2024/9/26

床面・路面に置くワイヤレス給電パネルで、社会の電動化を加速させる

株式会社2DC | 代表取締役 増田祐一

2023年度の第8回1stRound支援先の一つである株式会社2DC(ツー・ディー・シー)は、2022年11月設立。二次元通信(Two-Dimensional Communication)からの独自のアプローチで開発したワイヤレス給電システムは、床面や路面に置けるパネル状の装置によるもの。これにより、充電を気にせずロボットや電動モビリティが活躍できる社会を目指している。代表取締役の増田祐一氏に、事業の概要や起業の経緯、1stRoundで役立ったこと、今後の展望などを聞いた。

カーペットと置き換えるだけで、サービスロボットの標準ワイヤレス給電が実現

―まず、2DCの事業について教えてください。

増田:ワイヤレス給電には、磁界を使った電磁誘導方式などがあり、スマートフォンや生活家電で身近になってきています。ロボットやEVにも一層の活用が目指されていますが、当社では床面や路面にパネル状に給電シートを設置することで、ロボットやEVを稼動させながら充電可能な技術を開発しています。

現在は、清掃や警備、運搬などのサービスロボットを開発・製造するベンチャーと実証実験を行っているところです。実際にカーペット状のものを作って、ロボットに必要な30W程度の充電について実証が進んでいます。現場の人手不足がより深刻化してサービスロボットが不可欠となる2030年頃までに、製品の普及を目指しています。

―技術面では、既存のワイヤレス給電とどのように異なりますか。

増田:これは当社独自の技術によるもので「導波路方式」と呼んでいます。導波路とは、電磁波を物理的な境界によって     閉じ込めつつ、決められた方向に向かわせるようにするために設計されたもので、薄いシート状のものです。これを仕込んだパネルに、Suicaのように自前の端末を近づけると充電が可能になります。パネルの上では、近づきさえすればどこでも充電できるので、従来のワイヤレス給電のように設置位置を決める必要がないのが特長です。

私はもともと二次元通信を研究しており、その技術をワイヤレス給電に使うという発想で開発を進めてきましたので、一般的なワイヤレス給電におけるアプローチとは根底から異なるのです。それが当社技術の独自性につながっています。

―ユーザー視点ではどのような優位性やメリットがあるのでしょうか。

増田:薄くて広いパネルを敷くだけで、床からの給電ができるということです。厚みは5~10mmなので、今あるカーペットを外して当社のパネルに入れ替えると、ロボットなどがその上で給電できるようになります。施設のデザインや意匠性を損なわず、手のかかる設備工事や大きなコストも不要。パネルに置き換えるだけで、近年人手不足解消のために導入されている各種サービスロボットなどの、共通の充電器として使えるようになるのです。スペース全面を入れ替えなくても、部分的な入れ替えでOK。単体でもよいし、プラレールのようにパネル同士をある1点で連結させて広げることもできます。

―ワイヤレス給電の対象として、デスク面のパソコンやIT機器、物流倉庫のロボットなども考えられそうですが、サービスロボットを対象としたのは、なぜですか。

増田:それぞれ事業アイデアとして検討した時期はありましたが、まずデスク周辺では既存のケーブルやスマホの無線充電でも充電可能であり、事業リスクが高いと判断しました。また、物流系ロボットでは、仕事をするロボットの方が人より優位で、ロボットに合わせていくらでも環境を作り変えられるため、充電を自動化するという観点では、既存の有線タップ式給電で問題がないのです。

逆にサービスロボットが活躍する、オフィスビルや商業ビル、空港などの公共スペースでは人が優先なので、充電器も邪魔にならなかったり、不測の衝撃に耐えられることなどが重要です。

また、床からの給電であれば、受電する端末はロボットの外から見えない床面部分に取り付けるので、意匠性を損なわずに済むメリットもあります。さらに、当社では複数種類のサービスロボットの受電・給電の仕組みを標準化・共通化することを目指しています。現在は各社で自動充電器を提供しているので、何かサービスロボットを導入するたびに別の種類の充電器が増えてしまいます。これを統合できれば、各種サービスロボットを導入しやすくなり、普及を加速できます。これが当社の当面の目標です。

1stRoundで企業のニーズに直接触れ、自社の技術のバリューに気づけた

―会社の設立は2022年11月ですが、起業に至った経緯を教えてください。

増田:先ほどお話ししたように、私はもともと東大の篠田・牧野の研究室で二次元通信の研究をしていました。二次元通信というのは、薄いシート状媒体や物体の表面に沿って二次元伝播する電磁波を用いて信号を伝送する技術であり、これをワイヤレス給電に特化させるのが、博士時代の研究でした。そうして博士号取得後は3年間ほど、同じ研究室の特任研究員として企業の新規事業開発部門と共同研究を行いました。企業側がリソースを用意してくれていたので研究に集中はできたのですが、事業化についてはタッチできず、自分でもっと現場で使われるような技術に磨き上げたいと思ったのです。そんなときに、コロナ禍で企業との研究予算が打ち切られたのを逆にチャンスと捉え、FoundXに応募し、採択されることができました。

そもそも父が町工場を営んでいたため、自分で会社を興すことに憧れがありました。それがFoundXでさまざまな起業家を間近で見て、現実的に考えられるようになり、会社を設立しました。

―その後、2023年度の第8回1stRoundに採択されていますが、応募した目的は何でしたか。

増田:事業面ではまだまだ解像度が足りていないと思っていて、コーポレートパートナーとのコネクションや協力、連携などを期待して応募しました。実際、当初は電動キックボード向けのワイヤレス給電を考えていたのですが、マイクロモビリティ事業者にヒアリングしたところ、彼らのニーズを満たすのは難しいと分かりました。その他にもさまざまな事業会社の声が聞けて、漠然と考えていた使用シーンやニーズに対しての事業可能性がどんどん具体化できたのです。

そうして研究室にこもっていたら分からないような、自分たちの技術のバリューが明確になり、誤解していた部分や真に求められていることに気づけました。ヒアリングした内容の分析もメンターが一緒に行ってくれ、事業化を助けてもらえました。

―そのほかに1stRoundで役立ったことを教えてください。

増田:ノンエクイティの事業資金提供は本当にありがたかったです。独自技術で事業化を考えていくため、収益を得られるようになるまで時間がかかりますから。この資金の使い道としてはまず、友人の技術者にスポット的に作業を依頼していたのを、業務委託の形に整えました。

また、1stRoundに採択されたOB企業と交流できたのも良かったです。ちゃんと現場のニーズと向き合って事業化されている先輩起業家と話ができるのは、失敗を避けるために大変役立ちました。そして今、実証実験を一緒に行っているOcta Roboticsも1stRoundのOBです。仕事にまでつながるご縁をいただけて感謝しています。

路面太陽光パネルとの乗り合いで、EV向けワイヤレス給電の普及を目指す

―資金調達の予定はありますか。

増田:実証実験も順調に進み、技術的に問題がないと明らかになってきているので、そろそろこの事業に賛同いただける方々を探すフェーズだと考えています。今年度中には資金調達を実施したいと思い、動き始めているところです。1stRound期間中に10社ほどのVCに事業計画などを見てもらっていますので、面識のあるところから相談ができるとよいですね。また、期間中は東大IPCから資金調達をもっと積極的に促されるものと思っていましたが、そんなことはなく、フラットな目線で事業化についてアドバイスしてもらえました。その段階で資金調達を意識しすぎる必要がなかったのはありがたかったです。

―今後の事業展開はどのように考えていますか。

増田:最終目標は、EVのワイヤレス給電システムの構築です。路面に給電パネルを敷設するのですが、当社の仕組みでは受電装置はEVの路面から10cm程度のところに設置できればよいので、EVへの組み込みは容易です。そして現在、路面太陽光パネルの技術が実用化間近であり、標準化も近いと言われています。この太陽光パネルも、当社の給電パネルとほぼ同じ厚さ5~10mmなので、標準化するタイミングに合わせて開発を進め、同時に普及させていくことを目指します。

ですから、事業全体のロードマップでいえば、2030年までにサービスロボットのワイヤレス給電システムを関係各社と協力して構築。EVのワイヤレス給電システムについては、技術的な開発を進めながら、2030年頃には世の中のEV・自動運転が普及すると考え、具体的なシステム構築を本格化させたいです。

―最後に、起業を考える方へアドバイスをお願いします。

 

増田:特に、若手の研究者で起業を選択肢に考えている方にお伝えしたいのが、まずはこうした1stRoundなどのプログラム採択を目指すとよいということです。自分が取り組んでいる研究のバリューは、多くの顧客候補に実際に当ててみないと分からないもの。1stRoundではその機会が与えられ、事業のメンタリングもしてもらえ、さらにノンエクイティの資金まで提供されるのです。研究室にこもっていた人が起業を目指す上で、必要なものが全て揃っているといえます。

また、応募するだけでも、申請書を一緒に作る名目で仲間を集めたり、事前にいろいろヒアリングを行ってみたりと、いろいろなチャンスのきっかけになります。その意味では採択が全てではなく、応募自体が、研究室を飛び出して1つ目線を上げられる良い機会になるので、ぜひ新しい世界に挑戦するつもりでやってみてください。

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