会社設立する前に検討すべきこと、メリット・デメリットを解説

会社設立する前に検討すべきこと

会社設立する前に検討すべきこと

会社設立は、法人として活動するために最初に取る手続きであるうえに、設立後の運営に大きな影響を与える決定事項を多く含む行為でもあります。本章では、会社設立を決める前に検討しておくべき事項の中から、代表的な6つをピックアップし、順番に解説します。

起業する必要があるか

会社設立の必要性を検討する前段階として、そもそも起業の必要性について検討しておくことが大切です。なぜなら、起業にはメリットだけでなくデメリットも存在するためです。一般的に言われている起業するメリットの中から、一例を以下にまとめました。

  • 自分のやりたいことを自由にできる
  • 高い収入が得られる可能性がある
  • 定年がなく、働き続けられる

その一方で、起業には、一般的に以下のようなリスクも存在すると考えられています。

  • 失敗は自己責任
  • 収入の保証がない

場合によっては、起業をしなくても、すでにある会社の社員として自分のやりたい事業に携われる可能性があります。そのため、現在会社で働いている場合は「会社員の立場で自身の興味のある事業に携われるかどうか」、現在学生である場合は「やりたいことを行える会社があるかどうか」など様々な選択肢を検討してみることも大切です。

会社で何をするか

起業するうえで、会社設立はあくまでも1つの手段にすぎません。そのため、何を目的として会社を設立するのか検討しておくことが大切です。

会社設立には、資金調達を行いやすくなったり、節税効果が期待できたり、対外的信用力が向上したりと、さまざまなメリットがあります。こうしたメリットを活用しながら事業を進めていきたい場合、会社設立は効果的な選択肢だといえます。

個人事業主という選択肢もある

起業を考える人の多くは、「個人事業主と法人のどちらを選ぶべきか?」という問いに悩みます。置かれている状況によって適した手段はケースバイケースであり、絶対的な正解があるわけではありませんが、ここでは判断に役立つ情報として個人事業主を選ぶ代表的なメリット・デメリットを紹介します。

起業に際して個人事業主を選択した場合に期待されるメリットの一例は以下のとおりです。

  • 開業手続きが簡単かつ費用がかからない
  • 税務申告を容易に済ませられる
  • 利益が少なければ税負担が軽い
  • 経理をはじめとする事務負担が軽い

続いて、起業の際に個人事業主を選択した場合に発生するデメリットの一例を以下にまとめました。

  • 社会的な信用度が低い
  • 融資を受けにくい
  • 採用募集活動で不利になりやすい
  • 利益が多ければ税負担が重い

こうしたメリット・デメリットを踏まえると、一般的に以下のようなケースでは個人事業主を選択することが望ましいと考えられています。

  • 年間の取得が500万円以上になる見込みがある
  • 「株式会社」の肩書がビジネスで有利になると考えられる
  • 従業員を採用する前提で事業拡大を考えている

自分で会社設立の手続きを行うか

会社設立の準備から実際に事業開始するまでには、多くの手続きが必要です。会社設立の手続きを自分で行うか、専門家に依頼するかによって、それぞれ異なるメリット・デメリットがあります。下表に主な違いをまとめました。

メリット デメリット
自分で手続きする ・外注費用を抑えられる
・会社設立の経験が得られる
・会社法、税金の知識が身に付く
・書類作成作業、手続きに多くの時間がかかりやすい
・事業準備の時間が圧迫されるおそれがある
・ミスが起こりやすい
専門家に手続を依頼する ・手続きの時間を短縮でき、本業に集中できる
・手続きのミスを防止できる
・起業の不安、節税対策などについて相談できる
・専門家探しに手間がかかる
・外注費が求められる
・顧問契約が求められることがある

双方のメリット・デメリットを吟味したうえで、状況に応じて選択すると良いでしょう。

会社の種類をどうするか

会社設立にあたって、現在設立できる会社は4種類(株式会社、合同会社、合資会社、合名会社。株式会社以外の会社は「持分会社」と呼ばれる)あります。これらの主な違いは、「出資者(社員とも呼ばれる。従業員とは異なる概念)の構成が有限責任社員か、無限責任社員か」です。

有限責任とは、主として会社が倒産した際に、出資者が出資額を限度に責任を負うことです。つまり、出資者からすると、最悪の場合でも出資額以上の損失はありません。

その一方、無限責任とは、主として会社が倒産した際に、出資者が支払いに関する全責任を負うことです。つまり、会社の資産のみでは支払えない場合、出資者は自己財産で支払う責任を負います。

また、株式会社に出資した人は「株主」と呼ばれ、経営者とは区別されます。つまり、株式会社では所有と経営が分離されているのです。これに対して、持分会社では、出資者が経営者を兼ねるため、所有と経営は分離されていません。

会社の種類ごとの特徴を下表にまとめました。

株式会社 有限責任社員のみ 余裕と経営が分離されている
持分会社 合同会社 有限責任社員のみ 所有と経営が分離されていない
合資会社 有限責任社員と有限責任社員
合名会社 有限責任社員のみ

上記の特徴を踏まえて、自身の状況に応じて会社の種類を選択しましょう。会社の種類について詳しく知りたい場合は、以下の記事をご確認ください。

会社の種類は4つ!メリット・デメリットを比較解説

資金調達を行うかどうか

会社設立にあたっては、資金調達を実施するか否かおよびその手法も検討しておくことが望ましいです。資金調達の手法は、大まかに自己資本と他人資本に分かれます。他人資本は、さらに出資、融資、助成金・補助金などの手法に細分化されます。

出資とは、創業や事業の推進に関して、特定の団体や個人から資金の提供を受け、対価として主に株式を付与することです。また、融資とは、金融機関からの借入をさします。そして、助成金・補助金とは、国などの公共機関から支給されるお金のことです。

例えば、スタートアップの性質を持つビジネスを手掛ける場合、収益基盤のない状況下から短期間での急成長を目指すことが一般的です。そのためには、事業開始前の段階から創業後にわたって継続的に資金調達を行う必要があることから、豊富な資金調達の手法を活用できる株式会社の設立が望ましいと考えられています。

これに対して、着実な成長を図るスモールビジネス(例:美容室や飲食店など)の場合、すでに確立しているビジネスモデルをベースに、改良を重ねながらビジネスを推進するのが一般的です。

スタートアップとは違い、短期間で大きな成長が見込めるものではなく、事業が軌道に乗るまでは極力リスクを抑えることが重要視される傾向が見られます。このことから、持分会社や個人事業主として、出資や借入を行わずに自己資本のみで起業するケースも多いです。

以上の特徴を踏まえて、出資や融資を実施する必要性に応じて会社設立を検討すると良いでしょう。

会社設立のメリット・デメリット

会社設立のメリット・デメリット

本章では、会社を設立するにあたって、一般的に言われているメリット・デメリットを順番に取り上げます。

メリット

はじめに、会社設立に際して期待されるメリットの中から代表的な7つの内容をピックアップし、順番に解説します。

資金調達の選択肢が増える

創業時に融資を受けるにあたって、個人事業主ではなく、会社設立によって法人になった方が有利に働く場合があります。なぜなら、法人の場合、個人事業主の場合と比較して財産管理が徹底されるために、金融機関からすると融資の判断を行うための情報を得やすく、そのため、融資の判断が行いやすくなるためです。

とはいえ、個人事業主は資金調達がしにくいというわけではありません。個人事業主でも法人と同様に、補助金や助成金制度の利用以外にも、金融機関による融資・自治体による制度融資・ビジネスローンなどの選択肢から資金調達を図ることが可能です。

また、金融機関による融資以外でも、株式会社の場合、出資の形で資金調達を行う方法もあります。これに対して、個人事業主の場合には出資を受けることによる資金調達ができません。

節税効果が期待できる

個人事業主の場合、所得税は累進課税によって所得が増えれば税額が上がります。例えば、課税所得が900万円を越えれば税率は33%となり、最高税率は45%に及びます。

これに対して、法人の場合は、課税所得が800万円以下とそれ以上で法人税率は異なりますが、最大でも23.4%です。

個々の置かれた状況にもよりますが、年間の所得額が500万円を継続して超えるような状況であれば、節税面で会社設立の実施を検討することが望ましいと考えられています。

そのほか、個人事業主にはなく法人にのみ認められている節税対策もあります。具体的には下記のような点で法人の方が有利に働く場合があります。

  • 生命保険料の一部を経費にできる
  • 欠損金を10年間繰越できる
  • 消費税の免税効果を受けられる
  • 旅費規程の作成により旅費日当を経費計上できる
  • 社宅を用いた節税対策 など

参考:国税庁「No.2260 所得税の税率」令和3年9月1日現在法令等
国税庁「No.5759 法人税の税率」令和3年9月1日現在法令等

対外的信用力が向上する

会社設立により法人になると、商号・住所・目的代表者・資本金・役員などを記した必要書類を法務局に対して提出し登記を行うため、一般的に個人事業主よりも対外的信用力が向上します。

特に法人を相手に取引を行う際、対外的信用力は非常に重要です。会社設立をせずに個人事業主として事業を行う場合、たとえ実績を持っていても取引先から発注を受けられないケースが少なからず見受けられます(特に大手企業からの発注)。

そのほか、会社設立に伴い、肩書や名刺などに「株式会社」と記載されることで、取引先からの印象が向上する可能性があります。自身のビジネスで信用力が売上増加につながることが想定される場合、会社設立の選択が望ましいと言えます。

優秀な人材を確保しやすくなる

昨今は少子化による若者の減少を受けて採用難の傾向が見られ、求職者が会社を選ぶ時代だとされています。

こうした中で、求職者から選ばれるためには、安定した労働環境や待遇を整備しておくことが大切です。そのため、会社設立によって法人になると、求職者からポジティブなイメージを持たれやすくなります。

事業承継をスムーズに済ませられる

個人事業主の場合、事業主の死亡により相続が発生すると、個人名義の預金口座が一時的に凍結されて支払いが困難になるおそれがあり、場合によっては事業の継続に支障が生じかねません。

これに対して、会社設立により法人になっておくと、会社の代表者(代表取締役)が死亡しても銀行口座が凍結されることはなく、代表取締役の登記変更の手続きを済ませるのみで、これまでどおり事業をスムーズに継続することが可能です。

また、個人事業主の場合、事業主が死亡すると、財産のすべてが相続の対象となり、相続税が課されます。その一方で法人の場合は、相続の概念がないため、相続税が課されません。ただし、法人への出資(株式会社であれば株式)を売却する場合、その譲渡益には税金が課される点に注意が必要です。

決算日を自由に設定できる

個人事業主の場合、税法によって事業年度は1月から12月までの1月1日~12月31日までの1年間と定められています。

これに対して、法人の場合は自由に事業年度の決算時期を設定できるのです。そのため、例えば、業務の繁忙期と決算事務をしなければならない時期が重なることを防げます。

参考:国税庁「No.6137 課税期間」令和3年9月1日現在法令等

有限責任として個人資産が差押えを受けずに済む

個人事業主の場合、仕入先や取引先などへの支払いが不可能となったり、融資を返済できなくなったりすると、事業主自身が個人財産を用いて返済を行う必要があります。

これに対して法人の場合、代表者が負うのは有限責任(出資の範囲内での責任)に留まり、それ以上の支払い義務が発生しません。ただし、中小企業やスタートアップなどの場合、銀行融資には代表者個人の保証を求められるケースが多く、個人としての返済義務が発生する可能性がある点には注意しましょう。

スタートアップの詳細は、以下の記事で解説しています。

スタートアップとは?ベンチャーとの違いを解説【図解あり】

デメリット

続いて、会社設立に際して発生するおそれのあるデメリットの中から代表的な4つの内容をピックアップし、順番に解説します。

事務負担が増加する

会社設立に伴い法人になると、個人事業主よりも厳密な会計ルールに従った会計処理が求められます。また、法人税をはじめとする税金の申告手続きは複雑であり、税理士に依頼するのが一般的です。

そのほか、株主総会の開催や役員変更登記、社会保険や労働保険に関する手続きなども求められ、個人事業主の場合と比べて格段に事務負担が増加する点に注意しましょう。

手続きに多くの時間・費用がかかる

会社設立のための手続きが完了するまでには、大まかな目安として2週間〜1カ月程度の期間を要します。これに対して、個人事業主の場合、税務署に開業届を提出するのみで手続きを済ませられるため、わずか1日で開業することも可能です。

また、費用面を見ると、会社設立時には登記代・定款認証料などで最低でも20万円程度(※)が求められる一方で、個人事業主にはこれらの費用が発生しません。

また会社の設立後は、赤字であっても住民税均等割(最低7万円前後)と呼ばれる税金が課されます。これに対して、個人事業主の場合、赤字になると税金は課されません。

※定款認証の手数料は、資本金の額等が100万円未満の場合は3万円、100万円以上300万円未満の場合は4万円、その他の場合は5万円。

参考:日本公証人連合会「Q3. 定款の認証に要する費用 」
総務省「地方税制度|法人住民税 」

社会保険に強制加入する

会社設立に伴い法人になると、社会保険(健康保険および厚生年金保険)に加入する必要があります。このときに支払う保険料は、個人事業主の場合に支払う国民健康保険および国民年金と比べて高額です。

なお、保険料は会社と従業員本人での折半となるため、従業員が多ければ多いほど、従業員に支払う給料が高ければ高いほど、法人として支払うべき金額が高くなります。

会社の財産を自由に使用してはならない

個人事業主の場合、基本的には、事業を通じて得たお金は事業主が自由に使用できます。これに対して、会社設立に伴い法人化すると、会社の財産と個人の財産が明確に区分されるため、たとえ会社の代表者であっても会社のお金を自由に使用してはなりません。

まとめ

会社設立は、法人として活動するために最初に取る手続きであるうえに、設立後の運営に大きな影響を与える決定事項を多く含む行為でもあります。そのため、会社設立を決める前には、以下6つの事項を検討することが望ましいです。

  • 起業する必要があるか
  • 会社で何をするか
  • 個人事業主という選択肢との比較
  • 自分で会社設立の手続きを行うか
  • 会社の種類をどうするか
  • 資金調達を行うかどうか

以上の点について、本記事で解説した会社設立のメリット・デメリットを踏まえて、会社設立を行うべきか検討しましょう。

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