役員報酬とは?決め方、かかる税金と節税、相場を解説

役員報酬とは?

役員報酬とは?

役員報酬とは、法人の役員に対して支給されるお金のことです。法人の役員には「取締役」「執行役」「会計参与」「監査役」「理事」「監事および清算人」などが該当しますが、このうち株式会社の役員は、会社法第329条において「取締役」「会計参与」「監査役」と定義されています。

役員報酬は、必ずしも金銭によって支払われるとは限りません。下記に挙げるような金銭と同等の経済的利益をもたらすものも、役員報酬として支払われることがあります。

  • 役員に対して無料で贈与された資産
  • 相場よりも極端に低い金額で役員に対して売り渡された資産
  • 役員に対する無利息での金銭の貸付・返済の免除
  • 役員の家賃の免除分
  • 役員の生命保険料の肩代わり分

参考:国税庁「No.5202 役員に対する経済的利益」令和3年9月1日現在法令等

給与との違い

会社が社員に対して支払うお金には、役員報酬以外に「従業員給与」も存在します。従業員給与とは、雇用関係にある従業員に対して、労働の対価として支払われるお金のことです。

役員報酬には、従業員給与とは異なり、金額の決定時・変更にあたって下記のような税務上のルールが存在します。

原則として事業年度を通じて一定額にする
変更する場合、事業年度開始日(期首)から3カ月以内に実施しなければならない
役員報酬を変更する場合、株主総会を開催し、変更に関する株主総会議事録(合同会社では同意書)を作成する
事業年度開始日(期首)から4カ月以上経過後に変更した場合、変更した分の報酬は損金として計上できない(役員の地位や職務内容を変更した場合や、経営状況が著しく悪化し第三者との関係にも影響を与える場合を除く)。
賞与を支払う場合、事前に支払う金額と時期を決定し、「事前確定届出給与に関する届出書」を税務署に提出する

上記のとおり、役員報酬と従業員給与では、税法上の損金算入に関するルールにも違いが見られます。損金とは、その名のとおり「損をして失った金銭」のことで、経費のように会社の利益から差し引けるお金のことです。損金として計上できる金額が多ければ、それだけ法人税の負担額を抑えられます。

従業員給与は基本的に全額損金として計上できるのに対して、役員報酬は一定のルールを守らない限り、損金として計上できません。役員報酬は経営者が意図的に金額を決めることができ、損金を多く計上することで法人税を減らすように調整することが容易であるため、恣意的な運用を防止すべく損金への算入には厳しいルールが設けられているのです。

また、法人税の負担軽減を図って役員報酬を増やすと、役員個人に課される所得税や住民税が増加し、かえってトータルの納税額が増えてしまうケースもあります。以上の理由から、役員報酬は、税理士をはじめとする税務の専門家と相談しながら、自社の適正金額を検討することが望ましいです。

そのほか、役員報酬と従業員給与の代表的な違いを下表にまとめました。

役員報酬 従業員給与
支払いの条件 特になし 勤務実績による
割増賃金(残業代) 適用なし 適用あり
健康保険・厚生年金保険 適用あり(非常勤役員は加入義務なし) 適用あり
雇用保険・労災保険 適用なし 適用あり
最低賃金 適用なし 適用あり
日割り計算 不可能 可能

種類

税法上で損金として認められる役員報酬は、大きく以下の3種類に分けられます。

①定期同額給与

原則として事業年度を通じて毎月の支給額が同額な役員報酬のことで、損金として計上するうえで税務署への届出は求められません。また、従業員の残業代や出張手当などのように加算されることはなく、月々の支給額が変動することがない点も特徴的です。

報酬額を変更できるのは、原則として事業年度開始(期首)から3カ月以内の時期に限られます。例外的に、役員の地位・職務内容を変更した場合や、会社の経営状況が著しく悪化した場合などには、定められた金額から減少させることが可能です。こうしたケースを除き、変更した差額の損金算入は認められません。例えば、毎月150万円の報酬額を120万円に減らした場合、原則として30万円は損金に計上できず、それだけ法人税の金額が上がります。

②事前確定届出給与

指定した日付にまとめて支払われる報酬で、役員の賞与・ボーナスに該当するものです。損金として計上できないのが原則ですが、事前に税務署に届け出ておけば損金として認められます。

手続きを簡単に説明すると、所轄の税務署に「事前確定届出給与に関する届出書」を提出し、届出どおりの支給日に記載した金額を支払います。届出期限は、「株主総会等の決議をした日から1カ月以内」あるいは「会計期間開始の日(事業年度開始の日)から4カ月以内」のうち、早く到来する方です。なお、会社設立直後の新規法人の場合、提出期限は設立日から2カ月以内です。

③業績連動給与

特定の会社もしくはその会社と支配関係にある会社の業績に連動して支払われるものです。上記2種類の役員報酬とは違い、金額が事前に確定していない点に大きな特徴があります。

業績連動給与を損金として計上するには、「報酬の算出方法が所定の指標を基礎とした客観的なものである」「有価証券報告書に記載・開示している」「同族会社の場合は、非同族会社(同族会社以外の会社)との間で、その非同族会社による完全支配関係が構築されている場合に限る」という3つの条件を満たさなければなりません。

また、業績連動給与を利用するには、所定の指標をベースに報酬額を算定したうえで、有価証券報告書に記載する必要があります。このことから、株式を公開していない未上場企業では利用できません。

参考:国税庁「業績連動指標の数値が確定した日(業績連動給与)」

役員報酬の決め方

本章では、会社の役員報酬を決める際に留意しておくべき事項として、手続きの流れ、行うタイミングなどの情報を解説します。

決める流れ

役員報酬は、会社法において「定款もしくは株主総会の決議によって定める」ことと規定されています。

一般的な流れを紹介すると、役員報酬は、株主総会での決議の後に取締役会での決議を経ることで決定します。株主総会で決められるのは、あくまでも役員報酬の総枠です。この総枠は、総会で2分の1以上の賛成票が得られれば可決となります。

その後は、開催日時・場所・出席した株主の発行済み株式総数・役員報酬総額などの決議事項を議事録に残したうえで、取締役会での決議に移ります。役員への個別の支給額は、取締役会での決議で決められます。株主総会と同様に、2分の1以上の賛成が得られれば可決となり、こちらでも議事録の作成が求められます。

决めるタイミング

起業直後(1年目)の場合、役員報酬の金額は、会社設立日から3カ月以内に決める必要があります。3カ月以内に決めない場合、役員報酬を損金に計上できなくなるためです。

また、役員報酬は事業年度ごとに決められるものの、金額を変更できるのは事業年度の開始(期首)から3カ月以内の時期に限定されます。そして、一度決めた役員報酬の金額は、1年間(少なくとも期末まで)固定するのが基本的です。

損金算入のためのルールを守る

ここまで紹介しているように、役員報酬を損金として計上するためにはさまざまなルールを守る必要があります。

ルールの認識違いやミスなどによって損金不算入となった場合、法人税の負担が大きくなるおそれがあります。とりわけ事前確定届出給与は、あらかじめ定められた期限内に税務署に届出を行っておかないと損金として認められない点に注意しましょう。

原則変更できない役員報酬を変更できる時

役員報酬は、事業年度開始(期首)から3カ月以内の期間を除いて変更できないのが原則です。ただし、以下に取り上げるシチュエーションでは、例外的に事業年度の途中でも役員報酬額の変更が認められています。

シチュエーション 概要
役員の地位・職務内容を変更した時 ・地位や職務内容の変更に伴い、責任が重くなったり仕事量が増えたりした場合、役員報酬を増額できる。
(例:役員が社長に昇格した、役員の職務を兼任した)
・実態が伴っていない場合、税務署に不正と判断されるおそれがあるため要注意。
経営状況が著しく悪化した時 ・役員報酬の減額が認められる。
(例:業績や財務状況の悪化に関して役員としての経営上の責任から役員給与の額を減額せざるを得ない時※)

※そのほか、以下のようなシチュエーションが挙げられます。

  • 取引銀行間との借入金返済のリスケジュールを協議するにあたって、役員給与の額を減額せざるを得ない時
  • 業績・財務状況・資金繰りの悪化により、利害関係者からの信用を維持・確保する必要性から経営状況の改善を図るための計画が策定され、これに役員給与の額の減額が含まれた時
  • 新型コロナウイルス感染症の影響を鑑みて、役員給与の額を減額せざるを得ない時

なお、増額・減額いずれの場合でも、株主総会もしくは取締役会における議事録の作成が必要です。

参考:国税庁「国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ」(令和4年4月18日更新)

役員報酬にかかる税金と節税

役員報酬にかかる税金と節税

役員報酬を決める際は、会社(法人)側と役員個人側における納税額のバランスを考慮することも大切です。そのために役立つ情報として、本章では役員報酬にかかる税金と節税について解説します。

かかる税金

税制上、役員報酬は給与所得と同じ扱われ方をするため、報酬を受け取る役員個人には所得税・住民税などの税金がかかります。いずれの税金も毎月の役員報酬分から源泉徴収が行われ、天引き後の金額が役員の手元に渡ります。ちなみに、これは税金ではありませんが、健康保険や厚生年金などの社会保険料も、税金と同様に源泉徴収を行わなければなりません。

会社側にとっては、役員報酬を高くすると損金を多く計上でき、法人税の軽減につなげられます。その一方で、役員個人にかかる所得税は累進課税制度の適用を受けるため、役員報酬の金額が多いほど税負担が大きくなってしまうのです。

その結果、会社にかかる法人税の負担を軽減できたものの、役員個人にかかる所得税の負担が大きくなり、会社と役員の全体で見るとより多くの税金がかかってしまうケースもあります。

節税

節税効果を考える際に重視されるポイントの1つに、法人税率が挙げられます。法人税は、利益800万円以下の部分には15.0%の税率が適用される一方で、利益800万円超の部分には23.2%の税率が適用されるのが一般的です。このように、法人税率は利益800万円を基準に税率が大きく上昇する点に特徴があります。

これに対して、役員個人にかかる所得税・住民税の税率および社会保険料の料率などをすべて合わせると、利益800万円以下の法人税率である15.0%を超えるケースが多く見られます。そのため、利益が少ない場合は、役員報酬を少なめに設定し、なるべく会社に利益を残すようにすることで、会社と役員の全体で見たときに節税効果を得られる可能性があるのです。

※上記の情報は2022年9月時点での内容であるため、実際に計算をする際は最新の情報をご確認ください。

参考:国税庁「No.5759 法人税の税率」
国税庁「No.2260 所得税の税率」
総務省「地方税制度|個人住民税 」
全国健康保険協会「令和4年度保険料額表(令和4年3月分から)」

役員報酬の相場

役員報酬を決定する際は、同業種・同規模の他社と比べて金額が過度に高くないか注意する必要があります。なぜなら、役員報酬が同業種・同規模の他社と比べて高すぎると、税務署から損金への計上を否認されるおそれがあるためです。

これとは反対に、役員報酬を極端に低く設定してしまうと、役員のモチベーションに悪影響を与えかねません。そのため、役員報酬を決定する際は、他社とのバランスを考慮することが大切です。

以上の点を踏まえて、本章では、国税庁の公表資料をもとに役員報酬の相場を紹介します。下表に資本金・性別別に役員報酬の平均額をまとめました(令和2年時点のデータ、1万円未満切り捨て)。

資本金の額 男性 女性 合計
2,000万円未満 667万円 375万円 581万円
2,000万円以上 972万円 493万円 856万円
5,000万円以上 1,177万円 634万円 1,086万円
1億円以上 1,397万円 635万円 1,313万円
10億円以上 1,502万円 608万円 1,426万円

資本金について詳しく知りたい場合は、以下の記事をご確認ください。

資本金とは?会社設立時の必要額、目安、決める時のポイントと注意点

参考:国税庁「民間給与実態統計調査結果」

まとめ

役員報酬とは、法人の役員(株式会社では取締役、会計参与、監査役)に対して支給されるお金のことです。役員報酬には、従業員給与とは違い、税法上の損金算入に関するルールが設けられています。

役員報酬を決める際は、株主総会での決議の後に取締役会での決議を経るという流れで手続きを進めるのが一般的です。

税制上、役員報酬は給与所得と同様に扱われることから、報酬を受け取る役員個人には所得税・住民税などの税金が課されます。なお。会社の利益が少ない場合、役員報酬を少なめに設定し、なるべく会社に利益を残すようにすることで、会社と役員の全体で見たときに節税効果を得られる可能性があります。

役員相場を決める際は、平均額・相場を参考にしながら、自社にとって相応しい金額を検討しましょう。

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