2022/3/23

デットファイナンスとは?特徴や種類、メリット・デメリットを解説

デットファイナンスとは

デットファイナンスとは

デットファイナンス(英語:Debt Finance)とは、有利子負債(利子を付けて返済しなければならない負債)による資金調達方法です。別名、借入金融とも呼ばれています。

例えば、金融機関からの融資や各種ローンの借り入れ、社債の発行などを通じて資金を調達する行為をさします。

デット(Debt )とは英語で負債や借金を意味する言葉であり、デットファイナンスを通じて資金調達を行うと貸借対照表の負債が増加します。

なお、デットファイナンスと反対の意味を持つ概念に、エクイティファイナンスがあります。双方の違いを含めて詳細を知りたい場合は、以下の記事をご一読ください。

エクイティファイナンスとは?資金調達でのメリット、デットファイナンスとの違い

デットファイナンスの特徴

本章では、デットファイナンスによる資金調達の主な特徴を4つ取り上げます。

返済の義務がある

デットファイナンスを通じて資金調達を行うと、将来的に返済義務を負います。

返済期限がある

返済義務があることは、返済期限が設けられていることを意味します。

利息が発生する

デットファイナンスによる資金調達では、借入金額に応じて利息の支払いが必要とされます。この利息分は、支出(経費)として計上されます。

多くの場合、デットファイナンスにおける利息は、審査基準が比較的厳しい金融機関の融資では低く設定されている一方、審査基準が比較的易しいノンバンク系のビジネスローンでは高く設定されています。

資金調達先が多い

デットファイナンスでは、日本政策金融公庫・一般的な銀行・信用金庫・ノンバンク系の金融機関など、資金調達先が豊富にある点も特徴的です。それぞれ融資の条件が異なるため、会社の状況に応じて柔軟に資金調達先を選択できます。

デットファイナンスの種類

デットファイナンスの種類

次に、デットファイナンスによる資金調達手段として代表的な7種類を取り上げて、それぞれの概要と具体的な融資について紹介します。

公的融資

公的機関による融資のことです。日本政策金融公庫による「新創業融資制度」や、制度融資などが該当します。

日本政策金融公庫とは、政府が100%出資する金融機関です。新しく事業を開始する人や事業の開始から間もない人に向けて、無担保・無保証人で利用できる「新創業融資制度」を取り扱っています。新創業融資制度の概要を下表にまとめました。

対象者 融資限度額 利率(年)
新たに事業を始める人、または事業開始後税務申告を2期終えていない人 3,000万円
(うち運転資金1,500万円)
2.36〜2.85%
(基準利率)

日本政策金融公庫の新創業融資制度には、一般的な銀行と比べて融資を受けやすく、融資期間を長めに設定している点に特徴があります。また、日本政策金融公庫から借入・返済を行った実績により信用度が高まると、その他の金融機関から資金調達を行いやすくなる可能性が高まる点もメリットです。

続いて、制度融資とは、中小企業や小規模事業者の資金調達をサポートすべく、地方自治体・金融機関・信用保証組合が連携して提供している融資です。融資に際して、地方自治体からは利子の負担軽減を、信用保証協会からは信用保証を行ってもらえます。

銀行のプロパー融資と比べると長期的かつ低金利な融資を提供している点や、対象が幅広いので比較的借入申し込みしやすい点などが特徴的です。さらに、地方自治体や融資メニューによっては、担保や保証人が不要なケースも見られます。

ただし、公的融資に共通するデメリットとして、申込から融資の実行までに数カ月程度の時間が求められる点には注意が必要です。

出典:日本政策金融公庫「新創業融資制度の概要」

銀行融資

民間の金融機関からの融資を指します。大まかに、プロパー融資とビジネスローンの2種類に分かれます。

プロパー融資とは、信用保証協会による保証を受けずに、銀行と直接的に契約を交わして行われる融資のことです。主な資金調達先の候補として、都市銀行・地方銀行・インターネット銀行などが挙げられます。

プロパー融資の審査に申し込むと、「企業格付」に沿って、銀行が融資を行うか否か・金利・返済期間・決済方法などの貸出条件が決められるのが一般的です。この格付は、資本金・自己資本比率などの財務指数をもとにした「定量評価」と、市場動向・経営状態・営業基盤・競合状態などの数字では表現しにくい「定性評価」で構成されています。こうした事情から、プロパー融資の審査を受けるためには、多くの資料を準備しなければなりません。

続いて、ビジネスローンとは、事業資金としての利用に目的を絞ったローン商品です。主として、開業資金・運転資金・設備資金などに使用するための融資を指します。ビジネスローンの提供主体は、金融機関のほか、信販会社や消費者金融なども挙げられます。

ビジネスローンは一般的な融資よりも金利が高い傾向にあるものの、即座に融資を受けられるなどのメリットがあります。また、無担保で借入を行えるローン商品もある点や、申込から融資実行までの期間が比較的短い点などもメリットです。

貸出先の金融機関や企業の財政状況、また担保や保証の有無などによって融資の条件は変わるため、申し込む前に確認しておくことが大切です。

社債

ここでは、デットファイナンスの代表的な手段として挙げられる「普通社債(公募債)」について紹介します。

事業会社が事前に発行金額や期日・利息などを決めたうえで債券を発行し、一般の投資家に売り出すことで資金を調達する方法です。満期一括償還のケースが多く、融資と比較すると資金繰りに余裕が生まれやすいです。

社債を発行する際は、有価証券報告書や有価証券通知書の提出などの手続きが求められます。

私募債

社債のうち、公募の手続きを経て購入を勧誘する債券は「公募債」と呼ばれるのに対して、それ以外の方法を通じて購入を勧誘する債券は「私募債」と呼ばれています。

私募債は、公募の手続きが不要であり、中小企業では金融機関・信用保証協会などが償還について保証する形式が主流とされています。なお、これらの私募債は、「銀行保証付(銀行引受)私募債」「信用保証協会保証付私募債」などと呼ばれています。

償還について、金融機関・信用保証協会から保証を受けられるのは一定の財務基準を満たす優良企業に限定されるため、企業の信用度向上やPR効果などが期待できます。また、私募債は、財務状況が一定水準以上であれば、毎月の返済によって資金が減らない形式での調達(一括償還)を行うことも可能です。

コマーシャルペーパー

コマーシャルペーパー(CP:Commercial Paper )とは、企業が短期間で資金調達するために、公開市場にて割引形式で発行する無担保の約束手形を指します。無担保であるため、コマーシャルペーパーを発行できるのは、財務内容が良好で信用度の高い企業のみです。また、額面金額は1億円以上とされています。

証券会社や金融機関が発行を引き受けたうえで、投資家に販売するという仕組みで資金調達を行います。そのため、社債(証券会社を通じて広く一般に募集される公募債)と特徴が類似していますが、社債の償還期間は1年以上であるのに対して、コマーシャルペーパーでは1年未満(1~3カ月以内が多い)であるのが一般的です。なお、発行する企業の信用度や優良性によって金利が決まります。

シンジケートローン

シンジケートローンとは、複数の銀行から組成されるシンジケート団から融資を受ける資金調達方法です。1つの融資契約書にもとづき、同一の条件で融資を受けられます(各金融機関は、1つの融資契約書にもとづき個別に融資を行います)。

参加金融機関(融資を行う金融機関)をアレンジャー(幹事金融機関)が募るというシンジケートローンの仕組みは、社債の発行方法と類似しています。しかし、シンジケートローンはあくまでも金融機関からの借入であり、社債とは異なる資金調達方法です。

また、シンジケートローンでは借入条件・返済スケジュールの設定を柔軟に行えるほか、アレンジャーのサポートにより事務負担が軽減されるなどのメリットがあるものの、金利とは別にアレンジメントフィーやエージェントフィーなどの手数料が発生する点に注意が必要です。

ソーシャルレンディング

ソーシャルレンディングとは、融資を受けたい企業と資金を提供して利益を得たい投資家をマッチングするサービスのことです。クラウドファンディングの1種であり、融資型クラウドファンディングとも呼ばれています。

具体的な仕組みは、ソーシャルレンディングサービスを運営する会社が、インターネット上でファンドの募集を行い、個人投資家から資金を集めたうえで、これをファンド業者を通じて企業に貸し付けるというものです。投資家からすると、1万円程度から利用できるサービスが多く、元本がそれほどない場合でも資産運用を行える点が主なメリットです。

借り手企業におけるソーシャルレンディングのメリットは、一般的な融資と比べて資金調達までのスピードが速い点にあります。ただし、ソーシャルレンディングで資金調達する際の金利は銀行からの有利よりも高く設定される傾向にある点には注意が必要です。

デットファイナンスのメリット

デットファイナンスのメリット

本章では、デットファイナンスを通じて資金調達を行う代表的なメリットとして、5つをピックアップして紹介します。

経営権に影響がない

エクイティファイナンスを通じた資金調達では株式を用いるため、経営権に悪影響を及ぼすおそれがあります。もし新たな株主に対して議決権の過半数を渡してしまうと、最悪のケースでは経営権を失いかねません。

上記に対して、デットファイナンスは株式を利用した資金調達ではないため、資金調達を行った後も現在の経営者が経営権を握った状態を維持できます。ただし、経営状態が危機に瀕した場合には、融資を行う金融機関等からアドバイスを提供される場合があります。

節税効果がある

デットファイナンスを通じて融資を受けた場合、元金に利息を付けて返済する必要があります。このことから、融資を受けない場合と比較すると金銭的な損失を被ることになるものの、利息の支払い分は法人税の対象外とされます。要するに、所得から支払った利息分を差し引けるため、借入金額に応じた節税効果を期待できるのです。

このように、デットファイナンスによる節税分だけ企業価値が増大する現象を、「負債の節税効果」と呼びます。負債の利用によって生じる節税効果は、企業の法人税率が高い(もしくは債務残高が多い)ほど大きいです。

負債の節税効果を具体的に説明するために、事業内容が全く同一であるものの、負債の利用がないA社と、負債の利用があるB社を比較します(下表を参照)。

A社 B社
営業利益 100 100
利息の支払い 0 20
税引前の利益 100 80
法人税(30%で計算) 30 24
税引後の利益 70 56
資金提供者の利得 70 76

事業内容が同じであるため、営業利益を両社ともに100とします。A社は負債の利息の支払いがないのに対して、B者は負債の利息の支払いが20あるとします。営業利益から利息の支払い分を引くと税引前の利益が求められ、それぞれA社は100、B社は80となります。

この税引前の利益に一定の法人税(本記事では便宜上、30%とします)が課せられるため、法人税の支払い金額に差異が生まれるのです。この法人税を、税引前利益から控除すると、税引後の利益が求められます。

ここで、資金提供者の利得がいくら残るのか、という観点で見てみましょう。資金提供者とは、株主や債権者などのことです。A社では、債権者がおらず株主のみが資金提供者に該当することから、税引後の利益70がそのまま資金提供者(株主)の利得とされます。

これに対して、B社では、株主に加えて債権者も資金提供者に該当することから、税引後の利益56が株主の利得、利息の支払い20が債権者の利得となり、これらの合計値76が資金提供者(株主と債権者)の利得とされます。つまり、B社では、資金提供者全体の利得がA社よりも6多いです。

以上より、A社とB社の資金提供者の利得の差は、法人税の課税額の違いから生まれていることが見て取れ、B社ではその分だけ節税効果を得られます。

返済実績による信用力向上

デットファイナンスを行った後、しっかりと返済を行うと、その記録は返済実績として残されて主に金融機関から評価されるでしょう。これにより、将来的に融資を受けやすくなったり、より良い借入条件で融資を受けられたりする可能性があります。

とはいえ、これは返済を滞りなく行った場合に期待できるメリットです。反対に、ひとたび返済を怠れば、信用度は急激に落ち、信用情報機関に滞納や踏み倒しの記録を残される場合があります。そうなると、ほとんどの金融機関から借入できなくなってしまいます。将来的な資金調達手段を確保するためにも、しっかりと返済計画を立ててから融資を受けて、確実に返済を行いましょう。

支払う税金に影響がない

エクイティファイナンスは株式を用いた資金調達方法であり、資本金の増加が伴います。これにより、自己資本比率が改善されるものの、支払う税金が増えるおそれがあります。

資本金の増加は、主として、法人税率・交際費の損金不算入・法人住民税の均等割・中小企業投資促進税制・少額減価償却資産などに対して影響を及ぼします。

これに対して、デットファイナンスでは資本金の増加を伴わないため、税金面に影響を及ぼすことなく資金調達を行えます。

資金計画が立てやすい

デットファイナンスを通じて資金調達を行った場合、融資を行う金融機関等に対して返済をするのは融資を受けた元金とその利息分に限られ、配当金を支払う必要はありません。

つまり、デットファイナンスでは、利率が一定の場合、融資を受けた時点で返済金額を明らかにできるため、今後の資金計画を立てやすい資金調達方法だといえます。

これに対して、エクイティファイナンスを通じて資金調達を行うと、一般的に、利益に応じた配当金の支払いが求められます。そのため、将来的に投資家に支払う配当金の金額を予測することが難しく、デットファイナンスと比べると将来キャッシュ(アウト)フローの計画を立てにくい資金調達方法だといえます。ただし、無配当の種類株式のみを発行するエクイティファイナンスの場合は当てはまりません。

デットファイナンスのデメリット

デットファイナンスを通じた資金調達には多種多様なメリットがある一方、デメリットにも注意が必要です。本章では、代表的な3つのデメリットをピックアップして紹介します。

返済期限がある

デットファイナンスの特徴でも取り上げましたが、返済期限がある点はデメリットです。

もしも返済期限内に返済することができないと、債務不履行として延滞利息の支払いを請求されたり、強制執行(会社や経営者個人の資産の差し押さえなど)されたりします。

これに対して、エクイティファイナンスには、返済期限はありません。

デットファイナンスは返済義務・期限があるために劣っている?

デットファイナンスによる資金調達とエクイティファイナンスによる資金調達を比較する際に、「デットファイナンスは返済義務があり、エクイティファイナンスは返済義務がない」と説明されることがあります。この表現は端的で分かりやすいものの、語弊を招く可能性があります。

確かに、両者の違いは「デットファイナンスは返済期限があり、エクイティファイナンスは返済期限がない」という点にあるともいえます。デットファイナンスによる資金調達の場合、ほとんどのケースで一定期間定額または期日一括の返済期限が設定されますが、一方で、エクイティファイナンスにはいつまでに返済しなければいけないという期日の設定がありません。

この部分のみを切り取ると、「エクイティファイナンスによって資金調達すれば返済する必要がない」といえます。

しかし、その代わりに、エクイティ出資者は、「投資元本を超える利益を得られる」という権利を有しています。つまり、資金回収の時期が遅れてしまうリスクや、回収できないリスクがあるものの、投資した企業が想定以上の利益を生み出した場合には、大きなリターンを得ることが可能です。その対価として、会社の大切な株式を渡すことになります。

「返済義務のない資金調達」と聞くと、誰もが魅力的に感じると思いますが、両者を単純に「返済義務の有り無し」で比較して、返済義務のないエクイティファイナンスの方が常に良いと結論付けることはやや早計に思えます。資金調達の方法を検討する際には、企業の状況や時期によって、適切に判断すると良いでしょう。

負債が発生する

デットファイナンスを通じて調達した資金は、貸借対照表において負債(借金)として扱われます。これにより、貸借対照表の負債が増えることで、各種財務指標に影響を及ぼすことになります。

必ずしも「負債の発生=悪」とはいえないものの、負債だけが増えすぎると、債務超過に陥りかねません。債務超過に陥ると会社としての信用を失うことになりますので、資産・負債・資本の財務バランスを意識しておくことは大切です。

自己資本比率が低下する

デットファイナンスは借入であり、調達した資金はすべて「他人資本」に分類されて、結果的に自己資本比率の低下を招きます。自己資本比率とは、総資本のうち返済不要の自己資本が何%を占めるかを示す数値であり、企業における財務の安全性を分析するために用いられています。

負債だけが増えて、自己資本比率が相対的に低下すると、金融機関や他の企業などから「資金力のない企業」と判断されてしまい、以下のような弊害が生じるおそれがあります。

  • 金融機関から融資を受けづらくなる
  • 補助金や助成金の利用が難しくなる
  • 他の企業からの評価が悪化する

融資・補助金・助成金などを利用できなくなれば、企業の成長が止まってしまう要因となります。

まとめ

デットファイナンスとは、有利子負債による資金調達方法です。金融機関からの融資や各種ローンの借り入れ、社債の発行などを通じて資金を調達する行為を意味します。

デットファイナンスによる主な資金調達手段として、「公的融資」「銀行融資」「社債」「私募債」「コマーシャルペーパー」「シンジケートローン」「ソーシャルレンディング」など、資金調達の方法の豊富さが大きな特徴です。

デットファイナンスを通じた資金調達では、主に以下のメリットが期待できます。

  • 経営権に影響がない
  • 節税効果がある
  • 返済実績による信用力向上
  • 支払う税金に影響がない
  • 資金計画が立てやすい

その一方、以下のようなデメリットが問題となるケースもあるため、留意しておくと良いでしょう。

  • 返済期限がある
  • 負債が発生する
  • 自己資本比率が低下する

デットファイナンスによる資金調達を検討する際は、それぞれの手段にあるメリット・デメリットを把握したうえで、企業の状況に適した方法を吟味することが望ましいです。

DEEPTECH DIVE

本記事を執筆している東京大学協創プラットフォーム開発株式会社(東大IPC)は、東京大学の100%出資の下、投資、起業支援、キャリアパス支援の3つの活動を通じ、東京大学周辺のイノベーションエコシステム拡大を担う会社です。投資事業においては総額500億円規模のファンドを運営し、ディープテック系スタートアップを中心に約40社へ投資を行っています。

キャリアパス支援では創業期~成熟期まで、大学関連のテクノロジーシーズを持つスタートアップへの転職や副業に関心のある方とのマッチングを支援しており、独自のマッチングプラットフォーム「DEEPTECH DIVEを運営しています。

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