2024/12/18

日本発のDACスタートアップとして、低コスト&高効率のCO2回収に挑戦

Planet Savers株式会社 | 代表取締役CEO 池上 京

2023年度の第9回1stRound支援先の一つであるPlanet Savers株式会社は、2023年7月に創業。「気候変動を食い止め、次世代に美しい地球を残す」をミッションとして、ゼオライトを吸着剤に用いた大気中からのCO2直接回収技術(DAC<ダック>: Direct Air Capture)を開発している。2024年4月にシードラウンドの資金調達を行った代表取締役CEOの池上京氏に、事業の概要や優位性、起業に至った経緯、今後の展望などを聞いた。

CO2吸着・脱離の独自技術で、圧倒的な低コスト化を目指す

―まず、Planet Saversの事業について教えてください。

池上: 2050年のCO2排出量ネットゼロ達成に向けて、世界でさまざまな取り組みがなされていますが、CO2排出量を抑えるのとは異なる有望なアプローチとして、排出してしまったCO2を回収して除去するCO2直接回収技術(DAC<ダック>: Direct Air Capture)があります。このDACを行うスタートアップはグローバルで100社以上にもなっていますが、現在の技術では回収量が限られ、コストも大きくなっています。当社では、吸着剤として高い性能を持つゼオライトと、高効率なDAC装置を開発して、コストを抑えようとしています。

具体的には、DACによる1トンあたりのCO2回収コストは現在、グローバルの水準では約1000ドルで、500ドルが見えてきたスタートアップもあると言われています。当社は意欲的な目標ですが、2030年度に100ドルを目指しています。

―御社の技術的優位性はどこにあるのでしょうか。

池上:ゼオライトは多孔質材料で、分子サイズの穴が多数あります。共同創業者の伊與木(いよき)は、東大の研究室で長年このゼオライトの合成技術を研究してきました。この技術は、海外でも限られた研究室しか持ち合わせていません。当社はこの独自技術でゼオライトの吸着・脱離パフォーマンスを向上させ、CO2をより効率的に回収して濃度を高めようとしているのです。

また、ゼオライトでDACをやるメリットは、熱や水を使わずに吸着でき、天然の材料で安価だという点にあります。

まず、一般的な吸着剤はCO2と化学反応させるため、CO2を分離するのに100℃の水蒸気などの熱が必要で、エネルギーコストがかかり、場所も選びます。しかし、ゼオライトは物理的に吸着させるため、CO2分離に熱が不要です。そして、吸着時に空気中から水を吸うので、脱離時に得られる水をたとえば産業用に提供していくモデルも考えられます。価格についても他の吸着剤の10分の1に抑えられる可能性があります。先行他社はこの価格面で苦労しており、当社の大きな優位性と言えます。また、耐久性にも優れており、10年ほどもつので頻繁な交換も不要です。

ディープテックで資金調達を目指すための、実際的なアドバイスに感謝

―池上さんは新卒でJICAに入構されていますが、起業に至った経緯を教えてください。

池上:JICAで中東のインフラ開発や政策支援を行った後、MBA取得のため2019年、ケンブリッジに留学しました。行ってみるとケンブリッジはヨーロッパでも有数のスタートアップエコシステムとなっていて、VCや大学内外の起業家も多く、スタートアップ系イベントも多数行われていました。そんな中で私自身も起業してみたいと思うようになったのです。

そこでビジネス経験を積み、起業資金を準備するため、ソフトバンク・ロボティクスに入社してAIロボットの海外展開に取り組んだ後、2021年に教育系のスタートアップMIRAIingを起業しました。DACのことは2019年に知っていましたが、2021年当時にやりたかったのは教育領域。高校時代のアメリカ留学経験やJICAで担当した教育案件などから、日本の教育の形に対して問題意識があったのです。

―そこから、DACで2度目の起業をされたのはなぜですか。

池上:自分が提供したいような教育に共感は得られても、投資を得てスケールするような大きな事業にすることは難しかったので教育事業は売却し、市場として有望かつ社会的インパクトがあるものを考えて、気候変動の領域にチェンジしました。

ちょうど海外ではDACのスタートアップが数十社ほどできて、政府や民間企業が技術支援する動きがあり、MicrosoftもDACによるカーボンクレジット購入を大型契約したりしていたのです。一方、日本では大学での研究開発プロジェクトはあるものの、実装していくスタートアップがまだありませんでした。

DACの展開に必須である化学とものづくり、そしてプラントエンジニアリングの技術は、いずれも日本が強い領域です。その掛け算になるDACを、黎明期である今のうちに、日本発だからこその新しい産業として創出したいと思い、2度目の起業として選択しました。また、2050年カーボンニュートラル社会の実現には、排出量を抑える方策だけでは足りず、排出してしまったCO2を回収し、除去していくDACの技術は絶対に必要だと考えており、十分な事業性があると確信しています。

―2023年度の1stRoundに応募された理由は何でしたか。

池上:一番の魅力は、ノンエクイティの事業資金が提供されることでした。世の中には助成金などもありますが、1stRoundは研究開発型スタートアップの中で知名度が高く、ぜひ挑戦したいと思いました。その資金の提供のされ方もスタートアップにとって使いやすいものでした。また、東大IPC自体に研究開発型スタートアップ支援の知見やネットワークが蓄積されているので、そこから支援を受けられるのは大きいと思ったのも一つです。実際に、教育系とディープテック系では事業成長のさせ方にも違いがあるので、トップティアのVCネットワークの中で適切な方がメンターとなって支援していただけるのが魅力でした。

また、パートナー企業の中に当社として連携できたらと思うような企業があったのも魅力でした。これは期待どおり、いま三井不動産の施設を使ってDACのシステムの運用を実証させてもらっています。また、既にリリースを行ったようにNEXCOネクスコ東日本ともPoCを予定しており 、これも1stRoundを通じてご縁をいただきました。

―そのほかに、1stRoundで役立ったことはありますか。

池上:メンターからのアドバイスが、資金調達を目指す上で実際的なものが多く、役立ちました。事業内容のこういう点をクリアにしておく、こういう資料を今から作成しておくといったことですね。また、長期事業計画を作る際には3段階くらいのフェーズで考えて作るとよいというアドバイスも腑に落ちましたし、ものづくりでは試作が何回か必要になるものなので、必要な時間軸と資金を想定して企画から開発、販売の計画を立てるべきというのも、ディープテックに知見があるからこそのポイントだったと思います。

その他、細かいことですが、業務ツールやロゴ作成、弁護士への相談などが無料で提供されたのも、創業期のスタートアップにはありがたかったです。

グローバル展開への視座を、1stRoundのメンターから得てほしい

―2024年4月に資金調達をされていますが、どのように使われていますか。

池上:製品化に向けた開発と、人材の確保ですね。現在、メンバーは業務委託を含め、約10名。エンジニアやサイエンティストなどの技術系がほとんどで、バックオフィス担当が1名います。採用は、Deep Tech Diveやアマテラス、ビズリーチなどで行いました。皆、ミッションに共感し、技術的にチャレンジングで面白そうだといってジョインしてくれています。今後は技術系のメンバーに加え、事業開発をリードしてくれる幹部候補人材を採用したいと考えています。

―事業の現在の進捗と、今後の展望を教えてください。

池上:2026年にはゼオライトを用いるDAC装置を製品化させ、商用のデモができることを目指しています。その後も改良を重ねながら営業活動を進め、事業開発を加速させていきたいですね。

当初は日本で社会実装を進めて、2020年代後半は海外展開を考えたいです。DACは回収したCO2を地下に貯留してカーボンクレジットを創るのがメインのマーケットですが、日本で地下貯留が進むのはこれからですので、それが進んでいるオーストラリアやカナダなどで市場開拓していければと思います。そうして2050年にはDACのシェア30%くらいを見据えています。

―最後に、起業を考える方へアドバイスをお願いします。

池上:ディープテックの醍醐味は、本当にこれまでになかったような技術を実装していくことや、科学の力で社会課題を解決していくところにあるので、プロブレムドリブンでソリューションを示し、大きくビジョンを描くことが大事です。目の前のトラクションに一喜一憂するよりも、大きな課題解決を見据えて、小さくまとまらないでほしいですね。

また、ディープテックであれば日本市場にとどまらず、グローバルにどうやって実装していくかを最初から考えてやっていけるとよいと思います。私自身、文系の出身ですが、ディープテックに取り組もうと決めたのは、いかに社会にインパクトを与えていけるかを、人生やキャリアにおいて大事にしているからでした。日本にいると目線が低くなりがちですが、1stRoundではメンターもグローバル目線でアドバイスをくれます。そうした点もぜひ役立ててほしいですね。

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