ARRとは?MRRとの関係、計算方法、SaaSビジネスで重要な理由を解説

ARRとは?

ARRとは?

ARRとは「Annual Recurring Revenue(アニュアル・リカーリング・レベニュー)」の頭文字を取った言葉であり、日本語に訳すと「年間経常収益」を意味するビジネス用語です。より詳しく説明すると、毎年、決まって得られる収益・売上をさします。

ARRの数値を年単位で分析すれば、企業全体の成長率・顧客の定着率などが把握できます。ただし、ARRには初期費用・追加の購入費用・コンサルティング費用などは含まれないことから、月額費用が大きく変動するビジネスや年間契約を締結しないビジネスなどに用いる指標としては適していないと考えられています。

その一方で、特に年間契約を締結することの多いBtoBビジネスでは、ARRの数値が重要視される傾向が強いです。

ARRとMRRの関係、計算方法

本章では、ARRと名称が類似する指標「MRR」との関係性および、それぞれの指標の計算方法について順番に取り上げます。

MRRとの関係

主にBtoBビジネスでARRと同様に重要視されている指標に、MRRが挙げられます。

MRRとは「Monthly Recurring Revenue(マンスリー・リカーリング・レベニュー)」の略称であり、日本語に訳すと「月次経常収益」を意味する言葉です。より詳しく説明すると、毎月、繰り返し得られる収益・売上を合算した経営上の指標のことです。

ARRは年契約の締結が多いビジネスで重要視される傾向があるのに対して、MRRは月単位の契約を結んでいるビジネスで重要視される傾向が強いです。

とはいえ、いずれの指標もビジネスの成長性・効率性・継続性をチェックするために有効であるため、分析対象の性質に合わせて選択し活用することが望ましいです。

MRRの計算方法

ARRは、MRRの数値を用いることで算出できます。そのため、まずはMRRの種類と計算方法を解説します。MRRを計算する際は、あらかじめMRRの種類を把握しておくことが大切です。MRRは、大まかに以下の4種類に分けられます。

  • New MRR(当該月の新規ユーザーによってもたらされるMRR)
  • Expansion MRR(下位プランから上位プランにアップグレードしたことで前月よりも課金額が増加した既存ユーザーから計上されるMRR)
  • Downgrade MRR(上位プランから下位プランにダウングレードしたことで前月よりも課金額が減った既存ユーザーから得るMRR)
  • Churn MRR(当該月にサービスを解約したユーザーによりもたらされたMRR)

上記それぞれのMRRの数値を求めることで、当該月のMRRを算出できます。用いる計算式は以下のとおりです。

  • 当該月のMRR=前月MRR+(New MRR+Expansion MRR-Downgrade MRR-Churn MRR)

このように、MRRは当該月に増減したユーザー数のデータを利用することから、収益以外の観点から改善点を見つけるきっかけにもなります。

MRRについて詳しく知りたい場合、以下の記事で解説しています。MRRとの関係性を含めてARRに対する理解をさらに深められますので、ぜひご確認ください。

MRRとは?計算方法、SaaSビジネスで重要な理由、改善方法を解説

ARRの計算方法

ARRは、上記で解説したMRRの数値を12倍(12ヶ月分)することで算出できます。ARRの計算式は、以下のとおりです。

  • ARR=MRR×12

計算方法は非常に単純で、MRRが大きくなるにつれてARRも増加していく仕組みです。起業直後のスタートアップ・ベンチャーなどではMRRの変動幅が大きくなりやすいため、ARRの算出タイミングを見極めることが大切です。

ARRがSaaSビジネスで重要な理由

ARRがSaaSビジネスで重要な理由

ここまで概要を解説しましたが、本章ではARRがSaaS(ベンダーが提供するクラウドサーバーにあるソフトウェアを、インターネットを経由してユーザーが利用できるようにするサービス)関連のビジネスで重要な指標とされている主な理由を解説します。

バリュエーション(時価総額)算定に活用される

SaaSビジネスを手掛ける企業が投資家から資金調達する際、バリュエーションの算定が求められますが、このときにARRが活用されるケースが多いです。そのため、資金調達を必要とするSaaSビジネスにとって、ARRは重要な指標だといえます。

ARRがSaaSビジネスのバリュエーション算定に活用される主な理由は、以下の2つです。

  • 事業の成長性をチェックできる
  • 事業の将来性を予測できる

月額の売上を積み重ねていくSaaSビジネスにおいて、毎月どれほどの売上が見込めるのか把握しておくことは非常に重要です。これまでの推移を把握することで成長性をチェックできることから、ARRはSaaSビジネスに資金提供を行う投資家にとって重要な判断材料とされています。

また、ARRを用いれば、今後1年間の売上見込みも算出できます。つまり、将来の収益予測を数値化できることから、バリュエーション算定に大いに活用されているのです。

SaaSの詳細は、以下の記事をご確認ください。

SaaSとは?メリット、代表例、PaaSやIaaSとの違いを解説

ARRを伸ばす方法

ここまでARRが重要視されている理由を紹介しましたが、事業成功を目指すうえでARRの数値を伸ばすことは有効策です。本章では、ARRの数値を伸ばすうえで効果が見込まれる方法の中から代表的な3つをピックアップし、順番に解説します。

新規顧客を獲得

特にスタートアップやベンチャーなど成長段階にあるSaaSビジネスにおいて、新規顧客獲得への注力は、ARRを伸ばすうえで大いに効果的であると考えられています。

新規顧客の獲得に向けた具体策はさまざま挙げられますが、ここでは一例として「フリーミアムモデルの活用」を取り上げます。

フリーミアムモデルとは、「フリー(無料)」と「プレミアム(割増料金)」の造語で、基本機能を備えた商品・サービスをユーザーに無料で提供し、より高度な有料サービスや商品購入につなげるビジネスモデルのことです。顧客が手軽に実際のサービスを試せる点に魅力があり、新規顧客の獲得につなげられます。

自社の展開するSaaSビジネスにおいてフリーミアムモデルを準備し、顧客に対して即座にサービスを利用できる環境を提供することで、マーケティングにおける競争優位性を得られる可能性があります。

既存顧客のアップグレード

既存顧客に対して契約内容をアップグレードしてもらうアップセルを促進することでも、ARRの伸長が見込まれます。これは、顧客の平均購入単価を増加させられるうえに解約率の減少も期待できるためです。

長期間にわたり顧客に自社のサービスを利用してもらい、投資額に見合った費用を回収するためにも、アップセルの誘導は重要な施策だといえます。

既存顧客の解約を防ぐ

ARRを伸ばすためには、質の高いサービスを提供して顧客数を維持しつつ、解約率を低下させることも効果的です。

解約率の低いサービスは、総顧客数が増加するにつれてARRが伸長していきます。反対に解約率の高いサービスは、たとえ新規顧客を獲得できていてもARRが縮小、もしくは伸びが小幅になってしまうおそれがあります。

顧客にサービスを継続的に利用してもらうためには、「サービスが提供する価値」と「顧客が求める価値」が合致していることが大切です。また、解約率を減少させるには、解約率をKPI(業績管理評価のための重要な指標)に設定してモニタリングし、分析したデータをもとにサービスの改善を続けていくことが効果的です。

ARRの注意点

ARRの注意点

前述のとおり、ARRは年間経常収益であり、あくまでも「毎年決まって得られる収益・売上」を示す指標に過ぎません。つまり、ARRは初期費用や追加購入費用などの一時的な収益を含まないため、損益計算書上の売上高とは一致しない点に注意しましょう。

また、ARRの数値は、基準とする月によって大きく変動するため、定期的な見直しが求められます。季節や繁忙期など月によって収益・売上に変動がある場合、半期や四半期ごとのMRRをもとにARRを算出することで、企業の成長率をチェックしましょう。

SaaS上場企業のARR

最後に、SaaSビジネスを手掛ける代表的な上場企業10社の情報をまとめました(ARRの数値は一部推計)。

企業名 対象 ARR(億円) ARR成長率(%,前年比)
1 Sansan 全社 188.3 23.0
2 ラクス クラウド事業売上 158.3 35.9
3 サイボウズ クラウド関連事業 157.4 24.3
4 freee 全社 128.0 38.9
5 マネーフォワード Bussiness(個人事業主+法人) 107.7 42.5
6 ユーザベース SaaS事業 98.2 29.0
7 インフォマート 全社 96.5 13.3
8 エス・エム・エス 介護事業者分野(カイポケ) 73.5 23.0
9 プラスアルファ・コンサルティング 全社 64.1 31.6
10 プレイド 連結 63.8 33.6

※ARRが未開示の企業の場合、基本的に「四半期単体売上高×4」で算出。
※ストック売上高を優先し掲載しているものの、必ずしも同一基準ではない。
※マネーフォワードのSaaSビジネス全体のARRは129億円。
※ユーザベースのグループARRは123.74億円。

参考:各社の決算説明資料(2022年4月時点で発表されているもの)
▼Sansan
https://ir.corp-sansan.com/ja/ir/news/auto_20220408519477/pdfFile.pdf
▼ラクス
https://ssl4.eir-parts.net/doc/3923/tdnet/2123888/00.pdf
▼サイボウズ
https://cybozu.co.jp/company/ir/ir-news/2022/pdf/0426-monthly.pdf
▼freee
https://contents.xj-storage.jp/xcontents/AS08692/c786a760/51e8/4c39/b6d5/d10b33e6c071/20220214120719320s.pdf
▼マネーフォワード
https://ssl4.eir-parts.net/doc/3994/ir_material_for_fiscal_ym/116169/00.pdf
▼ユーザベース
https://contents.xj-storage.jp/xcontents/AS08487/d52e24dd/7657/4958/aa72/258a434193fa/20220506182620884s.pdf
▼インフォマート
https://www.infomart.co.jp/ir/library/pdf/iro20220214.pdf
▼エス・エム・エス
https://www.bm-sms.co.jp/wp-content/uploads/2022/01/FY21_Q3_presentation.pdf
▼プラスアルファ・コンサルティング
https://contents.xj-storage.jp/xcontents/AS08734/bba9893f/7bee/406f/948b/19ee1a572b2d/140120220209585643.pdf
▼プレイド
https://pdf.irpocket.com/C4165/Ts7h/BkaQ/MrVF.pdf

まとめ

ARRとは、年間経常収益を意味するビジネス用語で、毎年、決まって得られる収益・売上をさします。

ARRと名称が類似する指標「MRR」は月単位の契約を結んでいるビジネスで重要視される傾向が強い一方で、ARRは年契約の締結が多いビジネスで重要視される傾向があります。

ARRの計算式は以下のとおり非常に単純で、MRRが大きくなるにつれてARRも増加していく仕組みです。

  • ARR=MRR×12

SaaSビジネスを手掛ける企業が投資家から資金調達する際に行うバリュエーション算定において、ARRが活用されるケースが多く見られます。ARRがSaaSビジネスのバリュエーション算定に活用される主な理由は、以下の2つです。

  • 事業の成長性をチェックできる
  • 事業の将来性を予測できる

本記事で解説した施策を参考に自社のSaaSビジネスの成長をはかる指標としてARRを活用しましょう。

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