法人登記とは?流れ、必要な書類、費用をわかりやすく解説
【目次】
法人登記とは?
法人登記とは、法人(例:株式会社、持分会社、一般社団法人、一般財団法人、NPO法人、社会福祉法人など)について、その名称(社名、商号)・所在地・代表者の氏名・事業の目的などを法務省の部局である法務局に登録し、一般に開示できるようにすることです。
法人は、設立の登記を行うことで、初めて法人格(法律上の人格のことで、権利・義務の主体となることのできる資格・権利能力)が得られます。また、法人登記を行うことで、対外的な信用度の向上を図れるほか、取引を安全かつスムーズに進めることにもつながります。法人登記の手続きが済むと、正式に登記を行った証拠となる「登記事項証明書」が法務局より発行されます。
なお、実体に即した正確な登記が実施されるために、法人登記では裏付けとなる書類を添付する必要があるほか、虚偽の登記申請を行ったり登記申請を怠ったりした場合に対する罰則(虚偽の登記を行った場合は5年以下の懲役または50万円以下の罰金、登記を怠った場合は100万円以下の過料に処される可能性がある)が定められています。
参考:刑法 | e-Gov法令検索「157条1項」
会社法 | e-Gov法令検索「976条」
法人登記までにすべきこと
会社を設立するためには、法人登記だけでなくさまざまな手続きが求められます。本章では、会社設立の手続きの中で、法人登記までに済ませておくべきことについて解説します。
なお、本記事で紹介するのは、現金出資による発起設立(株式のすべてを発起人が現金で引き受ける)において株式会社を設立する場合の基本的な手続きであり、このケース以外に求められる手続きの内容と一部異なる点にご注意ください。
現金出資による発起設立において株式会社を設立する際は、法人登記までに以下5つの手続きを行うのが一般的です。
- 発起人を決める
- 会社の概要を決める
- 会社印を作成する
- 定款を作成し認証を受ける
- 資本金(出資金)を払い込む
それぞれの手続きを1つずつ順番に解説します。
①発起人を決める
まずは、発起人を決定します。発起人は、会社設立にあたって資本金の出資・定款の作成など会社設立の手続きを行う人のことで、会社設立の後は出資した資本金の金額に応じて株式が発行されることで、その会社の株主となります。
発起人について詳しく知りたい場合は、以下の記事で解説しています。
②会社の概要を決める
続いて、会社の概要を決めます。ここで決定する事項は、社名(商号)、事業目的、所在地、資本金の額、設立日、株主の構成、役員の構成、会計年度などです。
この中でも、社名を決める際は、すでに類似する社名が存在していないかチェックしておきましょう。類似する商号は、法務省のWebサービスでの検索や、本店所在地を管轄する法務局に設置されている専用端末の利用などで調べることが可能です。
参考:法務省「オンライン登記情報検索サービスを利用した商号調査について」
③会社印を作成する
法人登記に際して、会社印の届出も求められます。株式会社の設立に求められるのは法人実印(代表印)のみですが、会社の運営上よく使われる銀行印や角印、ゴム印なども併せて作成しておくことをおすすめします。
会社印の詳細は、以下の記事をご確認ください。
④定款を作成し認証を受ける
続いて、会社の憲法とも呼べる定款を作成します。定款には、ステップ2で決めた会社概要の内容を記載しますが、その中でも必ず記載しなければならないと法律で定められている「絶対的記載事項」として以下の5項目があります。
- 発起人の氏名および住所
- 社名
- 事業目的
- 所在地
- 設立に際して出資される財産の価額またはその最低額
定款を作成したら、公証人から定款の記載内容に法令上の問題がないかチェックを受け、定款に間違いがないことを証明してもらいます。これが、定款の認証と呼ばれる手続きです。
定款について理解を深めたい場合は、以下の記事で解説しています。
⑤資本金(出資金)を払い込む
定款の認証が済んだら、発起人は引き受けた株数に相当する金額を資本金(出資金)として銀行口座に振り込みます。この段階では法人登記が済んでおらず、会社の銀行口座を作れないため、資本金の振込先は発起人の個人口座です。
次に行う法人登記の手続きでは、資本金の振り込みを証明する書類が必要です。そのため、資本金を振り込んだら、通帳の表紙・表紙をめくった裏表紙(口座の名義・番号が記載されたページ)・資本金の入金が記帳されたページそれぞれのコピーを取ったうえで、資本金が振り込まれたことを証明する「払込証明書」を作成し、法人実印を押印しておきます。
資本金の詳細は、以下の記事でご確認ください。
また、会社設立の流れについてさらに詳しく知りたい場合は、以下の記事で解説しています。併せてお読みいただくことで、会社の設立準備から法人登記までの流れをスムーズに進められるようになりますので、ぜひご確認ください。
法人登記の流れ
会社設立における法人登記は代表者が行うケースが多いですが、複雑な手続きが求められることから、不安があれば司法書士・税理士などの専門家に依頼することも検討しましょう。
代表者自身で法人登記を行う場合、以下の流れで進めるのが一般的です。
- 登記申請書・必要書類の準備
- 法務局に登記申請
それぞれの流れを順番に解説します。
①登記申請書・必要書類の準備
法人登記を行う際は、設立登記申請書に加えて、一般的に以下の書類が必要とされるため準備します。
- 定款(謄本)
- 登録免許税納付用台紙
- 発起人決定書(発起人議事録)
- 代表取締役の就任承諾書(取締役が1名のみで、その取締役が代表取締役と兼務する場合は不要)
- 取締役の就任承諾書※
- 監査役の就任承諾書(設置しない場合は不要)
- 取締役の印鑑証明書※
- 印鑑届書
- 出資金の払込証明書
- 登記すべき事項を記録・保存した別紙、記録媒体
※1人で起業(会社設立)する場合は、発起人兼取締役である自身の書類が必要。
なお、設立登記申請書には決められた様式・フォーマットがあり、様式が異なっていたり、記載事項に不備があったりすれば、訂正が求められるため注意しましょう。必要種類の詳細は、次章「法人登記に必要な書類」にて解説します。
②法務局に登記申請
法人登記は、設立する法人の所在地を管轄する法務局で申請します。原則として、資本金の払込後、2週間以内の申請が必要です。書類に不備がなければ、法人登記の申請から1週間~10日間程度で手続きが完了します。
法人登記に必要な書類
本章では、法人登記を行う際に求められる書類の中から代表的なものをピックアップし、順番に詳しく解説します。
名称 | 概要 |
設立登記申請書 | 社名・所在地・登録免許税の金額・添付書類の一覧などを記載する書類。 法務局のWebサイトから申請書様式をダウンロード可能。 |
定款(謄本) | 作成、認証済みの定款の謄本を1部準備する。 |
登録免許税納付用台紙 | 登録免許税を納付する際に用いるA4サイズの台紙。 登録免許税は収入印紙で納付するため、金額に応じた収入印紙をこの台紙に貼り付けて提出する。 |
発起人決定書 | 発起人全員の合意によって社名・事業目的・本店所在地などを決定したことを証明する書類。 別名、「発起人決定書」「発起人議事録」などとも呼ばれる。 |
代表取締役の就任承諾書 | 代表取締役に就任することを承諾する旨を記載した書類。 取締役が1人のみで、代表取締役を兼務している場合は不要。 |
取締役の就任承諾書 | 取締役への就任を承諾したことを証明する書類。 設立時に複数人の取締役がいる場合、人数分の書類作成が求められる。 |
監査役の就任承諾書 | 監査役に就任することを承諾した旨を証明する書類。 監査役を設置しない場合、提出は不要。 |
取締役の印鑑証明書 | 有効期限は3カ月間であるため、提出前の確認が望ましい。 取締役が複数人いる場合、全員分の印鑑証明書が必要(取締役会を設置している場合、代表取締役の分のみ必要)。 |
印鑑届書 | 法人実印の届出に必要な書類。 法人登記の際に必須ではないものの、後日改めて登録する手間を省くために、基本的には登記申請と併せて提出する。 |
出資金の払込証明書 | 定款に記載されている資本金の額が所定の銀行口座に振り込まれていることを証明する書類。 資本金の払込みを証明するため、併せて通帳のコピーも必要。 |
登記すべき事項を記録・保存した別紙、記録媒体 | 定款に記載されていない内容を補足する書類。 登記すべき事項は、設立する法人の種類によって異なる。 書面で提出するケースが多いものの、CD-R・DVD-Rなどの記録媒体での提出も認められる。 |
法人登記の必要書類は設立する法人の種類や定款の記載内容により異なるため、詳しくは法務局の登記相談窓口や司法書士、税理士などの専門家にご相談ください。
法人登記の申請方法
法人登記を申請する際は、法務局窓口で直接・郵送・オンラインという3種類の方法があります。本章では、法人登記の申請方法の種類別に特徴を解説します。
直接(法務局に)
管轄する法務局の窓口に出向いて、法人登記の必要書類を直接提出する方法です。提出書類に不足がないか窓口でチェックしてもらえることから、登記申請に不安がある場合におすすめできます。
提出書類の内容に問題がなければ、申請から1週間~10日間程度で法人登記の手続きが完了します。もし提出書類に不備があった場合は法務局から連絡が入り、指摘された箇所を補正(訂正)し、期限内に再提出しなければなりません。
郵送
管轄する法務局宛に必要書類を郵送し、法人登記の申請を行う方法です。郵送方法に決まりはないものの、配達状況を追跡できる「簡易書留」や引受を記録する「特定記録郵便」などで送ると、法務局に届いたことを確認できます。法務局に行く時間がない方や遠方の方などは便利な方法といえます。
法人登記完了までの期間の目安は、窓口で直接申請するケースと同じく1週間~10日間程度です。もしも提出書類に不備があれば、法務局に直接出向いて再提出するか、郵送で補正(訂正)します。
オンライン
オンラインの場合、法務局の登記・供託オンライン申請システム「登記ねっと 供託ねっと 」を利用します。自身の好きな時間に自宅から申請できる点は利便性が高いものの、事前に専用ソフトをダウンロードしなければならない点に注意しましょう。加えて、電子証明書の読み取りが必須となるため、こうした作業に慣れていない方からするとハードルが高いと感じやすい方法だといえます。
提出書類に不備があった場合、「登記ねっと 供託ねっと」に通知が届くため、オンライン上で補正(訂正)し提出します。もしくは、補正書様式の書面を法務局に直接再提出するか、郵送でも補正(訂正)が可能です。
参考:法務局「登記・供託オンライン申請システム登記ねっと 供託ねっと 」
法人登記の費用
法人登記を行う際は、登録免許税の支払いが求められます。登録免許税の金額は、設立する法人の種類によって以下のとおり異なります(主な法人を列挙)。
- 株式会社:資本金額×0.7%もしくは15万円のいずれか高い金額
- 合同会社:資本金額×0.7%もしくは6万円のいずれか高い金額
- 合名会社・合資会社・一般社団法人・一般財団法人:申請件数一件につき6万円
大まかな目安として、株式会社の場合は約2,140万円未満、合同会社は857万円未満の資本金に設定すると、最低金額の登録免許税で済ませられます。
ちなみに、法人登記以外にも、会社設立には以下のような費用がかかります。
- 定款認証の手数料:5万円(そのほか、謄本代で2,000円程度が必要)
- 定款の収入印紙代:4万円(電子定款を採用する場合は不要)
- 会社印の作成費用:セットで約5,000円程度〜約20万円程度(素材により異なる)
法人登記の完了後に行うこと
法人登記の完了後は、以下の書類の取得手続きを行っておくことをおすすめします。
- 登記事項証明書(登記簿謄本)
- 法人の印鑑証明書
登記事項証明書(登記簿謄本)は、銀行で法人口座を開設する際や税務署に各種届出を行う際などに求められる書類です。登記事項証明書を取得する手続きは、法人登記を行う際と同様に、法務局窓口で直接・郵送・オンラインという3つの方法で行えます。
続いて、法人の印鑑証明書は、担保の設定や諸契約を行う際に求められることのある書類です。法人登記の際に取得した印鑑証明書は発起人個人のものであり、法人の印鑑証明書を取得するためには新たに手続きを行う必要があります。
上記のほか、基本的に法人は法律によって社会保険への加入が義務付けられているため、社会保険事務所への届け出も怠らずに行いましょう。
法人登記後、登記事項に変更があった時は?
法人登記の後で登記事項に変更が生じた場合、変更登記の手続きを行わなければなりません。変更登記を行う必要性があるケースは、主に以下のとおりです。
- 社名の変更や所在地の移転があった場合
- 代表取締役の住所を変更した場合
- 事業目的の変更や新規事業の開始があった場合
- 取締役・監査役を変更した場合
- 法人を解散する場合
変更登記は、法人登記と同様に、法務局窓口で直接・郵送・オンラインの3つの方法で申請できます。変更登記の期限は、変更から2週間以内です。期限を過ぎても受理はされるものの、期限内に変更登記を行わなかった場合は会社の代表者に対して100万円以下の罰金(過料)が科せられる可能性があるため注意しましょう。
なお、株式会社の場合、最後に法人登記を行ってから12年間にわたり変更登記がないと、官報に届出を促す公告が出された後に、会社が解散したとみなされます。
なぜなら、現行の役員の任期が最長10年間であり、12年以内に変更登記が行われると想定されているためです。この点も踏まえて、変更登記は大切な手続きであるため、手続きを怠らないようにしましょう。
まとめ
法人登記とは、法人について、その名称・所在地・代表者の氏名・事業の目的などを法務省の部局である法務局に登録し、一般に開示できるようにすることです。
法人登記を行う際は、あらかじめ以下の手続きを済ませておく必要があります(現金出資による発起設立において株式会社を設立する場合)。
- 発起人を決める
- 会社の概要を決める
- 会社印を作成する
- 定款を作成し認証を受ける
- 資本金(出資金)を払い込む
また、法人登記の手続きは、以下の流れで進めるのが一般的です。
- 登記申請書・必要書類の準備
- 法務局に登記申請
法人登記の手続きは複雑であるうえに、多くの書類を準備しなければなりません。手続きに不安があれば、司法書士・税理士などの専門家に依頼することも検討しましょう。