CAC(カスタマーアクイジションコスト)とは?計算方法、LTVとの関係を解説
【目次】
CACとは?
CACとは、「Customer Acquisition Cost/カスタマーアクイジションコスト」の頭文字を取ったマーケティング用語をさします。日本語に直訳すると「顧客獲得単価」を意味し、顧客を獲得するために必要なコストを示した指標です。CACには、広告出稿・イベント出展などにかかったマーケティング費用やセールスの人件費など、顧客獲得のために費やしたすべての費用が含まれます。
CACは、顧客の獲得経路(チャネル)によって、以下の3種類に分けられます。
分類 | 概要 |
Organic CAC | ・自然に増えていく顧客の獲得コストのこと。 例:リピーターがECサイトに書き込んだレビューをもとに増加した顧客、検索エンジンから自社サイトに到達した顧客など。 ・獲得コストが安価に算出される傾向がある。 ・算出することでPaid CAC(後述)の正確な算出につながる。 |
Paid CAC | ・何らかの投資を行ったことで獲得した新規顧客の獲得コストのこと。 例:Webサイト・SNSへの広告出稿やキャンペーン施策など。 ・企業によってさまざまなマーケティング施策があるため、それぞれの施策別に算出するのが一般的。 |
Blended CAC | ・Organic CACとPaid CACを足して算出される顧客獲得コストのこと。 ・事業全体の顧客獲得コストを評価する際に用いる指標で、一般的に単にCACという場合はBlended CACをさす。 |
ちなみに、CACと名称が類似する指標に、CPAが挙げられます。CPAとは「Cost Per Acquisition/コストパーアクイジション」の頭文字を取ったマーケティング用語であり、日本語に訳すとCACと同じく「顧客獲得単価」を意味する指標です。
CACは主としてプロジェクトやマーケティングチャネル単位で用いられるのに対して、CPAは1つのマーケティング施策(例:広告出稿)あたりの発生コストを示す際に用いられるのが一般的である点に違いが見られます。
CACの計算方法
ここまでに取り上げた概要を踏まえて、本章ではCACを計算するための方法を解説します。
基本の計算方法
基本的に、CACは以下の計算式で求められます。
- CAC=顧客獲得のために費やしたコスト÷新規顧客の獲得数
例えば、ある企業が顧客獲得のために1年間で240万円のコストを費やし、新規顧客を30人獲得できたケースを想定すると、CACは以下のとおり算出できます。
- 240万円÷30人=8万円
上記のケースの場合、新規顧客を1人獲得するために8万円かかっていることがわかります。
Organic CACの計算方法
Organic CACは、以下の計算式で求められます。
- Organic CAC=自然増の顧客に費やしたコスト÷自然増チャネルからの新規顧客獲得数
例えば、ある企業が自然増の顧客獲得のためにサイトのSEO対策や営業スタッフの人件費などに100万円のコストを費やし、自然増チャネルから新規顧客を20人獲得できたケースを想定すると、Organic CACは以下のとおり求められます。
- 100万円÷20人=5万円
上記のケースの場合、自然増チャネルから新規顧客を1人獲得するために5万円のコストを費やしていることがわかります。
Paid CACの計算方法
Paid CACを算出する際は、以下の計算式を用います。
- Paid CAC=有料の顧客獲得チャネルに費やしたコスト÷有料チャネルからの新規顧客獲得数
具体例を挙げると、ある企業が有料の顧客獲得チャネル(例:Web広告やアフィリエイト、タレントのキャスティングなど)に150万円のコストを費やし、有料チャネルから新規顧客を50人獲得できた場合、Paid CACは以下のとおり算出できます。
- 150万円÷50人=3万円
上記のケースの場合、有料チャネルから新規顧客を1人獲得するために3万円かかっていることがわかります。
Blended CACの計算方法
Blended CACは、以下の計算式で求められます。
- Blended CAC=(全営業コスト+全マーケティングコスト)÷新規顧客の獲得数
例えば、ある企業が全営業コスト(例:人件費、通信費、交通費など)として200万円、全マーケティングコスト(例:広告費、販売促進費など)として300万円を費やし、新規顧客を100人獲得できたケースを想定すると、Blended CACは以下のとおり算出できます。
- (300人+200人)÷100人=5万円
上記のケースの場合、新規顧客を1人獲得するために5万円のコストを費やしていることがわかります。
CACとLTVの関係
CACと併せて把握しておきたい重要な指標に、「LTV」があります。LTVとは「Life Time Value/ライフタイムバリュー」の頭文字を取った言葉です。日本語に直訳すると「顧客生涯価値」のことで、1人あるいは1社の顧客が特定の企業と取引を開始してから終了するまでの期間(顧客ライフサイクル)内にどれほどの利益をもたらすのかを算出したものです。
基本的に、LTVは以下の計算式で求められます。
- LTV=平均購買単価×平均購買頻度(回/年)×平均継続期間(年)
例えば、ある顧客が月額2万円のサービスを3年間にわたって利用した場合、その顧客のLTVは以下のとおり算出できます。
- 2万円×12ヶ月×3年=72万円
このLTVの計算式にCAC(顧客獲得単価)を加味すると、下記の計算式になります。
- LTV=(平均購買単価-顧客獲得単価)×平均購買頻度×平均継続期間
上記の計算式において、CACがLTVを上回ってしまうと、事業としての健全性が低いと判断されます。CACがLTVを上回っている状態は、いうなれば「1顧客あたりの生涯利益が1万円のサービスに対して、1顧客あたりの獲得コストとして1万1円以上を投じている」ことに他ならず、顧客を獲得するたびに必ず損失が発生してしまいます。
また、「LTV÷CAC」の計算式を用いることで、「ユニットエコノミクス」を算出することが可能です。ユニットエコノミクスとは「1顧客あたりの収益性」のことで、とりわけ投資に対して回収期間が長いSaaSビジネスにおいて重要視されている指標です。
「LTV÷CAC」の計算式において、ユニットエコノミクスが1を上回っている(LTVがCACを上回っている)場合、利益が出ている状態であると判断できます。これとは反対に、ユニットエコノミクスが1を下回っている(CACがLTVを上回っている)ならば、たとえ新規顧客を獲得できていても、売れば売るほど赤字の状態に陥っているといえます。なお、一般的には、LTVがCACよりも3倍以上多い場合、ユニットエコノミクスが健全な状態であると考えられています。
ユニットエコノミクスおよびLTVについて詳しく知りたい場合は、以下の記事で解説しています。併せてお読みいただくことで、CACとの関係性についても深く理解できますので、ぜひご確認ください。
CACをSaaSビジネスで活用する手順
SaaSビジネスの成功を目指すうえで、CACを用いた計測は有効策の1つだと考えられています。そこで本章では、SaaSビジネスにおいてCACを用いた計測を行うための基本的な手順をまとめました。
手順 | 説明 |
①CAC計測期間の設定 | 製品・業種などでCACの計測期間は異なるため、企業ごとの検討が望ましい。 |
②営業・マーケティングのコスト算出 | 新規顧客獲得にかかった営業・マーケティングコストを求めて、合計値を算出する。 |
③期間中における新規顧客獲得数の算出 | 期間中に獲得した新規顧客数を算出する。 |
④コストを顧客獲得数で割り出す | 新規獲得顧客数を②のプロセスで算出したコストで割る。 |
⑤LTVの計測、CACとの比較 | 算出したCACがLTVを超えていないか調べる。 |
⑥CAC回収期間の計測 | LTVがCACを上回る場合、CACの回収にどれほどの期間がかかるのか確認する。 |
⑦CAC回収期間の短縮に向けた施策検討 | CACの回収期間を短縮するためにどのような施策が効果的であるか検討する。その後は施策を実行しつつ、計測・最適化を繰り返す。 |
CACはキャズム付近で悪化する
CACは、製品が市場に普及していくにつれて、具体的にいうとキャズム付近から徐々に悪化していく傾向があると考えられています。
キャズム(英語:Chasm)とは、日本語に直訳すると「深い溝」を意味する言葉です。「キャズム理論」にもとづく概念であり、新たな商品・サービスを市場に浸透させるうえで、初期市場とメインストリーム市場の間に存在する大きな隔たりのことです。
キャズム理論では、イノベーターとアーリーアダプターを初期市場、アーリーマジョリティーからラガードまでをメインストリーム市場と捉え、両者の間には市場に製品・サービスを普及させる際に発生する超えるべき障害(キャズム)が存在すると考えられています。
初期市場では、競合が少ないほか、顧客層が流行に敏感で商品・サービス自体を見て判断してくれるため、それほど広告費をかけなくても顧客を獲得できる可能性があります。
これに対して、メインストリーム市場では、競合が増えるうえに、顧客の獲得チャネルが増加することから、多くの顧客に商品・サービスの魅力を伝えるために広告・キャンペーン・イベントといった施策の拡大が求められ、結果的にCACが悪化しやすくなります。
キャズム理論の詳細は、以下の記事でご確認ください。
CACを下げる方法
SaaSビジネスの収益性を向上させるためには、ユニットエコノミクスの改善が大切です。これを実現するうえで効果的な施策はさまざま存在しますが、本章では悪化したCACを下げるために留意しておくべきポイントを紹介します。
チャネルを絞り込む
CACを下げるうえで顧客獲得のために費やすコストを抑えることが大切ですが、これを目指すためには新規顧客獲得のための広告費用を最適化することが有効策の1つです。
具体例を挙げると、現在展開中の広告を見直し、より効果の高い出稿先(チャネル)のみに絞り込む施策が考えられます。
そのほか、広告出稿をストップし、リピーターのレビューや検索などによる自然流入数を増やす施策を検討する選択肢も効果的です。Organic CACを改善できれば、長期的なコスト抑制につなげられます。
MAツール、CRM、SFAを活用する
CACの抑制を目指すうえで留意しておくべき施策として、MA(マーケティングオートメーション)ツール、CRM(顧客管理システム)、SFA(営業支援システム)などの活用も挙げられます。
集客・顧客情報の管理・見込み客の育成や有望見込み客の抽出・マーケティング部門と営業部門の連携などを手作業で進めていると、多くの工数がかかってしまい非効率的です。
そこで、MAツール、CRM、SFAなどを導入すれば、顧客情報を一元管理できるうえに、煩雑な業務を自動化できます。これにより、マーケティング・営業活動を効率化できれば、顧客獲得コストの抑制が期待できます。
CVR(コンバージョンレート)を上げる
CVR(Conversion Rate、コンバージョンレートの略)が上昇するにつれて、Webサイトの訪問者数に対して効率的に顧客を獲得できている状態に近づき、結果としてCACの低下につながります。
CVRの上昇を目指すうえで検討される施策の1つに、よりコンバージョン(訪問者がサイトの目標とするアクションを起こしてくれた状態)に至りやすい見込み客を集めることが挙げられます。
これを行うためには、解析ツール(例:Googleアナリティクス)を用いて訪問者がコンバージョンに至る導線や、これとは反対に訪問者の離脱につながっているページなどを洗い出し最適化することが効果的です。
下げ過ぎも良くない場合がある
SaaSビジネスの成功を目指すうえで、CACを下げる施策は効果的です。とはいえ、CACをとにかく下げ続けることは好ましくありません。
例えば、CACを下げることに注力するあまり、「LTVがCACの10倍」というようにCACの数値が極端に低くなった場合、投資家から「顧客獲得のために適正な投資を行えていない」といった指摘を受けるおそれがあります。
一般的には、「LTVがCACの3倍」という水準を目安にしつつ、CACの投資額を調整することが望ましいと考えられています。
まとめ
CACとは「顧客獲得単価」のことで、顧客を獲得するために必要なコストを示した指標です。
基本的に、CACは以下の計算式で求められます。
- CAC=顧客獲得のために費やしたコスト÷新規顧客の獲得数
また、「LTV÷CAC」の計算式を用いると、ユニットエコノミクスを算出できます。この計算式においてLTVがCACを上回っている場合、利益が出ている状態であると判断されます。
CACが悪化している場合、本記事で取り上げた以下のような方法を実践しつつ、CACの低下を目指しましょう。
- チャネルを絞り込む
- MAツール、CRM、SFAを活用する
- CVRを上昇させる