リーンキャンバスとは?簡単に起業・事業アイデアを可視化できるフレームワークを解説
【目次】
リーンキャンバスとは?
リーンキャンバス(英語:Lean Canvas)とは、「Runnig Lean(ランニング・リーン)実践リーンスタートアップ」の著者で起業家のアッシュ・マウリャ氏によって提唱されたフレームワークで、スタートアップのビジネスモデルを可視化するためのツールのことです。
リーンキャンバスは、ビジネスシーンで広く用いられている「ビジネスモデル・キャンバス」から、スタートアップには重要ではない項目が省略されており、よりスタートアップにとって重要な顧客・課題・製品などにフォーカスできるように設計されている点が特徴的です。
ビジネスモデルをA4用紙1枚程度のサイズ内に整理できるため、起業・事業アイデアを可視化し、検証・改善するうえで役立ちます。
リーンキャンバスの項目と記載する順番は、上図のとおりです。
リーンキャンバスのメリット
本章では、リーンキャンバスを用いて起業・事業アイデアを整理する代表的なメリットとして、5つをピックアップし紹介します。
短時間で作成可能
冒頭で示した図のとおり、リーンキャンバスの構成は非常にシンプルであり、誰でもすぐに理解して短時間で作成できます。一般的に、リーンキャンバスは、10分程度の時間があれば作成できると考えられています。
ブラッシュアップがしやすい
短時間で作成できるために、ブラッシュアップを行いやすい点もリーンキャンバスを用いるメリットの1つです。ブラッシュアップを行いやすいため、起業・事業アイデアの仮説検証前の段階から各項目の真偽にこだわらなくて良いだけでなく、すべての項目を埋める必要もありません。
もともと初期段階の起業・事業アイデアは、仮説検証を経て、高確率で修正されます。そのため、初めから時間をかけて精緻な事業計画書を作成するのは非効率的です。また、アイデアの仮説検証前の段階で精緻な事業計画書を完成させてしまうと、自分本位の事業になりやすく、顧客のニーズと乖離した製品を開発・提供して事業の失敗につながるおそれがあります。
その一方で、リーンキャンバスを用いると、まずは起業・事業アイデアの土台となる「顧客の課題」「顧客セグメント」「価値提案」などの項目を埋めておくだけで、その後は仮説検証の結果に応じてブラッシュアップを繰り返すことが可能です。これにより、顧客のニーズと乖離した製品に対して無駄な費用・時間を費やすことを防げて、事業の成功確率を高められます。
網羅的にビジネスモデルを可視化できる
リーンキャンバスを用いれば、チーム全体で容易かつ網羅的に自分たちのビジネスモデルを把握できます。つまり、チームにおいて共通言語のような機能を果たすことが期待されるのです。
これにより、メンバー同士が効率的なコミュニケーションを取れるようになり、「自分たちが現在どのような仮説を立てていて、どこに向かっているのか」といったことに対する迷いを払拭できます。
上記のメリットを最大限に得るためにも、リーンキャンバスの作成や見直しの作業は、創業者が1人で行うのではなく、チームメンバー全員を巻き込んで行うことが望ましいです。
理解しやすい
リーンキャンバスでは、A4サイズ1枚程度に起業・事業アイデアの要点を見やすく整理できるため、社内外の関係者に対して自社製品の本質的価値をわかりやすく簡潔に伝えられます。
また、顧客にアンケートやインタビュー調査を実施する際、リーンキャンバスをもとに企画書を作成すれば、製品の内容を簡単に理解してもらえます。これにより、顧客調査のフィードバックがより明確に返ってくるため、PDCAサイクルを回しやすくなります。
メンバー間で目線を合わせやすい
リーンキャンバスは共通言語として機能することから、メンバー間で目線を合わせやすくなる点もメリットです。
アメリカの起業家であるスティーブ・ブランク氏が著書『ザ・スタートアップ・オーナーズ・マニュアル』において、「ビジネスモデルとは何かと10人に尋ねたら、常に10通りの答えが返ってくる」と述べているように、ビジネスモデル自体の定義は人によって認識が異なります。仮にメンバー同士が異なる認識や前提条件を持っていたら、議論が平行線をたどってしまい、効率的な組織活動に支障が出るおそれがあります。
その点、リーンキャンバスには「誰がどんな痛みのある課題を持っているか」が中心に記載されているため、チーム全員で作成・共有しておけば、それぞれ異なる認識を持つメンバー同士の目線を合わせやすくなります。これにより、コミュニケーションや組織活動の効率化につながるのです。
メンバー間での共有を促進するためにも、メンバー全員が確認しやすい場所にリーンキャンバスを設置しておくことが望ましいです。
リーンキャンバスの書き方
実際に記載を行う順に、リーンキャンバスの書き方を解説します。
- 顧客の課題
- 顧客セグメント
- 価値提案
- ソリューション
- チャネル
- 収益の流れ
- コスト構造
- 主要指標
- 圧倒的な優位性
各項目の内容を把握し、順番に沿ってリーンキャンバスを埋めていくと良いでしょう。
①顧客の課題
自社のスタートアップが解決を図ろうと考えている顧客の課題(仮説)を記載します。ここで書き込む課題は、顧客へのアンケート・インタビューなどの対話を通じて検証するものであるため、真偽にこだわって多くの時間をかけないようにしましょう。
課題が複数ある場合は、より重要であると考えられるものを3つまでに絞って記載することが望ましいです。
②顧客セグメント
これは、「どのような顧客の課題を解決するか」を特定するための項目です。
顧客セグメントを記載する際のポイントは、アーリーアダプター(情報感度が高く、日常的かつ積極的に課題に対する代替案を探している人)を狙うことです。今後、起業・事業アイデアを正しい方向に軌道修正していくためには、アーリアダプターからのフィードバックが重要な役割を担うと考えられています。
なお、顧客セグメントを記載する際は、「30代女性」といった大雑把な書き方ではなく、より臨場感があるペルソナ(仮想的な人物像)を検討することが大切です(例:料理、カフェ巡り、ランチが趣味の30代女性)。
③価値提案
「課題に対して、自社の製品がどのような独自の価値を提供できるのか」を記載します。言い換えると、「自社製品の最も大きなウリはなにか」を記載する項目です。
一般的に、これまでの3項目が、起業・事業アイデアの土台を構成すると考えられています。これらの項目を埋めた後は、それを実現するための具体的な施策の仮説を記載する流れです。
④ソリューション
課題に対する具体的な解決方法を書きます。複数存在する場合は、より有力であると考えられる上位3つを記載すると良いでしょう。アイデアの仮説検証前の段階では、課題の正確さは検証できていないケースがほとんどであるため、解決方法の詳細にこだわる必要はありません。
⑤チャネル
チャネルとは、顧客と自社が接点を持つための経路のことです。一般的に、スタートアップにチャネルの選択肢はそれほど多くないため、アイデアの仮説検証前の段階では「どうすれば顧客と直接対話できる機会を増やせるか」を検討し、記載すると良いでしょう(例:SNSでのコミュニティー、セミナーや展示会などイベントの開催)。
⑥収益の流れ
この項目では、起業・事業アイデアについて、いかなる収益モデルを採用するのか検討し、記載します。「単価」「人数」「顧客1人あたりの利益の累積」「粗利益」などの想定に加えて、「1度の取引で見込まれる収益」をシミュレーションできるように記載しておくことがポイントです。
⑦コスト構造
実際に製品を市場に出すまでにかかる費用の金額(例:顧客獲得費用、流通費用、サーバーの管理費用、人件費など)を記載します。この項目は、とりわけ初期費用として大きな設備投資が求められるビジネスモデルを検討している場合に重要です。
⑧主要指標
スタートアップがPMF(顧客の課題を満足させる製品を提供し、それが適切な市場に受け入れられている状態)に到達するために計測すべき定量的指標(KPI)を想定し、記載します。
アイデアの仮説検証前の段階では、採用すべき指標を明確化しにくいため、省略しても問題のない項目だといえます。なお、汎用的に用いられる指標の例としては、AARRR指標(海賊指標)が挙げられます。AARRR指標では、MVPの提供を通じた「カスタマーの獲得」から「収益の発生」までを5段階に分け(下図ご参照)、各段階のカスタマー数を計測します。
一般的に、PMF達成前のスタートアップにとって特に重要なKPIは、自社の製品に触れた顧客が実際に製品を使用する割合(アクティベーション)と、再利用する割合(リテンション)であると考えられています。
PMFおよびAARRR指標の詳細については、以下の記事で解説しています。併せてお読みいただくと、スタートアップがリーンキャンバスを用いる重要性を理解できますので、ご一読ください。
⑨圧倒的な優位性
競合に対して、製品以外の分野で自社が圧倒的に優位であると考えられる箇所を記載します(例:顧客情報、専門家の支持、人脈ネットワークなど)。
なお、この項目が重要な役割を担うタイミングはPMFを達成し事業を拡大していく時期であるため、アイデアの仮説検証前の段階で埋められなかったとしても問題はありません。
まとめ
リーンキャンバスとは、スタートアップのビジネスモデルを可視化するためのツールのことです。ビジネスシーンで広く用いられている「ビジネスモデル・キャンバス」から、スタートアップには重要ではない項目が省略されており、よりスタートアップにとって重要な顧客・課題・製品などにフォーカスできるように設計されています。
リーンキャンバスでは、ビジネスモデルをA4用紙1枚程度のサイズ内に整理できるため、起業・事業アイデアを可視化し、検証・改善するうえで役立ちます。そのほか、「ブラッシュアップがしやすい」「メンバー間で目線を合わせやすい」などのメリットも見込めます。
リーンキャンバスは、以下の順番で記載していくことで作成できます。
- 顧客の課題
- 顧客セグメント
- 価値提案
- ソリューション
- チャネル
- 収益の流れ
- コスト構造
- 主要指標
- 圧倒的な優位性
リーンキャンバスを活用し、自社の事業内容を俯瞰的な視点で整理してみましょう。
DEEPTECH DIVE
本記事を執筆している東京大学協創プラットフォーム開発株式会社(東大IPC)は、東京大学の100%出資の下、投資、起業支援、キャリアパス支援の3つの活動を通じ、東京大学周辺のイノベーションエコシステム拡大を担う会社です。投資事業においては総額500億円規模のファンドを運営し、ディープテック系スタートアップを中心に約40社へ投資を行っています。
キャリアパス支援では創業期~成熟期まで、大学関連のテクノロジーシーズを持つスタートアップへの転職や副業に関心のある方とのマッチングを支援しており、独自のマッチングプラットフォーム「DEEPTECH DIVE」を運営しています。
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