エクイティファイナンスとは?資金調達でのメリット、デットファイナンスとの違い
【目次】
エクイティファイナンスとは
エクイティファイナンス(英語:Equity Finance)とは、企業が新株発行を通じて、事業のために資金を調達する行為を指します。「エクイティ(株式資本、自己資本)」を増加させる資金調達方法であることに由来し、この名称が付けられました。
エクイティファイナンスを通じて資金調達を行うと、貸借対照表における資本が増加する仕組みです。
また、エクイティファイナンスは、大まかに「第三者割当増資」「株主割当増資」「公募増資」「転換社債型新株予約権付社債」という4種類の方法に分かれます(各方法の詳細は後述します)。
エクイティファイナンスとデットファイナンスの違い
デットファイナンス(英語:Debt Finance)とは、金融機関からの借入や社債の発行などを通じて資金調達を行う方法です。エクイティファイナンスとデットファイナンスは類似する言葉であるものの、反対の意味を持つ概念です。そこで本章では、両者の代表的な相違点を紹介します。
まず、デットファイナンスによる資金調達では、返済の義務と期限が定められており、借入金額に応じて利息の支払いが必要とされます。また、「デット(負債、他人資本)」の増加に伴い、貸借対照表の負債が増加する点も特徴的です。
これに対して、エクイティファイナンスによる資金調達では、原則として株主に出資金を返還する義務や期限の定めがありません。加えて、「エクイティ(株式資本、自己資本)」の増加に伴い、貸借対照表の資本が増加する点にも特徴があります。
デットファイナンスについては、以下記事で解説しているので、詳細を知りたい際にご一読ください。
エクイティファイナンスとデットファイナンスの性質を併せ持つ「メザニンファイナンス」という資金調達手段もあります。以下記事で解説しているので、詳細を知りたい際にご一読ください。
エクイティファイナンスで資金調達を行うメリット
本章では、エクイティファイナンスを通じて資金調達を行う代表的なメリットとして、5つを取り上げて紹介します。
返還義務がない
エクイティファイナンスにより調達した資金に関しては、原則として返済義務が生じません。これに対して、デットファイナンスにより調達した資金調達については、返済期限が定められるのが一般的であり、企業の資金繰りを圧迫する要因となります。
このように、たとえ大規模な資金調達を行ったとしても、毎月の返済を気にかける必要がない点は魅力的なメリットだといえます。
エクイティファイナンスは返済義務がないから良い?
エクイティファイナンスによる資金調達とデットファイナンスによる資金調達を比較する際に、「エクイティファイナンスは返済義務がなく、デットファイナンスは返済義務がある」と説明されることがあります。この表現は端的で分かりやすいものの、語弊を招く可能性があります。
確かに、両者の違いは「エクイティファイナンスは返済期限がなく、デットファイナンスは返済期限がある」という点にあるともいえます。デットファイナンスによる資金調達の場合、ほとんどのケースで一定期間定額または期日一括の返済期限が設定されますが、一方で、エクイティファイナンスにはいつまでに返済しなければいけないという期日の設定がありません。
この部分のみを切り取ると、「エクイティファイナンスによって資金調達すれば返済する必要がない」といえます。しかし、その代わりに、エクイティ出資者は、「投資元本を超える利益を得られる」という権利を有しています。つまり、資金回収の時期が遅れてしまうリスクや、回収できないリスクがあるものの、投資した企業が想定以上の利益を生み出した場合には、大きなリターンを得ることが可能です。その対価として、会社の大切な株式を渡すことになります。
「返済義務のない資金調達」と聞くと、誰もが魅力的に感じると思いますが、両者を単純に「返済義務の有り無し」で比較して、返済義務のないエクイティファイナンスの方が常に良いと結論付けることはやや早計に思えます。資金調達の方法を検討する際には、企業の状況や時期によって、適切に判断すると良いでしょう。
財務体質を強化できる
エクイティファイナンスを通じた資金調達では、株主の増加に伴い自己資本が増えることから、財務面での安定性を示す自己資本比率が高くなる点も見逃せないメリットです。
ネットワークが広がる
エクイティファイナンスを通じた資金調達では、企業に出資を行う投資家側の立場から見ると以下のような目的を掲げて資金を提供するのが一般的です。
- 投資先企業の株価上昇によって利益を獲得すること
- 投資先企業が成長過程で得た利益を株主に還元する配当金を獲得すること
つまり、投資家は投資先企業が利益を生み出すことを望んでおり、これを実現させるために取引先や協力会社などを積極的に紹介してくれる可能性があります。
信用度の向上
自己資本比率の上昇に伴い、他の企業や銀行などからの評価が向上したり、現時点では利益を生み出していない企業であっても将来性があると認められたりするなど、新たに資金調達を行ううえで有利に働く可能性もあります。
利息が無い
エクイティファイナンスを通じた資金調達では、出資金の返還だけでなく、利息の支払いも求められません(※転換社債型新株予約権付社債を発行する場合を除く)。資金調達を行った際に、利息の支払いを意識せずに済む点もメリットの1つです。
エクイティファイナンスで資金調達を行うデメリット
エクイティファイナンスによる資金調達には多種多様なメリットがあるものの、デメリットも少なからず見受けられます。本章では、代表的な4つのデメリットを取り上げます。
経営者の権利の希薄化
エクイティファイナンスを通じて資金調達を行うと、経営者の持っている権利が希薄化するおそれがあります。例えば、第三者割当増資を採用した場合、もし新たな株主に対して議決権の過半数を渡してしまったりしたら、最悪のケースでは経営権を失いかねません。
こうしたリスクが生じることから、慎重に実施を検討する必要があります。経営への関与度を維持するには、以下の事項を設定した種類株式の発行が効果的な施策の1つです。
- 優先配当、優先残余分配→1株あたりの株式の価値を高めて発行株式数を少なくする
- 議決権の制限→議決権を行使できる事項を制限する
配当政策に影響する可能性
エクイティファイナンスによる資金提供者となる投資家は、対価としてインカムゲイン(配当収益)やキャピタルゲイン(売買差益)の獲得を望みます。一般的に、投資家の期待するリターンは、デットファイナンスよりもエクイティファイナンスの方が大きいです。
そのため、もしも資金調達による株主構成の変化に伴い、投資家から多くの配当を求める圧力が強まれば、最終的に多額のコストを支払わなければならないケースがあります。なお、法人税の定めにより、利息の支払いは損金算入を行えるものの、配当金の支払いでは行えない点にも要注意です。
優遇税制の対象外になる
日本政府は中小企業(中小法人)に対して「法人税率の軽減」などさまざまな優遇税制を設けていますが、法人税法では資本金によって企業規模を規定しているため、エクイティファイナンスによる資本金の増加に伴い、優遇税制の対象外になるおそれがあります。
税制優遇制度の対象となる中小法人の要件を簡単に紹介すると、普通法人(例:株式会社)のうち、「各事業年度終了時において資本金もしくは出資金の額が1億円以下の法人」または「資本もしくは出資を有しない法人」であることです。この要件を外れることで受けられなくなる優遇税制の代表的な内容を、以下にまとめました。
- 法人税率の軽減
- 欠損金の繰越控除
- 欠損金の繰戻還付
- 交際費課税の特例
- 固定資産税・都市計画税の減免措置
また、資本金が1,000万円を超えると、法人住民税(都道府県税・市町村民税)の均等割りの金額が高くなります。例えば、東京23区に事務所を持つ従業者数50人以下の企業の法人住民税は、資本金1,000万円以下の場合では7万円であるのに対し、1,000万円を超える場合では18万円です。
加えて、資本金の額が1億円を超えると、事業税の外形標準課税の適用事業者に該当します。この場合、企業の損益にかかわらず(赤字であっても)事業税を納める必要があります。
出典:中小企業庁「中小企業税制(令和2年度版)」
経済産業省「経済産業関係 令和3年度税制改正のポイント」
東京都主税局「均等額の計算に関する明細書(第6号様式別表4の3)記載の手引
手続きが煩雑かつコスト増
エクイティファイナンスを通じて資金調達を行う際は、(株主割当以外の場合、)新株を発行するだけでなく既存株主を保護する観点から合理的な説明を行うなど、煩雑な手続きが求められます。
このうち、既存株主への説明を怠ると、最悪のケースでは会社法上の不公正発行に該当して新株発行の差止めの対象となる可能性があるため注意が必要です。
エクイティファイナンスの種類
本章では、エクイティファイナンスによる資金調達方法を4種類取り上げて、概要と代表的なメリット・デメリットを紹介します。
第三者割当増資
企業が特定の第三者を出資者として発行した新株を引き受ける権利を与え、その権利の対価として出資を得ることで資金調達を行う方法を指します。スタートアップで最も活用されているエクイティファイナンスです。スタートアップが第三者割当増資を行う場合、エンジェル投資家・ベンチャーキャピタル・事業会社・金融機関・自社で働く役員や従業員などが出資者となるケースが多く見られます。
なお、既存株主が出資者となる場合もありますが、後述する株主割当増資とは「特定の株主のみが取得する」点で異なります。
メリット
取引関係にある企業・銀行・エンジェル投資家・自社の役員など、自社との関連性が高い出資者を株式の引受先として出資を募れるため、資金が集まりやすいです。また、企業と出資者が一丸となり業績向上を目指せるため、安定した信頼関係を築けます。
デメリット
全体の発行株式数が増えることで、既存株主の持分比率が低下するおそれがあります。これに伴い、既存株主への説明対応が求められる場合があり、多くの手間がかかります。
株主割当増資
すべての既存株主に対して、その持分比率に応じて新株を引き受ける権利を与えることで出資を募る資金調達方法です。この権利を与えられた株主は、申し込まない限り出資を行う必要はありません。ただし、出資を行わないと、新株を取得する権利は失効し、相対的に自身の株式保有率および株主総会における議決割合などの低下を招きます。
メリット
基本的に経営者を含めた株主の持分比率が変わらないため、既存株主との調整を行いやすく、比較的スムーズに資金調達を済ませられます。
デメリット
株式の引受先が既存株主のみに限定されることから、既存株主の資金余力や出資意欲などによって調達総額が決まるため、大規模な資金調達が難しいといえます。
公募増資
株式公開済みの企業(上場企業)が、一般の投資家など広く不特定多数の投資家に対して新株を引き受ける権利を与えて、発行した新株を割り当てる対価として出資を得ることで資金調達を行う方法です。
公募増資を行う際、ほとんど時価に近い価格で新株を発行するのが一般的です。これにより、多くの投資家からの募集が期待できるとともに、既存株主の保有する株価の下落を最小限に抑えられます。
メリット
多くの出資者に出資を募ることができるため、大規模な資金調達を行う際に適した方法だといえます。
デメリット
多くの出資者を勧誘するために費用(例:引受証券会社に対し、引受業務の対価として支払う引受手数料)が発生するほか、有価証券届出書・目論見書・継続的な有価証券報告書などの作成および継続開示が必要とされます。
転換社債型新株予約権付社債
発行会社の株式に転換できる権利が付与された社債です。将来的に発行会社の株価が上昇すれば、事前に決められた価格(転換価格)で株式に転換することで、値上がり益を獲得できます。これとは反対に、株価が上昇しない場合では、社債のまま保有しておくことで償還まで一定の利子と元本を獲得できます。
メリット
新株予約権付社債による資金調達において、発行されるのはあくまでも社債です。そのため、株式を発行する場合には必要とされるバリュエーション(企業価値評価)の算定が求められません。
創業直後の企業では、バリュエーションの算定が難しい場合が多いです。そのうえ、バリュエーションの算定を適切に行えないと、以降の資金調達を思うように実施できなくなるリスクがあります。例えば、創業直後の資金調達においてバリュエーションを高く算定しすぎると、次回資金調達時の出資候補者からバリュエーションの設定が不適当であると判断されて、前回の資金調達よりも低い株価での資金調達(ダウンラウンド)を強いられるおそれがあります。
しかし、新株予約権付社債を用いれば、バリュエーションの算定を先送りにできるため、資金調達時において大きなメリットです。
ダウンラウンド(前回の資金調達よりも低い株価での資金調達)の詳細は、以下の記事で紹介しています。
デメリット
資金調達を行う企業側からすると、新株予約権付社債は借金です。そのため、満期になれば元金を返済する必要があるほか、満期を迎えるまでの期間は社債権者に対する利息の支払いが求められます。
まとめ
エクイティファイナンスとは、企業が新株発行を通じて、事業のために資金を調達する行為のことです。デットファイナンスとは、「返済義務の有無」や「貸借対照表の増加箇所」などの点で違いが見られます。
エクイティファイナンスを通じた資金調達では、主に以下のメリットが期待できます。
- 返還義務が無い
- 他の企業とのネットワークが広がる
- 他の企業や銀行などからの信用度の向上
- 利息が無い
ただし、以下のようなデメリットが問題となるケースもあるため、慎重に検討したうえで実施することが望ましいです。
- 経営者の権利の希薄化
- 配当政策に影響する可能性
- 優遇税制の対象外になり、納税額が増加する
- 手続きが煩雑でコストが増える
また、エクイティファイナンスによる資金調達を検討する際は、「第三者割当増資」「株主割当増資」「公募増資」「転換社債型新株予約権付社債」という4種類の方法それぞれのメリット・デメリットも把握したうえで、自社にふさわしい方法を吟味すると良いでしょう。
DEEPTECH DIVE
本記事を執筆している東京大学協創プラットフォーム開発株式会社(東大IPC)は、東京大学の100%出資の下、投資、起業支援、キャリアパス支援の3つの活動を通じ、東京大学周辺のイノベーションエコシステム拡大を担う会社です。投資事業においては総額500億円規模のファンドを運営し、ディープテック系スタートアップを中心に約40社へ投資を行っています。
キャリアパス支援では創業期~成熟期まで、大学関連のテクノロジーシーズを持つスタートアップへの転職や副業に関心のある方とのマッチングを支援しており、独自のマッチングプラットフォーム「DEEPTECH DIVE」を運営しています。
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