イノベーター理論をわかりやすく解説!【事例あり】
【目次】
イノベーター理論とは?
イノベーター理論とは、新たな製品(商品・サービス)などの市場における普及率を示すマーケティング理論をさします。1962年にアメリカ・スタンフォード大学の社会学者 エベレット・M・ロジャース教授(Everett M. Rogers)によって提唱されました。
イノベーター理論では、新たな製品の普及の過程を、これらを採用するタイミングが早い消費者から順番に以下の5つのタイプに分類しており、これにもとづきマーケティング戦略や市場のライフサイクルなどに関する検討を行うことが望ましいと考えられています。
- イノベーター(革新者)
- アーリーアダプター(初期採用者)
- アーリーマジョリティ(前期追随者)
- レイトマジョリティ(後期追随者)
- ラガード(遅滞者)
上記の各タイプの詳細は、それぞれ次章で解説します。
イノベーター理論における5つのタイプ
本章では、イノベーター理論が分類する5つのタイプの概要について、新たな製品の購入・導入が早い順に解説します。
イノベーター(革新者)
最も早く製品を採用する層のことで、市場全体の2.5%を占めていると考えられています。
情報感度が高く、新しい製品を積極的に採用する好奇心を持っています。また、モノの目新しさ・最先端技術などにある「新しい」という点に価値を感じる傾向がある一方、製品の細かいメリット・価格などにはそれほど興味を示さず、価値観に合致したモノであれば積極的に採用する点も特徴的です。
この点を踏まえると、イノベーターに対する訴求ポイントは、「革新的」「最先端」「新技術」などにあります。
アーリーアダプター(初期採用者)
イノベーターほど急進的ではないものの、世間や業界のトレンドに敏感であり、常日頃からアンテナを張り情報を収集し、判断を行う層です。市場全体の13.5%を占めていると考えられています。別名「オピニオンリーダー」「インフルエンサー」などとも呼ばれています。
アーリーアダプターは自身の周囲にいる人々に対して製品の口コミ・評価を伝える性質があります。以降のタイプである「アーリーマジョリティ」「レイトマジョリティ」にとって、口コミや評価は重要な訴求ポイントになるため、大きな影響力を持つと考えられています。
アーリーアダプターは、単純に「新しいモノを好む」というわけではなく、具体的なメリットを考えたうえで、良いと判断したものを購入する傾向がある点が特徴的です。
この点を踏まえると、アーリーアダプターに対する訴求ポイントは、製品の持つ新しさに加えて、「具体的なメリット」「流行する可能性」「従来のモノと比較して優れている点」などがあります。よくターゲット層を分析して何が響くのか検討しましょう。
アーリーマジョリティ(前期追随者)
全体の平均からすると高い情報感度を持つものの、前述した2つのタイプと比較すると新たな製品の採用に対して慎重な姿勢を取っている層です。市場全体の34%を占めていると考えられています。
また、アーリーアダプターの影響を強く受けることから、市場全体へ浸透する橋渡しという意味合いを込めて「ブリッジピープル」とも呼ばれています。
この層に主に該当するのは、「流行に乗り遅れたくない」という気持ちを持っており、テレビや世間などで話題の製品に反応したり、芸能人が使っているモノを欲しがったりするなど、流行に敏感に反応します。イメージしやすいのは中高生です。
上記の点を踏まえると、アーリーマジョリティに対する主な訴求ポイントは、以下のとおりです。
- すでに流行が始まっていること
- 製品を採用するメリット
- 流行に乗り遅れることに対する恐怖感
レイトマジョリティ(後期追随者)
新しいモノの採用に対して懐疑的であったり消極的であったりする層のことで、市場全体の34%を占めていると考えられています。
周囲の動向を注意深く伺いながら、新しい製品を採用している人が半数を超えていると確信したときに採用を検討する傾向があることから、別名「フォロワーズ」とも呼ばれています。
上記の点を踏まえると、レイトマジョリティに対する主な訴求ポイントとしては、以下の項目が挙げられます。
- 多くの人がすでに採用していること(普及率)
- 採用していない人の方が少数派となっていること
- 採用してもデメリット・失敗がないこと
ラガード(遅滞者)
最も保守的であり、新しいモノに対して全く興味・関心を持っていない層のことです。市場全体の16%を占めていると考えられています。
「新しいモノを受け入れたくない」と感じており、製品が単純に普及しているだけでなく、伝統的・文化的なレベルまで一般化して初めて採用を検討すると考えられています。中には、これらの条件を満たした場合であっても、不採用を貫く人も存在します。
上記の点を踏まえると、ラガードに対する訴求ポイントは、主に以下のとおりです。
- すでにその製品が定番化していること
- 他の新しいモノと比較したときに、安心度が高いこと
- 長い歴史を持っていること
商品普及の鍵は「アーリーアダプター」
エベレット・M・ロジャース教授は、著書『イノベーション普及学』(産能大学出版部刊)の中で、「市場の16%に位置づけられるイノベーターやアーリーアダプターの攻略が、その商品が普及するかどうかを左右する」ことを提唱しました(普及率16%の論理)。
前述のとおり、アーリーアダプターはこの後に続くアーリーマジョリティやレイトマジョリティに大きな影響を与えることから、アーリーアダプターの攻略がそれ以降のタイプに商品を普及させる鍵を握ると考えられています。
イノベーター理論を語る上で欠かせないキャズム理論
「商品普及の鍵はアーリーアダプターが握る」という説に対して一石を投じたのが、アメリカのマーケティング・コンサルタントであるジェフリー・ムーア氏です。彼は、著書『キャズム』(翔泳社刊)の中で、市場に商品が普及していく際に問題となる大きな溝(キャズム)について提言しました。これをキャズム理論と呼んでいます。
ここからは、キャズム理論の概要と発生する原因について順番に解説します。
キャズム理論とは
キャズム理論とは、初期市場(イノベーター・アーリーアダプター)とメインストリーム市場(アーリーマジョリティ・レイトマジョリティ)の間にはキャズムと呼ばれる大きな溝が存在しており、このキャズムを乗り超えられない限り、新しい商品はメインストリーム市場で普及することなく、小規模な初期市場の中でやがて消えていく運命を辿るとする理論のことです。
主にハイテク業界で頻繁に取り上げられる話題であり、新規事業の立ち上げを成功させるポイントの1つとされています。
キャズムが発生する原因
主な原因は、アーリーアダプターとアーリーマジョリティの間に見られる性質のギャップにあると考えられています。
具体的にいうと、アーリーアダプターは「誰も使っていない商品を採用し、他者に先んじる」ことを望む層である一方、アーリーマジョリティは「多くの人が採用していて安心できる商品を採用し、他者に後れを取らない」ことを望む層である点にギャップがあります。
つまり、アーリーマジョリティは「他者が使用している」ことを判断材料の1つとして商品を採用するため、市場全体の16%というわずかな割合のイノベーターとアーリーアダプターのみにしか採用されていない状況は、アーリーマジョリティに商品の採用を踏み留まらせる理由となってしまうのです。
以上の理由から、キャズムを超えて商品を普及させていくには、アーリーアダプターの攻略だけでなく、メインストリーム市場に到達する際の第一段階として、アーリーマジョリティの攻略も重要だといえます。
キャズム理論については、以下の記事で詳しく解説しています。キャズムを超えるポイントを解説しておりますので、併せてご確認いただくことでイノベーター理論の理解が深まります。
イノベーター理論の活用方法と事例
本章では、マーケティング戦略の視点から、イノベーター理論における5つのタイプの消費者層に対してどのように活用すべきか、有名な事例を交えながら紹介します。
イノベーター向けの活用方法
イノベーターは、新しいモノに非常に敏感で、誰よりも先に新しい情報を得ようとする姿勢を取っており、スタートアップや最新テクノロジーなどに関する情報をいち早く発信するWebサイト(例:TechCrunch Japan、Mashableなど)を常日頃からチェックしている傾向が見られます。
そのため、例えば、これらのWebサイトにプレスリリースを提供し、商品紹介のコンテンツを配信すれば、イノベーターに向けた直接的な訴求につながります。
アーリーアダプター向けの活用方法
アーリーアダプターは、自身が商品を使用し、レビューを行うことで、オピニオンリーダーとしての地位の確立を目指す傾向にあります。そこで、製品の普及を目指す企業側では、訴求力のあるレビューを作成してもらえるような工夫を凝らすことが効果的です。
具体例を挙げると、「使用ガイド」「よくあるQ&A」などをわかりやすくまとめたコンテンツを作ったうえで、Webサイトに投稿するといった施策が有効です。
ネスレ日本の活用事例
前述のほか、導入費用を下げて、消費者が気軽に採用できるような施策を講じることも効果的です。この施策を用いてアーリーアダプターの攻略に成功した企業に、ネスレ日本があります。ネスカフェを展開するネスレ日本では、自宅の次にコーヒーを消費する場所として、職場に目をつけました。
そこで、職場でも気軽にコーヒーを楽しんでもらえるよう、自社開発のコーヒーマシン「バリスタ」を普及するプログラム「ネスカフェ・コーヒーアンバサダー」を2012年に開始しています。
このプログラムは、一定の条件を満たすことで、「職場を代表するアンバサダー」に対して自宅と職場に無料でコーヒーマシンを設置できる特典を付与するものです。コーヒーマシンは無料で提供されるため、アンバサダーはコーヒー代のみで多彩なカフェメニューを自宅と職場で楽しめます。
ネスレ日本では、アンバサダーをイノベーター理論におけるアーリーアダプターに位置づけており、このプログラムによってアーリーアダプターの開拓と同時に、それ以降のタイプの消費者に対する製品の普及に成功しています。
アーリーマジョリティ向けの活用方法
アーリーマジョリティは、アーリーアダプターのレビューに影響を受ける傾向にあります。そのため、企業側では、人気ブロガーやソーシャルメディア上のインフルエンサーなどに働きかけて、ブログコンテンツ・YouTube動画・ソーシャルメディアコンテンツ(例:Facebook、Twitter、Instagram)などを提供する戦略が効果的です。
iPhoneの活用事例
前述の施策でアーリーマジョリティの攻略に成功した企業に、AppleのiPhoneがあります。iPhoneはスマートフォンを世界に普及させた革新的な製品ですが、日本で販売が開始された当初の風当たりは非常に強いものでした。しかし、こうした状況でも諦めることなく、AppleのマーケターはiPhoneがいかに次世代のスタンダードとなるにふさわしい製品であるかをアピールし続けたのです。
その結果、イノベーターの目に止まり、発売日にはイノベーターとアーリーアダプターが列を成して店頭に駆けつけました。そして、その様子がメディアで大々的に報道され、「列を成すほどに試すべき価値のあるもの」として、アーリーマジョリティ以降のタイプに段々と浸透していったのです。イノベーターの新しいものへの情熱を上手くメディア映えに活用し、アーリーマジョリティへと到達させる戦略であったといえます。
TikTokの活用事例
モバイル端末向けショートビデオプラットフォームのTikTokは、現代のデジタル性を生かしてアーリーマジョリティを攻略した成功事例の1つです。TikTokの普及は、積極的に10代〜20代のインフルエンサーに活躍してもらい、その様子をWeb広告などで大量に発信していくという、非常にシンプルな方法で進みました。そして、インスタグラムのように手軽な編集で複雑な効果を動画に与えられることから、急速にティーン世代の定番アプリへと成長しています。
現代は多くの人がSNSでつながっており、特に若者は流行に敏感な世代です。Web広告の大量投下とインフルエンサーの積極的な起用によって、アーリーアダプターからアーリーマジョリティへの橋渡しが急速に進み、キャズムを容易に超えた事例として知られています。
クラブハウス(Clubhouse)の失敗事例
「クラブハウス(Clubhouse)」は、2021年1月末に突如として日本で話題を集めた音声SNSアプリです。利用するためには既存の参加者から招待を受けなければならないという、希少性・特別感がある点に大きな特徴が見られます。
クラブハウスは日本での提供開始直後から急速に普及したものの、わずか1カ月ほどで流行が落ち着きを見せ始めました。ブームが落ち着いた主な要因としては、「新規ユーザーが参入しにくい」「閉鎖的空間で拡散されにくい」などの点が分析されています。
提供開始当初は物珍しさがあり話題になりましたが、クラブハウスが持つ希少性や特別感という価値は長く維持されず、むしろ不利に働いてしまったと考える意見が多く見られます。イノベーターやアーリーアダプターは希少性・特別感を好むものの、彼らに追随するアーリーマジョリティはこうした点にそれほど価値を見出さないためです。
こうした理由から、キャズムを超えられず、ブームが去ってしまったと考えられています。
レイトマジョリティ向けの活用方法
レイトマジョリティは、新しい製品を採用している人が半数を超えていると確信したときに採用を検討する傾向があります。そのため、企業側では、「この製品を使わないと、時代に遅れる」といった情報をアピールするのが効果的です。
例えば、レビューやプレスリリースなどに注力するのに加えて、信頼できる専門家の評価を集めて、「これだけの人々が使い、称賛している」という情報を提供することが望ましいです。
ラガード向けの活用方法
ラガードは新しい製品にほとんど興味を示さず、アプローチしても成果が出にくいです。そのため、企業側でラガードに対してマーケティングを実施しても、目立った成果を得られずにコストを無駄にするおそれがあります。この層に対しては、製品の新しさではなく、安心感や歴史を堅実にアピールすることが効果的です。
まとめ
イノベーター理論では、新たな製品の普及の過程を、これらを採用するタイミングが早い消費者から順番に5つのタイプに分類しています。
新たな製品を開発し、普及させようとする際は、イノベーター理論が分類する各タイプの特徴を考慮したうえで、自社の製品に最適なマーケティング戦略を立てるよう心がけると良いでしょう。
東大IPCが運営するDEEPTECH DIVEのご紹介
本記事を執筆している東京大学協創プラットフォーム開発株式会社(東大IPC)では、東大に関連する最先端のテック系ベンチャー企業が多数登録しているキャリア支援プラットフォーム「DEEPTECH DIVE」を運営しています。
「DEEPTECH DIVE」にご登録いただくと、多数のベンチャー企業の求人募集情報を閲覧でき、また彼らから魅力的なオファーを受け取ることができます。転職・副業・インターン・情報収集など、幅広くご活用いただけます。
今すぐにキャリアチェンジをお考えでない方でも、東大IPCスタッフへのカジュアル相談も大歓迎です!もしご興味のある方は是非、キャリア支援プラットフォーム「DEEPTECH DIVE」にご登録ください。