株式会社Synspective登壇|東大IPC DEEPTECH DIVE Live! #8「クラウドを活用した人工衛星の運用」ハイライトレポート ※動画あり
【目次】
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東大IPCのオンラインキャリアイベント「DEEPTECH DIVE LIVE!」第8回を2021年11月11日(木)に開催しました。このイベントは、キャリアコミュニティサービスDEEPTECH DIVEについて知っていただくために、東大IPCの支援するスタートアップ企業にご登壇いただき、業界の動向、起業エピソード、直近の募集職種などについてカジュアルにお話しいただくというものです。
今回は「クラウドを活用した人工衛星運用」をテーマに、小型SAR衛星の開発・運用・データ提供を行う株式会社Synspectiveの鈴木豊ゼネラルマネージャーと、そのメンバーの畑宏和さんにご登場いただき、宇宙開発で使われているクラウド技術について1時間の対談式の勉強会を設けました。こちらの記事では、特に盛り上がった内容についてハイライトでお伝えします。
▼登壇者プロフィール(順不同)
株式会社Synspective 鈴木豊氏 執行役員 地上システム部ゼネラルマネージャー
鹿児島大学大学院理工学研究科宇宙物理学専攻、修士課程修了。同大大学院にて、光赤外線天文学を専攻する。天の川銀河の大きさの調査において天文台の望遠鏡の観測データを解析する傍らでデータ解析の自動化を図る。2011年、リアルタイム技術に特化した株式会社セックにてソフトウェアエンジニアリングとして従事。主に研究機関向けのインフラ構築運用、バックエンド、フロントエンド開発を担当。2018年11月にクラウドエンジニアとしてSynspectiveに参画。2020年2月より、地上システムのアーキテクチャデザインを担当。衛星運用を行うための地上システムの要求定義から、Googleクラウド向けのアーキテクチャ設計を行い、プログラミング、運用試験、対外交渉をリードしている。
畑 宏和氏 地上システム部 SAR Image Distribution Systemチーム クラウドエンジニア
建設業にて施工管理の仕事をした後に、ソフトウェアエンジニアに転向。その後、Webメディアの事業を行う企業、クラウド会計ソフトを開発する企業にて計6年間ソフトウェアエンジニアとしてWebアプリケーションの開発を行ってきた。趣味はオープンソースのソフトウェアへのコントリビューション。
事業の柱は、「自社小型SAR衛星群」と「データ解析テクノロジー」
ーーまずは鈴木さんから、現在の事業について教えてください。
鈴木:Synspectiveの掲げるミッションは、Synthetic Data for Perspective(「学習する世界」実現による持続可能な未来)です。これを実現するために、簡単にいうと「社会や世界がより良くなるように、とにかくいろんなデータをかき集めて、それを人の目で見て分かるように(役立つように)解析して届ける」というようなサービスを提供しています。
事業の柱は、大まかに「自社小型SAR衛星群」「データ解析テクノロジー」の2つに分かれます。前者では、自社で小型SAR衛星群の開発・打ち上げ・運用のほか、衛星から得られるデータの販売も行っています。また、後者では、自社衛星のデータや他の衛星データを組み合わせて解析し、可視化したうえでソリューションサービスとして提供しています。
従来の大型SAR衛星よりも小型・軽量・低価格で、多数機生産を実現
鈴木:Synspectiveの開発する小型SAR衛星群は、地球観測衛星であり、地球の周囲を回りながら地表面の観測を行っています。SARは、一般的に衛星画像として目にする機会の多い「気象衛星ひまわり」などとは観測方法が異なります。SARの大きな特徴は、自身でマイクロ波を発し、その跳ね返りを観測するため、夜でも観測できる点です。また、使用するマイクロ波は波長の長い電波であるため、雲を透過し雲の下にある地表面も観測できます。特にアジアでは雨季が長いことから、SAR衛星による観測の需要が高まりつつありますね。
Synspectiveの開発する小型SAR衛星群では、従来の大型SAR衛星と比べて、重量を約1/10、コストを1/20にまで軽減しています。
2020年代後半に30機体制の衛星群を構築、観測頻度の向上を目指す
鈴木:Synspectiveでは、2020年の12月15日に「StriX-α」という衛星を打ち上げました。現在も運用を続けており、日夜データを取得しています。2021年度中には2号機衛星である「StriX-β」を打ち上げ、その後は2023年までに6機体制、2020年代後半には30機体制での衛星群を構築し、観測頻度の向上を目指します。ちなみに「StriX」の名前の由来は、ふくろうの学名です。
地盤変動を可視化し、土地の沈降・地すべりのリスクを把握
鈴木:ソリューションサービスとしては、現在「Land Displacement Monitoring」と「Flood Damage Assessment」の2つをリリースしています。前者では、地盤変動を可視化することで、広域にわたる土地の沈降や地すべりのリスクなどを把握可能です。これは、人の立ち入りが難しかったり、移動制約があったりする地域でも有効活用できます。後者は、主に浸水被害を評価するサービスです。例えば、豪雨で災害が発生したエリアであっても、位置情報にもとづいて被害状況を可視化できます。これは、保険業界などでも活用可能なサービスです。
鈴木:なお、我々が所属するGround System(地上システム部)は、合計10名の人員で構成されています。このうち、4名が日本人、6名が外国人なので、普段のコミュニケーションは英語で取ることが多いです。とはいえ、私を含めた日本人メンバーの中には、「Synspectiveに入社して10年ぶりくらいに英語を使った」という方も少なくありません。
人工衛星と通信できるのは、地上局の上を通るときだけ
鈴木:Ground Systemが打ち上げているのは地球周回衛星で、約90分で地球を1周します。ただし、いつでも通信できるわけではなく、地上局と呼ばれる設備の上を通るときのみ通信できます。1度の通信可能時間は、5分〜10分ほどです。
これを踏まえて、まず地上システム部では、衛星の運用計画を立て、コマンドを作り、それを衛星に送ります。そして、衛星側が観測を行い、地上局の上を通った際に、我々はデータをダウンロードします。その後は、画像処理などを行ったうえで、顧客やソリューションシステムに提供するというのが、主な役割です。
自分でゴールを設定してガンガン働きたい方、募集!
鈴木:現在強く募集している職種は、データを提供するシステムのバックエンドエンジニアなのですが、その他にも、フロントエンドエンジニアやインフラエンジニアなどさまざまな職種を募集しています。もしもご興味があれば、どのような職種であっても、まずはご一報いただければ嬉しいです。「言われたことをやる」というよりも、「自分でゴールを設定してガンガン働きたい」という方がいましたら、ぜひお願いします!
チームメンバーの半分以上は、異分野からの参加
ーーここからは、畑さんも交えてトークセッションを行っていきます。畑さんは異業種から宇宙業界に転職されたとのことですが、畑さん以外にも異業種からチームに参加されている方はいらっしゃいますか?
畑:自分のチームだと、それまでも本格的に宇宙業界に携わっていたのが2名、少し触れていたのが2名で、後のメンバー6名は全く異なる分野から入ってきていますね。Web系のベンチャーからの転職者や、銀行でトレーダーをやっていた経歴の方も参加しています。
衛星運用は大変な業務であるからこそ、自動化が大切
ーー衛星運用という、日常生活ではあまりなじみのない分野・業務を手掛けていらっしゃると思います。Synspectiveに入社されてから、衛星運用に関する業務を手掛けてみて、感じることはありますか?
鈴木:大変な業務であるからこそ、自動化の大切さを強く感じますね。去年、衛星を打ち上げた後、1カ月〜2カ月ほどは、24時間365日にわたり人が張り付いて衛星を監視しないといけないという状況でした。畑さんなど、他の地上システム部のメンバーの働きもあって、現在は自動化が進み、夜勤はなくなっており、休日出勤をなくすための自動化を進めている最中です。直に平日の日中だけ監視していればよいという状況になる見込みです。
ーー監視していない間も、人工衛星はずっと回っているのですか?
鈴木:StriX-αは、ロケットから放出された後、少しずつ高度を下げながら地球の周りをずっと回っています。
人工衛星の電力や温度などの情報は常に監視できるものではないので、人工衛星が地上局の上を通ったときに、ハウスキーピングのデータを下ろしてきて、人工衛星が回っている間の情報を監視しています。
なお、地上システム部だけでなく、衛星の開発メンバーも参加しているので、現在は合計20名ほどの人員で衛星運用を行っています。
人工衛星にも宇宙にも、特別に興味があったわけではない
ーー畑さんは、衛星運用に関する業務を手掛けてみて感想はありますか?
畑:私は、人工衛星にも宇宙にも特別に興味があったわけではないのですが、縁あって声をかけていただきまして。最初は、ベンチャーが人工衛星を打ち上げるということ自体、にわかに信じがたかったです(笑)。ですが、徐々に話を聞いていくうちに、どうやら本当らしいなと感じ、面白そうだったので入社しました。
入社してから1機目を打ち上げるまでの1年弱の期間は、人工衛星を打ち上げる仕組みなどを周囲のメンバーから聞いてはいたものの、自分自身ピンと来ていませんでしたね。打ち上げてみて初めて、「あのときやっていた業務は、ここにつながるのか!」と、やっとイメージが湧いてくるという感じでした。
衛星運用自体は大変な業務ですが、自分の専門であるソフトウェアの開発とは異なる専門を持っている方達と一緒に仕事をするのは面白いです。
基本的に、なじみある一般的なアプリケーション開発と変わらない
ーー実際にSynspectiveさんが行っている「開発」とは、どのようなものなのでしょうか?
畑:入社するまでは本当に実感が湧きませんでしたが、開発に携わってみて感じたのは、「結局、作っているのは、なじみがある一般的なWebアプリケーションと変わらないな」という点でした。単純に、「制御対象やドメイン対象が人工衛星」というだけなんだなと。これまでやってきたソフトウェアの開発などと基本的な部分は変わらなくて、入社してからのギャップなども特に感じませんでした。
鈴木:開発としては、2週間単位で業務内容を話し合って決定し、進めています。開発時の感覚は、前職でソフトウェアの開発をしていた頃と大きな違いはないように感じていますね。ただ、数ギガ〜10ギガ単位など、データの処理に必要な容量数が大きい点が特徴的です。
畑:「衛星」という今までの生活になかったものを運営しているので、これまでのソフトウェア開発よりも、運用してみて初めて感じる改善点は目立つような気がします。
Synspectiveに入社するまで、英語を全く使っていなかった
ーー「働き方」という観点から、社内の雰囲気を教えていただけますか?
鈴木:僕も畑さんも、Synspectiveに入社するまで英語を使っていなかったので、現在も英語の勉強をしつつ、カタコトで頑張っています。ただ、「伝えたいという気持ちがあれば、コミュニケーションは取れるんだな」ということは、強く感じていますね。
畑:日本に住んでいて、日本人と働くことを念頭に置いている外国人メンバーの方が多く、こちらの発言内容を察してくれたり、聞こうとしてくれたりするのでありがたいですね。こちらの発言内容がわからないときは、わからないというアクションをしっかり取ってくれる方も多く、とても助かります。
とはいえ、ずっとこのような状況だと申し訳ないこともありますね。Synspectiveには語学サポート制度があって、学習費用を支援してくれるので、先月オンライン英会話を始めたところです。
ーー参加者からご質問を頂きました、エンジニアカルチャーのようなものはありますでしょうか?
鈴木:弊社特有、というわけではないかもしれませんが、強いてあげるならば「各々が自身の役割持ちつつ、周囲を巻き込んで動く」という点でしょうか。
畑:これまでは、人工衛星の打ち上げまでとてもバタバタしていて、日々開発に精一杯だったので、正直な話、これから作っていく段階にありますね。メンバーが増えてきたり、リモートでも業務が行われたりする中で、現時点でエンジニアカルチャーを作れていない点に課題を感じます。現在は、「周囲の人を巻き込めるよう、どのようにしてコミュニケーションを増やしていこうかな」という点に注力しています。
鈴木:現在でもまだまだ人員は少なくて、「それぞれがそれぞれの責任者」という形なので、他のチームメンバーと話をしながら業務を進めていく、というのは非常に大切だと思いますね。
ーー本日はどうもありがとうございました。
東大IPC、次回のセミナーについて
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