代前半の女性」の例を見ると、同じ性別・年齢でも「働いているかどうか」「結婚しているかどうか」「子供がいるかどうか」などの条件により、価値観・行動様式・生活ニーズ・ブランドを選ぶ際の基準などが大きく異なっています。
この点を無視して「性別・年齢」で一括りにターゲット設定を行うと、「すべての人々」と設定した場合と同様のデメリット(マーケティング戦略が散発的になる、ブランドに対する顧客の感情移入を創出できない)が生じるおそれがあるのです。
ターゲティングの成功事例
本章では、実際にターゲティングを用いた企業の代表的な成功事例として、3社をピックアップし紹介します。
QBハウス
QBハウスは、ビジネスマンをターゲットに設定することで成功した理容室として知られています。現在、QBハウスは、ショッピングセンターや駅周辺など、忙しいビジネスマンでも立ち寄りやすい場所に店舗を構えていますが、QBハウスが台頭する以前の理髪店業界は「単価が高くてもクオリティの高さで勝負する」のが主流でした。
つまり、理髪店には「多くの時間とお金をかけて身だしなみを整える場所」というイメージが強く、ビジネスマンが利用する際は貴重な休日を費やさなければならなかったのです。
しかし、とりわけ男性の中には「多くの時間とお金をかけてクオリティの高い接客をしてもらうよりも、多少クオリティが落ちたとしても短時間かつ安価にヘアスタイルを整えたい」というニーズを持っている人も少なくありません。
この点に着目したキュービーネット(QBハウスの運営会社)は、「10分1,000円(2022年2月現在の通常料金は1,200円)」をキャッチコピーに、忙しいビジネスマンでも休日を犠牲にすることなく、わずかな隙間時間で散髪できるようにしました。
こうしたQBハウスのターゲティングはマーケティング戦略の成功につながり、現在ではシンガポール・香港・台湾など海外も含めて理髪店を運営しています。
それに加えて、当初のターゲットであるビジネスマンだけでなく、「長時間美容院にいることが苦手な子ども」や「子育ての合間に自分が美容院に行く時間を確保できない母親」なども利用しやすい環境を整えており、順調に顧客層を拡大しています。
すき家
牛丼チェーン店を運営する「すき家」は、従来の牛丼市場に限定せず、他の外食市場(カレー・海鮮丼など)や近年急成長している「中食(弁当・総菜)市場」までを対象にセグメンテーションを行い、ファミリー層や女性層をメインのターゲットに据えたことで、顧客層の拡大に成功したと考えられています。
もともと牛丼チェーン店の主な顧客層は男性1人客で数が限定されているうえに、競合の牛丼チェーン「吉野家」が圧倒的なシェアを抱えていたために、競争を行ったとしても勝ち残れる可能性は高くありませんでした。そこで、従来の牛丼チェーン店の利用者に限定せず、別の市場までターゲットを拡大することで、「女性や子供も気軽に外食を楽しめる牛丼屋」というポジションを開拓し、現在は牛丼チェーンで業界トップのシェアを獲得しています。
成功の要因となった「セグメンテーション」について詳しく知りたい方は、以下記事をご一読ください。
焼肉ライク
少子化・核家族化が進み個食・ファストフードのニーズが高まっている昨今の日本において、焼肉ライクは「焼肉は他の誰かと楽しむもの」という従来のスタイルを払拭し、1人客をターゲットに据えています。
もともと焼肉は「価格が高い(客単価3,000円程度)」「短時間利用には不向き」などの理由から、1人では利用しにくいイメージがありました。しかし、焼肉ライクは、これらの課題を解決すれば焼肉をファストフード化できると考えたのです。
具体的な解決策として、焼肉ライクは、「30代〜40代のサラリーマンやOL」をメインのターゲットに据えました。つまり、「自分のためにお金をある程度自由に使える消費者」をターゲットにしたのです。そのうえで、客単価を1,500円程度に設定し、顧客に対してファストフードとしてのお得感や気軽さを与えています。
また、メニューの種類をあえて絞り込むことで、提供時間の短縮や回転率の向上を図っており、行列ができていてもそこまで待たずに焼肉を利用できるようにしました。
こうした施策が功を奏し、焼肉ライクは、これまで「一緒に行く人がいない」という理由で焼肉店の利用を選択肢から外していた人を取り込んで、1人焼肉という新たなジャンルを切り開くことに成功しています。
ターゲティングは日常生活でも重要
この記事では、主としてマーケティング分野におけるターゲティングの重要性を解説しましたが、それだけでなく日々の仕事やプライベートにおいてもターゲティングが重視される場面は存在します。
例えば、営業職の人であれば、新規顧客を獲得するうえで、ターゲティングを効果的な施策として活用できます。「数を打てば当たる」といわれることもあるものの、ただやみくもに営業活動を行っていては、顧客に適切な価値を提供できず、成功確率は非常に低いです。
こうしたケースで成功を目指すには、ターゲティングの考え方を用いて、自社製品を本当に必要とする顧客に対して狙いを定めることが大切です。綿密にターゲティングを行い、顧客のニーズを把握することで、これに沿った価値を提供できるようになり、営業活動の成功につなげられます。
また、プライベートの場面においても、ターゲティングは応用できます。例えば、恋愛にターゲティングの考え方を応用すれば、自分を気に入ってくれる可能性の高い相手を効率よく探し出し、効果的にアピールすることが可能です。
このように、ターゲティングを応用できれば、ビジネスだけでなくプライベートにおいても相手を喜ばせやすくなります。日常のあらゆる場面で、ターゲティングは重要なのです。
DEEPTECH DIVE
本記事を執筆している東京大学協創プラットフォーム開発株式会社(東大IPC)は、東京大学の100%出資の下、投資、起業支援、キャリアパス支援の3つの活動を通じ、東京大学周辺のイノベーションエコシステム拡大を担う会社です。投資事業においては総額500億円規模のファンドを運営し、ディープテック系スタートアップを中心に約40社へ投資を行っています。
キャリアパス支援では創業期~成熟期まで、大学関連のテクノロジーシーズを持つスタートアップへの転職や副業に関心のある方とのマッチングを支援しており、独自のマッチングプラットフォーム「DEEPTECH DIVE」を運営しています。
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