減資とは?理由、有償減資/無償減資のメリット・デメリット、手続きを解説
【目次】
減資とは?
減資(英語:Capital Reduction)とは、簡単に述べると、企業の資本金を減少させる手続きのことです。企業は株主から出資により集められた資金を運用して経済活動を行いますが、株主からの出資によって集められた資金のことを「資本金」と呼びます。減資は、このように株主から集めた資本金を減少させる手続きです。
減資を行う場合、あくまでも帳簿上の動きのみが生じ、実際に発行済株式の数が減少することはありません。減資の方法には、有償減資・無償減資・100%減資の3種類が存在します(それぞれの詳細は後述します)。
本記事のテーマの前提となる「資本金」については、以下記事で詳細に解説しております。事前に読んでおいていただけますと、減資についてより理解を深められます。
減資する3つの理由
本章では、減資を行う理由として代表的なものを、3つピックアップし解説します。
累積赤字の補てん
累積赤字の補てんとは、貸借対照表の資本金と繰越欠損金を相殺する行為をさします。累積赤字の補てんを行う主な理由は、「将来の配当原資を確保しやすくすること」「自社の貸借対照表の見た目を整えること」の2つです。
前者の場合、例えば、新規上場企業が上場前に創業期より累積してきた繰越欠損金と資本金を相殺することで、上場後の配当原資を確保しやすくなります。
後者の場合、企業の貸借対照表は上場・非上場を問わず、金融機関や取引先企業へ開示されることがありますが、このときに多額の繰越欠損金があると企業の安定性を疑問視されるおそれがあることから、貸借対照表の見た目を整えるために繰越欠損金と資本金を相殺するケースがあります。
株主への配当
これは、有償減資(実際に企業の資本金が減少する減資)を行う理由の1つです。有償減資を行った結果、剰余金が生じるため、利益が出ていない企業でも株主に対して配当を支払えます。
例えば、減資を行う前の状況が現預金12億円・負債4億円・資本金(純資産)8億円である企業において、株主に対して配当を支払うために2億円の減資を行ったケースを想定します。
有償減資では、実際に資金が減少するため、現預金と資本金がそれぞれ2億円ずつ減少します。その結果、企業の状況は、現預金10億円・負債4億円・資本金(純資産)6億円・その他資本剰余金2億円となるのが原則です。
節税
外形標準課税は、資本金が1億円超である法人(税制上の大企業)を対象とした法人事業税の課税方法の1つであり、その法人の産み出した付加価値額や資本金の額など、法人の外形的要素に着目して課税される税金です。給与支払額や支払賃借料などの一般管理費の支払いに対しても課税されるため、赤字決算でも法人事業税が生じてしまう点に悩まされることがあります。
しかし、上記の税制は、資本金が1億円以下の法人(税制上の中小企業)には適用されません。そのため、赤字企業では、資本金を1億円以下にすることで、課税額を抑えられる可能性があります。
ただし、黒字企業では、外形標準課税の適用の有無によって法人事業税の税率が変動することから、外形標準課税を適用した方が納税額を抑えられる可能性もあります。この点についての詳細は税理士に相談することが望ましいです。
資本金の減資で中小企業化する大企業
2019年末からの新型コロナウイルス感染症の流行による危機的状況が長引く中で、外出自粛や休業要請などの影響を受けやすい業種を中心に、大企業が「減資」を行って中小企業化する事例が増えています。
東京商工リサーチの調査によると、資本金1億円超から1億円以下に減資し、税制上の大企業から中小企業に扱いが変わる企業は、2020年度に997社(前期比39.4%増)と急増しており、2021年度も上半期(2021年4〜9月)だけで684社に上っています。
大企業が資本金を1億円以下に減資することで中小企業になれば、前述した外形標準課税の適用から外れます。
また、繰越欠損金を100%使用することが可能です。法人税制上、ある期に赤字(欠損金)が生じた場合、翌期以降に生じた黒字と相殺して課税所得を減額できます。この制度を「欠損金の繰越控除」と呼びます。課税所得から控除できる欠損金の額は、資本金が1億円超の企業では課税所得の50%までが限度です。その一方で、資本金が1億円以下の企業では、課税所得の全額を控除できます。つまり、資本金が1億円以下であれば、法人税等の負担については法人住民税の均等割額以外は生じないことになるのです。
その他にも、資本金が1億円以下の企業では、一定の要件のもとで以下のような税制優遇を受けられる可能性があります。
- 年間800万円までの交際費が損金の額として認められる
- 取得価額が30万円未満の減価償却資産について、損金の額への算入が認められる
- 課税所得のうち年800万円以下の部分について、法人税率が15%となる
- 試験研究費の税額控除、所得拡大促進税制、中小企業投資促進税制などについて中小企業向けの優遇措置が適用される
こうした背景があり、資本金の減資によって中小企業化する大企業が増えているのです。
参考:東京商工リサーチ「2021年度上半期は1,824社、前年度を大幅に上回るペースで推移 2021年度上半期「減資企業」動向調査」
中小企業庁「中小企業税制パンフレット(令和3年度版)」
減資の種類
前述のとおり、減資の方法には、有償減資・無償減資・100%減資の3種類があります。本章では、それぞれの概要およびメリット・デメリットを順番に解説します。
有償減資
減資のうち、実際に資金(財産)の減少が伴うものをさします。別名、「実質的減資」とも呼ばれます。
旧商法とは異なり、会社法では「金銭等を交付することで資本金を減少させる(従来の有償減資)」という概念自体がなくなったうえに、「減資を行うこと」と「金銭等を払い戻すこと」が個別の取引として扱われるようになったため、有償減資の名称は用いられていません。また、会社法では、「減資は資本金の額を減少させる手続き(従来の「無償減資」)である」と整理されました。
とはいえ、現在においても、資本金の額の減少とその後の剰余金の配当を一連の取引として実施すれば、従来の有償減資と同様の効果が得られることから、本記事では「実際に資金の減少が伴う減資」のことを有償減資と呼んで解説します。
会社法における減資の場合、減資を実施したままの状態では、資本金の減少分だけ「その他資本剰余金」が増加するのみであり、資本金と資本剰余金の合計額は変動しません。
そのため、従来の有償減資のように、減資によって株主に金銭を交付し資本金自体を減少させたい場合は、資本金の減少およびその他資本剰余金の増加が生じた後で、増加したその他資本剰余金を原資とした剰余金の分配を行う手続きによって、株主に払い戻しを行います。
メリット
有償減資を用いれば、株主(投資家)に配当を支払えます。投資家は、利益が見込まれる企業に対して出資を行うことがあります。なぜなら、経済活動を通じて利益が生じた企業の中には、株主に対して配当という形で還元を行う企業もあるためです。
このように配当を行っている企業でも、利益が発生しなかった場合は無配当となるのが一般的ですが、株主との良好な関係を継続するために、利益が出ていない状況でも配当を支払うことがあります。とはいえ、資本金から直接的に配当を支払うことは不可能であることから、減資によってその他資本剰余金を作り、その中から配当を行うことになります。
デメリット
有償減資を用いると、企業の資金が減少します。企業は株主から調達した資金をもとに、経済活動を行ったり、固定資産の購入などの将来を見据えた投資を行ったりします。
減資による資金の減少は、経済活動や将来への投資に充てられる資金の減少を意味するため、将来的に企業の成長性が低下するおそれがあります。
無償減資
減資のうち、資金(財産)の減少が伴わないものをさします。別名、「形式的減資」とも呼ばれています。主として、累積赤字の補てんや、節税などを目的に実施されます。赤字企業が無償減資を行う場合、資本金を取り崩し、欠損金の補てんに充てるのが一般的です。
メリット
無償減資をすると、資金調達を行いやすくなる可能性があります。過去に大きな赤字を計上したり、赤字の年が連続して続いたりした企業では、財務諸表に欠損金が溜まっていきます。一般的に繰り越された欠損金が多いと、金融機関からの融資を受ける際、不利に働くことがあると考えられています。
この欠損金は、黒字を計上する、もしくは資本金により補てんを行わないと相殺できません。そこで無償減資をすると、資本金を取り崩して欠損金を減少させられることから、金融機関から資金調達を行いやすくなる可能性があります。
また、無償減資をすると、節税につながる可能性もあります。これは、前章「減資する3つの理由」でも説明したように、資本金の額によって税制上の優遇策を受けられるかどうかが変わるためです。税制上、資本金1億円を超える大企業と1億円以下の中小企業では、1億円以下の中小企業の方が、さまざまな優遇措置を受けられる可能性があります。
そのため、資本金1億円を超えている企業が無償減資を行い、資本金を1億円以下にすることで、税制上の優遇策を受けようとする事例が増えています。
参考:企業会計基準委員会「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準 」 最終改正 平成27年3月26日
デメリット
無償減資を用いると、結果として企業の信用力が低下するおそれがあります。
企業の信用力は売上高・利益などさまざまな項目によって判断されますが、特に中小企業の場合は、資本金の金額が大きいほど信用力が高まる傾向にあります。
もともと、資本金の大きさによって、企業の信用力が直接的な影響を受けることはありません。なぜなら、資本金の額はあくまでも株主から出資を受けた金額に過ぎず、企業の財産は毎年の損益によって変動するためです。
実例を挙げると、企業調査機関である帝国データバンクでは、企業の評価基準として、業歴の長さ・企業財務の安定性・経営規模・損益状況・資金現況・経営者の人物像・企業活力などの項目を設けているものの、「資本金の大きさ」という項目を基準に含んでいません。
とはいえ、中小企業(非上場企業)では詳細な情報開示がされていないため、外部がその企業の信用力を判断する際、まず資本金の金額を参考にするというケースが珍しくありません。これは、ほとんどすべての企業がWebサイト・会社案内などで資本金の額を開示しているものの、売上規模・企業財産の状況など詳細な情報まで開示している中小企業は極めて稀であるためです。このことから、外部から企業を評価する際、資本金の額をもって企業の信用力を推測するしか方法がないことがあります。
以上のことから、無償減資によって資本金の金額が減少すると、「企業の信用力が低い」と判断する人が相対的に増えてしまうというリスクが生じるのです。
100%減資
財務的困難に陥った企業が無償減資を行うとともに、発行済み株式のすべてを消却する行為をさします。会社法の施行以前は、強制消却(株式を株主の手元に置いたまま消却する手続き)により、発行済み株式のすべてを消却することで減資を行っていました。
しかし、現在は強制消却の手続きがなくなり、「株式の消却」と「資本の減少」が個別の手続きとして区分されたことから、100%減資の手続きは「発行済み株式のすべてを一旦、全部取得条項付種類株式に変更したうえで、その全部取得条項付種類株式を無償で取得する」という手続きが採用されています。
なお、会社更生・民事再生のシーンでは、既存株式の100%減資と投資家に対する第三者割当増資が同時に行われることがあり、これら2つの手続きを含めた全体のスキームを100%減資と呼ぶことがあります。
メリット
100%減資と第三者割当増資をセットで行うスキームでは、まず発行済株式のすべてを全部取得条項付株式とし、この全部取得条項付株式を企業が取得します。これと同時に第三者割当増資を実施することで、無償減資により欠損金の補てんを実現しながら株主を刷新し、財務内容の抜本的な改善につなげられることから、企業再建の手段として用いることが可能です。
上記とは反対に、債務超過状態の企業が既存の株主を残したままの状態で新たな出資を受けて事業再生を図れば、その企業価値の増加による恩恵は既存株主にも及ぶことになります。この場合、新たに出資したいと考える投資家が現れないおそれがあることから、このスキームが採用されることがあるのです。
デメリット
100%減資は、既存株主の地位を消滅させる手続きです。既存株主からすると、その企業の株式を引き続き保有していれば、経営再建によって将来的に優良企業となった場合に、配当などの利益を得られる可能性があります。しかし、株主としての権利を奪われてしまえば、その機会が消滅してしまうため、この点にデメリットがあるといえます。
増資については、以下記事で第三者割当増資も含めて詳しく解説しておりますので、併せて読んでいただくとより理解が深まります。
減資の流れ
減資の手続きは、おおよそ以下のステップに沿って進められます。目安として、減資の効力発生日の2か月前から手続きに取りかかるのが一般的です。
ただし、株主総会の招集手続きを省略できない(例:株主全員から同意が得られない、書面または電磁的方法による議決権の行使ができる旨を定めた)場合は、さらに早期のタイミングから取りかかる必要があります。
- 株主総会の特別決議での承認
- 債権者保護手続き
- 効力発生日の到来
- 登記申請
①株主総会の特別決議での承認
減資を行う際は、原則、株主総会の特別決議(議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成を必要とする決議)において、以下の事項を定めて承認を受けなければなりません。
- 減資する額
- 減資する額の全部もしくは一部を準備金とする際は、その旨と金額
- 減資の効力発生日
ただし、定時株主総会で減資を決議する場合であり、なおかつ減資する額が欠損金の額を超えない場合は、普通決議での承認で足ります。
②債権者保護手続き
減資の債権者保護手続きでは、官報への公告と、知れている債権者への個別の催告を行う必要があります。なお、官報以外の公告方法(例:電子公告・日刊紙など)を定めている企業の場合、官報への公告の他に電子公告や日刊紙への公告をすることで、債権者への個別催告を省略できます。
債権者保護手続きでは、債権者が異議を述べられる期間を1か月以上設ける必要があります。また、官報の公告は掲載の依頼から掲載されるまでに2週間程度の期間を要することから、遅くとも減資の効力発生日の1カ月半前までに依頼しなければなりません。
③効力発生日の到来
債権者保護手続きの期間中に異議を述べた債権者がいなかった場合、株主総会で定めた効力発生日に減資の効力が生じます。
④登記申請
減資の効力発生日以降に、法務局にて登記申請手続きを行います。
減資の登記申請手続きを行う際の一般的な必要書類は、以下のとおりです(官報公告を行い、知れている債権者に個別催告を行ったケース)。
- 株主総会議事録
- 減資公告が掲載された官報
- 債権者への催告書
- 催告先一覧(債権者一覧)
まとめ
減資とは、企業の資本金を減少させる手続きのことです。一般的に、減資は、以下の理由を掲げて実施されます。
- 累積赤字の補てん
- 株主への配当
- 節税
近年は、特に節税面における効果の獲得を図って資本金の減資を行い、中小企業化する大企業が増加傾向にあります。
減資の方法には、有償減資・無償減資・100%減資の3種類が存在します。それぞれメリット・デメリットや活用されるシーンが異なることから、事前に特徴を把握したうえで実施を検討することが大切です。
一般的に、減資の手続きは、以下のステップに沿って進められます。
- 株主総会の特別決議での承認
- 債権者保護手続き
- 効力発生日の到来
- 登記申請
減資の効力発生日の2か月前から手続きに取りかかるのが一般的ですが、株主総会の招集手続きを省略できない場合は、さらに早期のタイミングから取りかかる必要があるため注意しましょう。